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中ボス魔族に転生した俺、ラストエンディング回収のため密かに勇者を手助けするはずが、ハズレ天職から超進化した『支配の魔王』で無双してしまう  作者: 藤枝止木
1章 カオスマキアの世界

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第010話 まずは胃袋を掴むべし


 騎士に案内され、俺とラミルル、ベルの三人は隣の天幕に足を踏み入れた。すると……


「ふぐっ、負けたぁ……よりによってオークなんかにぃ……! うぐっ、えぐぅっ……わ〜〜〜〜んっ!」


 天幕の中では、ヒューマンの勇者アンジェリカが号泣していた。

 鎖に繋がれた状態で力無く座り込み、小さな子供のように涙と鼻水で顔を汚している。

 あんなに泣かれると流石に罪悪感がある……ちらりとラミルル達の方を窺(うかが)うと、彼女達も気まずげにしていた。

 

「そうだにゃあ。悔しかったよにゃぁ。よしよし」


「アンジェ、あれは負けて当然です。仕方なかったんですよ」


 アンジェリカの両隣には、ハーフビーストの斥候ミネットと、ハーフフットの神官ソフィーも拘束されている。

 二人はアンジェリカに寄り添い、手慣れた様子で慰めていた。どうやら彼女達にとっては珍しいことではないらしい。

 主人公である勇者の性格は、プレーヤーの選択次第でかなり変わる。なので俺は、このアンジェリカがどんな性格なのか全く知らなかった。

 とりあえず、異常に負けず嫌いらしいことは分かった。


「ごほん……」


「「……!」」


 わざとらしく咳払いすると、三人が一斉にこちらを振り返った。

 アンジェリカはすぐに涙を拭き、憎悪の表情で俺を睨みつける。


「お前……! 村を襲っただけじゃなく、僕らにこんな辱めを……許さないぞ……! 絶対にだ!

 ——って、あれ……? 肌の色が違う……おでこにもなんか埋まってるし……昨日のオークじゃないの……?」


「いや、俺様が貴様を叩きのめしたオークで合っているぞ。成長期でな。今朝起きたらこうなっていたのだ。まぁ気にするな」


「成長、期……? ば、馬鹿にするな! お前、一体何歳なんだよ!」


「15歳だ」


「「え……!?」」


 俺の言葉に、勇者達が驚いた表情で顔を見合わせる。

 え、俺ってそんなに老けて見えるの……? ま、まぁ、そんなことは良い。

 俺は今日、彼女達と大事な話をしに来たのだ。


 俺の目的はこの世界のラストエンディングを拝むことだ。

 しかし彼女達にとって俺は侵略者なので、表立って助言しても反発されてしまう。

 だから俺は、彼女達の魔王討伐をこっそりと手助けする必要がある。

 ——まぁ、なんか今朝起きたら俺も魔王になってたんだけど……ほんと、これからどうなってしまうんだ……?


 ともかく今日の目標は、勇者達が俺の下で修行するよう仕向けることだ。

 原作通りにことが進むなら、今から一ヶ月後、勇者達は強敵と対峙することになる。その戦いに備えてしっかり鍛えなければ。

 彼女達と和解できれば話は早いんだけど……勇者の過去を考えるとかなり難しいだろう……


「さて、貴様らにはまだ名乗っていなかったな——」


 俺は自分の名前と立場、そしてラミルルとベルについて簡単に紹介した。


「あ、どうもだにゃ。ウチはミネット。この村の自警団みにゃらいってとこかにゃ? ま、おみゃーらにあっさり負けちゃったけどにゃ」


 俺の名乗りに応えたミネットが、鎖に繋がれたままにゃははと笑う。

 村を制圧した敵に対してこのフレンドリーさ……原作でも超人懐っこいキャラだったけど、この世界でもそれは変わらないらしい。

 

「デュフフ……ミネットよ。言葉遣いはともかく、貴様は礼儀を知る者のようだな」


 俺がそう言うと、今度はソフィーが気まずげに口を開いた。


「——失礼しました。神官見習いのソフィーです」


 彼女が発した言葉は少なかったが、その目は忙(せわ)しなく動き、俺達を具(つぶさ)に観察している。

 原作の彼女は好奇心と知識欲がとても強かったが、それは健在のようだ。


「うむ。それで……?」


 俺は次にアンジェリカへ視線を向けたが、彼女はこちらを睨むばかりで名乗ってはくれなかった。


「あー、ごめんにゃデュラン。こいつアンジェリカっていうにゃけど、ちょっとオークが苦手なんだにゃ……」


「ほう、そうか……」


 すまなそうに教えてくれたミネットに、俺は短くそう応えた。

 だが俺は知っている。勇者アンジェリカは魔族を……特にオークを憎悪しているのだ。

 彼女がまだ小さい頃、故郷の村をオークに滅ぼされ、両親もその時に命を落とした。

 その後彼女は生き残った大人達に連れられて、このコルマールの村に移り住んだ。

 もし俺がアンジェリカの立場だったら、その第二の故郷を再び侵略したオーク……つまり俺を、決して許しはしないだろう。やはり、和解は無理か……


 グゥー……


 その時、勇者達のお腹が一斉に鳴った。全員が恥ずかしそうに頬を染めている。

 無理もない。彼女達は昨日の夜から何も食べていないのだ。


「ふむ。まずは朝食にするか」

 

