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第9話 鈴ねーと一緒のダンジョン配信2

 

 そうやって鈴ねーと一緒にきたダンジョン『悲嘆の白い獣ダンジョン』。

 そのダンジョンについた僕が見たのは、その名に相応しく真っ白な――。


「……ウサギ?」

「違うよ。モンスターだよ」

「いや、これどこをどう見てもウサギでしょう?」


 白くてモフモフして丸々とした。うちの学校の飼育小屋でも飼っているからこれくらい知っているぞ。なんなら前世ではよく焼いて食べていたし。


 そんなことを考えながら疑わしい目で鈴ねーを見ていると、ドヤ顔でやれやれと首を振った鈴ねーがウサギを捕まえ、その頭に僕の手をそっと乗せた。


「ほら、普段見るウサギとは違うでしょ?」

「あっ。本当だ。角がある」


 たけのこの形をしたお菓子くらいのサイズだけど、ちゃんとウサギの頭に角があった。

 だけどどう考えても悲嘆の白い獣と呼ばれるモンスターだとは思えないんだけど。


「ねえねえ、リンネお姉ちゃん。なんでこの子が悲嘆の白い獣なの?」

「ああ、それはねえ……」

「それは?」

「この子が可愛すぎて倒したくても倒せない! って涙を流す初心者ハンターの姿からつけられた名前だよ。この子たち見た目と同じですごく弱い上に、攻撃されないと自分から攻撃もしないんだよね。だけどこのウサギ、名前はツノウサギていうけど毛がすごく綺麗で手触りがいいから、毛皮として人気で絶えず需要があるんだよ。だから普通は初心者のハンターが初めて挑戦するモンスターなんだけど。大体みんなここで苦戦するんだよね。モンスターが可愛すぎるから」


 そう言った鈴ねーがツノウサギを僕のすぐ目の前に突きつけた。


 うん。可愛いな。

 確かに普通の人なら心が挫けそうなビジュアルだとは思う。

 僕は別にそうでもないけれども。

 ウサギと言えば『可愛い』より『美味しそう~』という感想が先に浮かぶんだよね。じゅるり。

 僕はそんなことを考えながらも、鈴ねーからツノウサギを受け取り、その毛並みに沿ってその毛をそっと撫でた。


 うん。モフモフで柔らかい。確かにこれは良い毛皮になりそうだ。食べることもできて、服に加工することもできるなんて。ウサギは良い動物だよね~。

 そんな僕の考えを感じ取ったのだろうか? 腕の中のツノウサギが小さく体を震わせた。

 その震えを感じた僕は、少し離れたところにあるカメラを確認した後、ツノウサギの耳に小さく慰めの言葉をかけた。


「おい。そんなに怖がるなよ。取って食ったりしないからさ」


 今はね。


 ウサギの姿をしていたとしてもモンスターはモンスターと言うべきか。僕の言葉を聞いたツノウサギが震えるのをやめた。


 話す前より少し体が硬くなった気がするけど。もしかしておびえすぎて体の震えすら止まったとか、そんなんじゃないよね? まあ、どうでもいいけど。

 さて、それじゃあ一番の疑問も解けたことだし。

 今回は次に気になることを聞いてみようか。


「……鈴ねーお姉ちゃん。もしかして今からこの子たちを倒すの?」


 鈴ねーが言った通り、ちゃんとモンスターである。モンスターではあるけれど……。

 モンスターだからと言って、鈴ねーの手で揉みまくられながらも何の反抗もできないウサギを殺すのは、ちょっと絵面が良くない気がするんだけど?


 そんなことを考えながら鈴ねーを見上げると、案の定、鈴ねーが呆れた視線を僕に向けた。


 えっ、何? その顔何?


「ふう。コンくんったらー。君は小学生だよ? 危険に狩りなんてさせるわけないでしょう?」

「えっ? じゃあ……」

「そう! 今日は! ダンジョンピクニック配信だよ! イエイ――!!」

「い、イエイ――!!」


 鈴ねーの掛け声につられて、思わず声を上げてしまった。

 しまったのだが。本当にただのピクニックをするだけでいいのか?

 それは絵面がヤバいどころか、見せ物がなさすぎるのでは?


