↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無から無へ  作者: イプシロン
Ⅵ 停戦協議
PR
49/55

#49 エンカウンター――自分

 アラバマに着いたエイミーは二か月滞在する予定で、木賃宿を仮泊の場所にした。

 はじめの五日間ほどは部屋に籠もって情報収集に費やした。

 パヴリーン・スタウロスについては、以前ワイフィーにデータ収集を依頼したことがあったが、それ以降なんの返答もなかったからだ。

 フイデースとの生活のなかで、ワイフィーが集めたものを利用して情報屋をはじめた経緯からしても、それは異常なことといえた。

 エイミーがテライダを守るために幽閉して、秘密結社員との物理的接触を断ったとはいえ、結社員からの情報が滞ることはなかった。むしろ戦争がはじまって以降、テライダ自身が情報を整理しなければ、パンクするほどの情報が集まっていた。

 こうしたことから、エイミーはすべてを自力で調査することになった。

 しかし、六十七もある郡のすべて調査する余裕はなかったので、彼女はすぐにコロラドに飛んで、ティシアー・スタウロスの両親から話を聞いた。

 ところが、スタウロスの父と母はなにも知らなかった。

 もちろん、ティシアーとパヴリーンが従姉であることは、ほぼ間違いないようだった。だが、どういうわけか、パヴリーンから送られた絵葉書には彼女が写っているものが一枚もなかった。

 また、パヴリーンという名前が本名でない可能性も浮上したが、エイミーは、

「そうですか、わかりました。では、わたしのほうで、できることをしてみます」

 といってティシアーの両親を悲しませないために、偽名の可能性を胸に秘めたまま、アラバマに戻った。

(なににしても、手がかりはパヴリーンという名前以外にない。ならモンゴメリー、バーミンガム、ハンツビル、モービルの四大都市圏から攻めるしかないわね……)

 そう考えて役所に連絡を入れ、必要な場合は庁舎を訪ねてティシアーの従姉を探した。

 コロラドの両親から見せてもらった絵葉書にある写真の風景は、ハンツビル近郊が多かったので、エイミーはそこに目星をつけたが、結局なんの手がかりもないまま一か月が過ぎた。

 彼女はそれでも諦めずに、今度は年月の枠を広げることにした。

 ハンツビルにおける過去百年の出生記録をすべて洗い出しにかかったのだ。

 しかし、似たような名前はあってもパヴリーン・スタウロスという名前を見つけ出すことはできなかった。

 エイミーは焦り、猜疑に駆られはじめた。

(だとしたら、誰かが嘘をついているってこと? じゃあやっぱり、ティシアーがわたしを助けたいがために、嘘をいったとでも?……。いや、そんなことはありえない。彼のいった姉さんは実の姉ではなかったけど、それはわたしが勝手に取り違えただけ。――それに、ご両親にだって嘘をいう理由なんてない……じゃあ、わたしの調べかたがいけないとしか……)

 彼女はいまいちどコロラドの両親とあったときに、携帯電話で撮影させてもらった絵葉書の画像を、一枚一枚確認しはじめた。

 すると、ハンツビルやバーミンガムといった航空宇宙や経済や工業の中心ではなく、自然豊かなデカルブやフランクリン、ウィンストンやクレバーン郡の写真があることに気づいた。

(そうか……パヴリーンは恐らくハンツビルで産まれたんだろうけど、自然が好きな人だった。そう考えることはできそうね)

 こうしてエイミーは新たな目星をもとに調査をつづけた。

 だが、彼女はもはやパヴリーンに会えることはないと、心のどこかで諦めはじめていた。


 ちょうどそのころ、北軍とシードーラもまた焦りと猜疑に駆られていた。

 北軍の第六艦隊は、これまでもシードーラが宣言した新国境線の内側に侵入し、何度も鍔迫りあいを行ってきた。だが、北軍もシードーラも決定的な政治的影響力を得られていなかった。

 そうした事情からか、両者とも近く積極的な行動に出ると見積もられていた。

 北軍はこれまで以上に拡充した戦闘機や索敵機、早期警戒機を投入して、新国境線の懐に飛び込む算段だった。

 対するシードーラは、その北軍を迎え撃ち、第六艦隊の基幹である宇宙空母に、今度こそは一撃を加えんと手ぐすね引いて待っていた。また、シードーラのプリエームニク最高指導者は、そうした表面的な実力行使策だけでなく、東軍や友好勢力との連携を強化するために統一機構をもうけようと、会合の開催に積極的だった。

