第10話 隠し通路
「って、これ絶対違うじゃん――――!!!」
僕は何をのんきに薬草探しをしているんだ~~~!!!
今回の配信はあくまで僕の認知度を稼ぐため!そのために鈴ねーの配信にゲストで入ったというのに!! なんで僕は薬草採取なんてしているんだよ!!
「しかもこんなにガチで!!」
僕はいつの間にかカゴいっぱいになっている薬草を見ながらひそかに絶望した。
何か一つにはまると終わるまでやり続ける癖がこんなところで仇になるとは!
「……このままじゃダメだ!」
何かみんなの注目を集めるようなことをしないと!!
だけど注目を集めるようなことと言っても、パッと思い浮かばないんだよな。
今すぐ思いつくのは戦闘と狐獣人の姿になることだけど、こんな人畜無害な動物たちを虐殺するのはむしろヘイトを買いそうだし。
かと言って何の前触れもなく獣人になるのは何か狙って視線を集めようとしているみたいで気が引ける。僕が狙う純粋で無邪気な可愛い弟ポジションにはふさわしくない行動というか。
本来なら鈴ねーが先に話を出す予定だったのに、鈴ねーは僕とダンジョン配信をするという事実に舞い上がっててそれを完全に忘れているみたいだった。
何かいい方法ないかなぁ。
そんなことを考えながらストレッチをしている時、ふと僕のセンサーに入ってくる妙な気配がいた。 そしてそれは僕がいる場所から少し進んだところにあるただの普通の壁から感じられていた。 これは……。
隠し通路か!!
ここに来る前にネットを少しリサーチした時に見た覚えがある。
ダンジョンには隠し通路というものがあって、そこには宝箱や強いモンスターがいるということを。 人間とは予想できない状況に興味を感じる生き物。
つまり、あれが本当に隠し通路なら、絶好のアピールチャンスってことだな!
問題はあれが本当に誰も知らない隠し通路なのかということだけど……。
もし既に誰かが入ったことのある隠し通路なら、大して注目を集められない可能性が高い。 が。 僕はすぐにその心配が無駄なものだと悟った。
さすがの鈴ねーでも隠し通路があることを知っていたなら、ダンジョンに入る前に僕に話をしただろうし。まだ未発見の隠し通路であることは間違いなさそうだ。
うん! 未発見の隠し通路確定! 隠し通路を発見してみんなの注目を集めることに決まりだな!
さて、それじゃあ隠し通路に進入する前に二つほど確認しておかないと!
まずは鈴ねーの位置。 ダンジョンに入った後ずっと僕の隣に張り付いていた鈴ねーだったが、今はちょっと僕から離れて視聴者たちとコミュニケーションを取っていた。
鈴ねー本人は可愛い弟である僕、皓を見ているだけで楽しくても、自分の配信を見るために集まった人全員がそう考えているわけではないとみんなのコメントを見て気づいたからだ。
それでも離れたくないと少しだだをこねたけど。
薬草採りに夢中になっていて思わず適当にスルーしてしまった。むしろ僕は大丈夫だからみんなと遊んできてと追い出してしまった。
今考えればそこで薬草採りを中断して、鈴ねーのおしゃべり配信に参加すべきだったと思うけれど。
バカなことをしたな~。
でもまあ、おかげで隠し通路というコンテンツを見つけられたわけだし、よしとしよう。
とにかく、そんなわけで鈴ねーは今僕が何をしてもそれに気づくのに少し時間がかかるはずだ。 ちょくちょく不安そうに僕の方を確認してくるとはいえ、ずっと見ているわけでもないし。
そして、その次には一番重要なカメラ!
これについても心配はない。 幸いにも鈴ねーが後で見たいという理由で僕と別でコミュニケーションを取っている間にも僕の姿を撮るため、僕につけておいた予備用のカメラがあったからだ。
正直初めはその話を聞いた時、ブラコンすぎない? と思ったけれど、今回ばかりはブラコングッジョブ! と親指を立ててあげよう。
さて、そんなわけで隠し通路突入準備は十分に整っているわけだし、今すぐに隠し通路の方へ行ってみようか!