 と思ったけれど、鈴ねーは本気だったらしく。ウサギたちを眺めるのに丁度良さそうな場所にバサッ~とピクニックシートを広げ、その上に水筒やら、お弁当やらを出し始めた。

 思いついたことを躊躇なく実行するのがとても鈴ねーらしい。だが、ここまで来るとさすがにこの状況に対する視聴者の反応が気になってしまった。

 ちょっと見ておこうか。


[さすがリンネちゃんwwwwwwww 今日もマイペースwwwwww]

[今日は弟も一緒だというのにwwwwwww]

[まあ、こういうヤツでしょ。リンネは]

[でもあのダンジョンならピクニックしたいのも分かる。フロア全体が可愛いウサギだらけだし。壁は石だけど地面は緑の草原だし。まあ、俺はしないけど。]

[しないのかよwwwwwwwww]


 えっ。これでいいのかよ。

 確かにツノウサギは可愛いし、雰囲気もまあ悪くはないけれど。それ以上に何か、こういう事態に慣れた何かを感じる。一度も見たことないけど、まさか鈴ねー、いつもこんな配信をしてるの!? これでいいの!?

 何の前触れもなく「ダンジョンピクニック配信だよ!」だなんて!

 ていうか、こんなテンションでそこそこ人気を維持しているなんて……。

 鈴ねー、逆にすごいな。

 てか現代の人間が考えていることが理解できない!


 僕が呆然としてそんなことを考えていると、ピクニックの準備を終えた鈴ねーが頭の上で手を振りながら僕を呼んた。


「コンくん! 準備完了だよ! ご飯食べよう! 今日のピクニックランチは山菜入りのいなり寿司だよ~」

「やい! いなり寿司!!」


 まあ、大事なことでもないし! いなり寿司を食べてから考えてもいいか!

 どうせこのチャンネルのオーナーは僕じゃないからな!



 ***



「ハッ!」


 つい、いなり寿司に夢中になってしまった!! 恐るべし、いなり寿司!!

 いつの間にか空になってしまったお弁当箱を見下ろしながら、僕は少し反省した。


 自分がこのチャンネルのオーナーじゃないからいいだなんて! そんなわけないじゃん! むしろいつまたゲストとして呼ばれるか分からないんだから、この機会にちゃんとファンを作っておかないとダメじゃん!!僕のバカ!!


 そうやって食欲に負けた自分の情けなさに頭を抱えて嘆いていた時、何か隅っこでコソコソしていた鈴ねーがポケットから何かを取り出して僕に渡した。


「ええと、リンネお姉ちゃん、これは何?」

「スコップだよ!」


 えっ、なんでいきなりスコップ!?


「えっ、なんでいきなりスコップ!?」


 あ、意外すぎて口から出ちゃった。

 でも本当なんでいきなりスコップを出すんだ? 今日はピクニックをすると自分で言っていたくせに。

 わけがわからなくて鈴ねーを見上げていると、鈴ねーがまたドヤ顔で腰に両手を当てて言った。


「フフッ! 私を甘く見てもらっちゃ困るよ、コンくん! いくら私でも、配信でただピクニックだけをして終わらせるわけないじゃん!」

「いや、リンネお姉ちゃんなら十分……」


[リンネならやり得る。]

[同意]

[むしろやらない方が意外]

[そういう割にはもう配信始まって30分過ぎてますけどwwwww]


「えーい! せっかく格好つけてるんだからみんなは黙ってて!」


 えっ。格好つけてたんだ……。到底そうは見えなかったけど。

 まあ、それはそれとして。スコップを取り出したということはそれを使う用があるということだろうけれど……。


「もしかしてここに薬草とか生えてる?」

「そう! そうなんだよ! ちなみにこれが初心者ハンターの命綱だったりするんだよね~。結局ツノウサギの可愛さに勝てなかった哀れで不憫なハンターたちが、代わりにってここで薬草を採って帰るの!」

「へえ~。そうなんだ」

「なので今日コンくんにはそんなしきたりに習って初心者ハンターらしく薬草取りをしてもらおうと思います!」

「おお」


 なるほど、なるほど。思ったより鈴ねーもちゃんと考えがあったんだな。

 確かに先人に習って物事をやってみるのはいい事だもんね!


「で、肝心の薬草の見分け方だけど。ここ見える? ここ。葉っぱが3枚の草。これの真ん中に黄色い蕾があるのがその薬草! ここに花が咲いているのは売れないから採らないこと! コンくん理解できたかな?」

「うん。理解できた!」


 それじゃ薬草、頑張って採ってみるか!


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