 そして衝突は起こった。

 北軍は万全の警戒体勢を敷いてシードーラの新国境線を超えると、これまで以上に傍若無人な振る舞いに出た。

 対するシードーラは、このときプリエームニク最高指導者は統一機構をもうけるための会合で、外遊中だったといわれているが、それが事実かどうかはわからない。

 ともかくも、北軍とシードーラは激しく軍事力をもって激突したのだ。

 北軍第六艦隊の宇宙空母へ突入を試みたシードーラの戦闘機は、都合で約百機を超えた。だが、最高指導者なきシードーラの現場指揮官や実働部隊には躊躇があった。無論、士気旺盛な部隊もあって、それら部隊の戦闘機隊は第六艦隊のすぐ傍まで接近したが、一発の弾丸もミサイルも発射することはなかった。いや、見方を変えればできなかったともいえた。

 このときプリエームニク最高指導者がいて、彼が指揮を取っていれば攻撃するにしても、しないにしても、命令系統に混乱はなかったといえる。だが、彼は外遊中だったとされている。

 逆にいえば、最高指導者が不在の場面で攻撃を躊躇えば臆病者の烙印を押され、攻撃して失敗すれば独断専行と罵られる対象になったとするなら、現場と司令部の伝達経路の重要さが見えてくるのかもしれない。

 しかし、功を焦ったのかあるいは恐れをなしたのかはわからないが、シードーラのある戦闘機編隊は、戸惑うことなく北軍戦闘機に対してミサイルを発射した。

 北軍の最新鋭戦闘機はすぐにレーダーでそのことを知ると、緊急回避しつつ反撃許可を司令部に求めた。

「ファナティック・エンカウンター102より司令部(H Q)へ。攻撃を受けた。これは事実だ。即時反撃の許可を求める。――さっさとしてくれ! こっちは回避で忙しいが、一発ぶちかましてやらないことには、腹がおさまらん!」

「ファナティック・エンカウンター108より司令部へ。状況は108も同じだ。あっちのミサイルはどうやらヘタレだったようで、こっちのケツには喰いつかなかった。けど、俺のケツを狙ったのは事実だ! ケツを蹴り上げる許可をくれ」

 興奮して早口でまくしたてるパイロットからの無線を受けて、司令部はすぐに攻撃許可を出した。

 そもそも、こうなることを予想して準備していなければ、ありえないくらい早い対応だった。

 しばらくすると、パイロットの歓声が飛び込んできた。

ひとつ飛び散った(スプラッシュ・ワン)! 120、敵機撃墜を確認! パイロットも粉々だろう。脱出は確認できてない」

「仕事が早いな102。こっちはいまからだ。レンジに入った。――ミサイル発射(フォックス・ツー)!」

「司令部より102。早期警戒機からのレーダー情報で、こっちも撃墜を確認した。――以上」

もうひとつ飛び散った(スプラッシュ・ワン)! 108、敵機撃墜を確認! こっちのパイロットは臆病風に吹かれたらしい。脱出を確認した。――多分、相手の機種は……」

 耳にザラザラする無線はときどき途切れたが、核心部分は両軍とも聞き取れたようだった。

 また、撃墜されたシードーラの一機は、この激突に加わっていなかった南軍の基地に墜落して炎上した。

 その事実はニュースで報道され、月を故郷とする人々を戦慄させた。

 それが原因となって、月の各勢力が全面戦争になる恐れがなくはなかった。

 だが、当然そうしたことも考慮していたのか、勝ち星をあげた北軍も惨敗を喫したシードーラも、厳重な情報統制を敷いて事件の拡大を防いだ。

 こうして月を故郷とする人々は、ひとまず胸を撫で下ろすことができた。


 一方、エイミーのパヴリーン・スタウロス捜索は難航し、行き詰まっていた。

 絵葉書にあった自然豊かな土地、デカルブやフランクリン、ウィンストンやクレバーン郡での、過去五十年間にわたる出生記録の調査も空振りだった。

 もとより、観光で訪れたことはあっても、出生地ではなかろうと予測していたエイミーは、それほどショックを受けずに、水と緑の溢れる風土をあちこち廻ったあと木賃宿に帰ってきた。

(もはや絶望的かもしれない……なら、最後の手段ね。それにフーディとの約束の期間も迫ってる。地球に来るのもこれが最後かもしれないから、すこしくらい観光気分で歩き回っても、ティシアーもパヴリーンも怒ったりしないと思う)

 エイミーはそう心を決めると、ハンツビルへ向かったのだった。

 そこは、かつて彼女が十二年間を過ごした、国際宇宙機構本部ビルのある街だった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。