第六話 エンド3
四階の暗闇の中、佐伯が懐中電灯をかざすと、シュレッダーのダストボックスから赤黒い液体で濡れた無数の紙の帯が溢れ出していた。
それらはまるで生き物の触手のように床を蠢き、まっすぐに佐伯へ向かって這ってくる。
「くっ……!」
逃げようとしたが、濡れた紙の帯が足首に力強く絡みついた。紙とは思えないほど重く、冷たく、皮膚にベタリと張り付いて離れない。
シュレッダーの本体が激しく振動し、投入口からじわじわと「それ」が現れた。
全身が赤く染まった紙切れで構成された、人の形をした異形。顔に巻き付いた紙くずには、五年前の失踪事件を報じる新聞記事の文字と、今夜の佐伯の巡回スケジュールが重なり合って印字されていた。
異形は細い紙の手をゆっくりと伸ばし、擦れた声で囁いた。
『次は……お前の番だ……』
シュレッダーの刃が逆回転を始め、強力な吸引力が佐伯の足を投入口へと引きずり込んでいく。靴底が金属刃に接触し、バリバリと削れる嫌な音が響いた。
――刃の回転音が目前に迫る。
鋭い刃が靴底を破り、足首に痛みが走った瞬間、佐伯は生存への本能で胸ポケットの金属製ペンライトを引き抜いた。
「うおおおっ!」
叫びとともに、回転する刃の隙間へペンライトを全力で突き刺す。
ガギィン!
凄まじい金属音と火花が散り、硬いペンライトを噛み込んだシュレッダーの刃が強烈な衝撃でロックされた。内部から黒い煙が立ち上り、佐伯を縛り付けていた紙の手が力を失って崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……!」
佐伯はボロボロになった靴を脱ぎ捨て、解錠された扉を押し開けて夢中で逃げ出した。
翌日、佐伯は辞表を提出した。二度とあのビルには近づかないと誓い、人通りの多い街のアパートへ引っ越し、静かな生活を始めた。
それから一週間後の夕方。
新しい職場の仕事からの帰り、アパートの郵便受けを開けた佐伯は息を呑んだ。そこには差出人不明の厚みのある封筒が入っていたのだ。
部屋に入り、震える手で封を切ると、中から溢れ出してきたのは短冊状の細長い紙切れだった。
よく見ると文字が印字されている。
嫌な汗を流しながら、佐伯はパズルのように紙片を床に並べて組み合わせていく。そこに印字されていたのは、信じがたい文章だった。
『18時05分、郵便受けを開ける』
『18時10分、紙片を並べて青ざめる』
『18時15分、背後の押し入れから音が聞こえる』
佐伯が愕然として時計を見上げると、針がちょうど18時15分を指した。
ギシ……と、背後の押し入れの引き戸が、ゆっくりと開き始めた。
『シュレッダー』 ― Horror End:追跡 ―