 俺はラミルルに頼み、ある料理を天幕に運び込んでもらった。

 そして机にその料理を配膳すると、勇者達の拘束を外して席に座らせ、俺達もその対面に座った。


「——な、なんだこの汚らしい料理は……! 魔族の呪いの料理か!?」


 するとアンジェリカが早速文句を言ってきた。

 だが彼女の目は、自分の前に置かれた一皿に釘付けになっている。


 その料理は、皿の片側に白く艶やかな米が山と盛られ、もう片側には豊富な具材の入った茶色いソースが注がれたものだった。

 確かに初見だと、その見た目から食べるのを躊躇う人もいるだろう。

 けれどこの食欲を刺激するスパイスの香りには、大抵の人間は抗うことはできないはずだ。


「デュフフ……珍しかろう。これは大陸外から伝わった至高の料理、カレーライスだ」


 カレーには何種類ものスパイスが必要だし、何より米が必須だ。

 うちの領にそんなものは存在しなかったのだけれど、仲間にしたとある魔物のスキルのおかげで揃えることができた。

 ちなみにスパイスの配合比は俺のオリジナルだ。前世でスパイスからカレーを作るのにハマっていた時期があって、その経験が生きた形だ。


「では、冷める前に食すとしよう。暗黒神エレボロスよ、今日の糧に感謝を。いただきます」


「いただきます!」


「ワオン!」


 俺の挨拶にラミルルとベルも続き、揃ってカレーを口にした。

 すると、複雑なスパイスの香りが鼻を抜け、野菜や肉の濃厚な旨み、米の甘みが口の中いっぱいに広がった。


「うむ、美味い……! ラミルル、また腕を上げたな」


「ふぁい! ふぁりがほうごじゃいまふっ!」


 俺の賛辞に、ラミルルがカレーを口に含んだまま嬉しそうに応える。ちょっとお行儀が悪いけど可愛いから良し。

 視線を勇者達の方に移すと、彼女達はまだ手をつけていなかった。


「どうした、貴様らも食すがいい」


「い、いいのかにゃ……!? じゃあ遠慮にゃく! うはー、うんまそーだにゃ!」


「こんな料理初めてです……! 光輝神ライテールよ。恵みに感謝いたします!」


「ふ、ふん。こんな料理、美味しいわけが……」


 勇者達は三者三様にカレーを食べ始めたが、その後の反応は一緒だった。


「「……!」」


 彼女達は揃って目を見開き、欠食児童のような勢いでカレーをかき込み始めた。

 いや、実際そうなんだろう。彼女達はかなり痩せているように見える。

 ここの領主は典型的な悪徳領主で重税を課しているので、食料事情はかなり厳しいはずだ。


「「あ……」」


 そんな勢いで食べていたので、勇者達のカレーは一瞬で無くなってしまった。

 

「デュフフ……どれ、皿をよこせ」


 勇者達がおずおずと差し出してきた皿に、俺は大盛りでカレーをよそってやった。

 彼女達は嬉しそうにそれを受け取ると、再びすごい勢いでかき込み始めた。

 本当にいい食べっぷりだ。なんだかこっちまで笑顔になってしまう。

 そうする内に大鍋に作ったカレーは無くなり、天幕の中には食後のまったりとした空気が流れ始めた。


「どうやら満足してもらえたようだな」


「うにゃー、大満足だにゃ! 流石にもーなんもはいんにゃいにゃぁ……」


「はい……幸福とは食べることと見つけました……」


「——まぁ、不味くは無かったさ……」


 そう応えた勇者達のお腹は、ぽっこりと膨らんでいた。

 ちょっと食べさせ過ぎか……? めちゃくちゃ幸せそうに食べるから、つい……


「それはよかった。では食事も済んだことだし、このコルマール村の今後について話しておこう。

 他の村人達にはすでに告げたが、この村は俺様が占領し、領地とした。

 周辺のいくつかの村も占領済みだ。つまり、この辺り一帯はもう魔界ということだな」


「「……!」」


 血糖値爆上がりで眠そうにしていた勇者達が、俺の言葉に表情を強張らせた。俺はなるべく落ち着いた声色で話を続けた。 


「だが安心しろ。命と生活の安全は保障する。貴様らにとっては税の納め先が変わるだけだ。無駄に重かった税率も下げよう」

 

「んー……? にゃんかそれ、いい話っぽく聞こえるにゃ。ソフィー、どう思うにゃ?」


「え、ええ。占領された村にしては破格の高待遇だと思います。ですが……」


 ミネットが不思議そうに首を傾げ、ソフィーが緊張の面持ちで俺を見る。神官である彼女の心配事は一つだろう。


「デュフフ……心配するな。税さえ納めていれば、貴様らがどの神を信仰しようと俺様の知ったことではない」


「え……!? そ、そうですか……てっきり暗黒神を崇拝するよう強要されて、逆らえば殺されるものと……」


「そんな無駄なことはせん。殺したら労働力が減るではないか」


「それは……合理的に考えるとそうですが……」


「ソフィー、まさかこのオークの言うことを信じるのか!?」


 納得の表情を見せたソフィーに対し、アンジェリカは強硬な態度を崩さない。

 彼女の立場ならそう言うだろう。口元がカレーで汚れているせいで、いまいちシリアス感が出ないけど。


「信じずとも良いが、次が本題だ。貴様らはこの俺様に公然と反抗した。ここを統治する上で、このまま無罪放免とするわけにはいかん……」


「……! 卑劣なオークめ……! やっぱり僕らを殺す気だな!」


「い、いえ、アンジェ。恐らく、放免するには何か対価が必要だと言っているんです」


「お、そうにゃんか? うまいもん食わしてくれたからにゃあ。ウチ、にゃんでもやるにゃよ!」


 アンジェリカはともかく、他の二人は俺の話に前向きなようだ。

 上手くガイドできそうな雰囲気に、俺は思わず満面の笑みを浮かべた。

 

「デュフフ……よかろう。では、貴様らの体で支払ってもらおうか」


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