ちょっと休憩~、という感じで背伸ばしをした僕は、薬草が入ったカゴを手に持ち、隠し通路がある場所へと静かに足を進めた。
配信を見る人に怪しまれないように、途中でツノウサギに気を取られたかのようにツノウサギの頭を撫でたり、不思議そうに変わった形の石をぐるりと回ってみたりブラフをかけながら到着した隠し通路の前。
僕はその前にしゃがみ込んで薬草を探す振りをして隠し通路がある場所を探った。
「これは今まで見つけられなかったのも納得だな」
僕は僕を追いかけてくるカメラに聞こえないように小さな声でつぶやいた。
隠し通路は大きな岩の間、茂みの後ろに隠されていた。
しかも入り口を開けるボタンのようなものはダンジョンの壁と同じ色の石で、隠し通路の入り口がここにあることを知らなかったら、僕でもただダンジョンの壁にできたコブだと思って通り過ぎるくらいのものだった。
それに僕が感じた妙な気配というのも、実はそんな特殊な気配に敏感な僕だから気づいたのであって、実際ダンジョン自体から発生する魔力とほとんど変わりなかったし。
「どう考えても見つけさせるつもりないじゃん。まあ、隠し通路だからそれが当たり前なのかもしれないけどさ!」
とにかく入る方法を知った僕は、近くで薬草を探す振りをしながら、思わず転んだフリをして隠し通路のボタンをポチッと押し、隠し通路の奥へコロコロと転んで入った。
そうやって入ってきた隠し通路の中。 カメラが入ってくるのをしばらく待ちながら、僕は周囲を見回した。
「意外と広いな」
入り口自体は僕の身長より少し小さいくらいだったけれど、隠し通路の中は大人が二人背筋を伸ばして歩けるくらいの広さがあった。
そうやって少し待っていると、僕を追いかけてダンジョンカメラが隠し通路の中に入ってきた。
そしてそれと同時に。
ウウン――。
とした音と共に僕が入ってきた隠し通路の入り口が閉まわれた。
あっ、やば。人が入ったら自動的に扉が閉まるやつだったかよ。いや、まあ。邪魔が入らなければ僕としては都合が良いけれど。それに、もし中に宝物じゃなくてモンスターがいて、そのモンスターが強いモンスターだったら鈴ねーが危険になるかもしれないから、むしろ助かるくらいだけどさ。
「いきなりすぎじゃないか」
まあ、でも肝心のダンジョンカメラはギリギリ一緒に入ることができたのだから配信するのには問題ない。 そこまで考えをまとめた僕はダンジョンカメラを意識してすぐに演技を始めた。
「えっ、ここどこ? り、リンネお姉ちゃん? ど、どこにいるの?」
明らかに先ほどまでいた場所と違い、陰惨な周囲の風景に声を震わせる可哀想な小学生。
不安そうにその場でしばらく周囲を見た僕は、自分が入ってきた入り口が消えたのを確認することで、配信を見ている視聴者たちに自分が今ここに閉じ込められていることを知らせた。
そしてその後、入口が消えて出られないから前方へ進むという感じで、怯えた姿を演じながら僕は迷うように奥へ足を運んだ。
洞窟のような形をした通路は思ったよりずっと長かった。
その通路を通り抜ける間ずっと怯えたフリをしなければならなかった僕は、精神的に少し疲れた気分を感じながら、通路の先にある広場へと足を運んだ。
そしてそこで少し立ち止まって周囲を見回すフリをしていた時、僕はふと何か違和感を感じて頭を右に少し動かした。
すると。
ヒュッ!
と目に見えない何かが鋭い音を立て、僕の頭があった場所を通り過ぎていった。




