第五話 エンド2
四階の暗闇の中、佐伯が懐中電灯をかざすと、シュレッダーのダストボックスから赤黒い液体で濡れた無数の紙の帯が溢れ出していた。
それらはまるで生き物の触手のように床を蠢き、まっすぐに佐伯へ向かって這ってくる。
「くっ……!」
逃げようとしたが、濡れた紙の帯が足首に力強く絡みついた。紙とは思えないほど重く、冷たく、皮膚にベタリと張り付いて離れない。
シュレッダーの本体が激しく振動し、投入口からじわじわと「それ」が現れた。
全身が赤く染まった紙切れで構成された、人の形をした異形。顔に巻き付いた紙くずには、五年前の失踪事件を報じる新聞記事の文字と、今夜の佐伯の巡回スケジュールが重なり合って印字されていた。
異形は細い紙の手をゆっくりと伸ばし、擦れた声で囁いた。
『次は……お前の番だ……』
シュレッダーの刃が逆回転を始め、強力な吸引力が佐伯の足を投入口へと引きずり込んでいく。靴底が金属刃に接触し、バリバリと削れる嫌な音が響いた。
――刃の回転音が目前に迫る。
鋭い刃が靴を切り刻み始めたその時、佐伯は怯まなかった。懐から取り出したのは、昼間探し出した五年前の裏帳簿のコピーだった。
「お前が残したかったのは、これだろ! 奪われた無念を、これで果たせ!」
佐伯は叫びながら、束にした紙を怪物の胸元へ強く押し付け、そのままシュレッダーの投入口へ力任せに叩き込んだ。
ガガガガガガッ!
機械が猛烈な音を立てて裏帳簿を噛み砕く。
すると、足首を締め付けていた紙の帯が不意に力を失った。暗闇に響いていた呪詛の声が、安らぎを含んだ長い吐息へと変わっていく。
投入口に吸い込まれていく帳簿とともに、紙でできた怪物の身体がパラパラと解け、ただの白い紙片となってフロア全体へ舞い散っていった。
やがて機械の回転音が止まり、静寂が四階を包み込む。
翌朝、シュレッダーの脇には裁断された裏帳簿のデータが完全に復元された状態でUSBメモリに残されていた。佐伯がそれを警察へ提出したことで、五年前の事件は再捜査となり、不正に関わった会社幹部らは一斉に逮捕された。
怨念から解放されたオフィスで、佐伯は今も警備員としての日常を守り続けている。
『シュレッダー』 ― True End:真相解明 ―




