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第8話 鈴ねーと一緒のダンジョン配信1

 

 とにかくそんなこんなで、鈴ねーと僕はその週の土曜にダンジョンにもぐることになった。

 なったのだが……。


「……なんでよりによって猫なの?」


 僕はそうつぶやきながら、隣の建物の窓に映る自分の姿を見つめた。

 黒いサスペンダーのショートパンツに、猫耳がついた白いパーカー。どこからどう見ても実用性を無視した丸々とした猫の手の形の手袋。そしてその他にも可愛い猫の模様があしらわれた安全装備たち。

 さすが鈴ねーのチョイス。

 すごくあざとかわいい。


 まあ、可愛さで人気を得ようと決意したんだから、可愛いデザイン自体はまあ、嫌じゃないけど。

 だからそれはいいけど。

 一体全体なんで猫?

 僕、狐の妖怪なんですけど?


 鈴ねーが初の合同配信記念ということでプレゼントしてくれたものだから、ケチをつけたくはないけれど。

 疑問に思わざるを得なかった。

 そしてそれを気にしているのは僕だけではなかったらしく、鈴ねーが申し訳なさそうに両手を合わせながら言った。


「あ~、皓くんも気になるよね。尻尾を見た感じ、皓くんは狐だもんね。ごめんね!急ぎで手配できる装備がそれしかなかったの」

「そうなんだ」

「うん。そのデザイン以外の動物キャラクターデザインは別で特注を依頼しなきゃいけないみたいで……。でも心配しないで! お姉ちゃんが後でお金をいっぱい稼いだら、狐コンセプトでフル装備を作って皓くんにプレゼントしてあげるからね!」

「うん。分かった。ありがとう、鈴ねー」


 それほど期待せずに待ってるよ。

 ダンジョンで使う装備を全部特注にしようとしたら、いくらかかるか見当もつかないし。

 正直、いくらいとことはいえ、ちょっとそこまでして貰うのは気が引ける。赤の他人ならともかく、知り合いにはね。何で返したらいいか分からないし。

 それでもこれは貰っておくけどね。鈴ねーからの初ダンジョン配信記念のプレゼントだし。既製品だから多分それほど高くはないだろうし。


 さて、注意事項は週中に準備しながら鈴ねーからちゃんと聞いておいたし、装備も揃った。そして配信機材は鈴ねーが元々使っていたものがある。


 これでダンジョン配信のための準備は完了だな。


 残るは一つ。


「で、鈴ねー、それで配信はどこでするの?」


 どうせなら見どころのある場所がいいんだけど。

 その方が人も集まるだろうし。いろいろ見せてアピールするのにも良いだろう。だからどこでやるのかちょっと気になっていた。

 そしてそれは鈴ねーも一緒だったらしく、鈴ねーがフフンと鼻を鳴らしながら、腰に手を当てて言った。


「実は前から皓くんと行くならここ! って決めてたところがあるんだよね!」

「へえ、そうなんだ」

「うん! そうだよ! だから、皓くん! 当ててみる? 今日どこに行くと思う? お姉ちゃんが皓くんのためにどこを選んだと思う?」


 鈴ねー、もしかして僕を煽ってる? もしかしなくても煽ってる?

 よし、上等だ。相手をしてやろう、と思った僕は息を深く吸い込んだ後、鈴ねーに真剣な声で言った。


「うーん。わかんない!教えて? 鈴ネぇ――」



 今回の配信のためのリサーチ過程で得た最上位の技術!

 両手で相手の袖を掴み、声は少し高めに、言葉を少し引き伸ばしながら上目遣い!


 どうだ! 僕の必殺技は!!


 心の中でドヤ顔をしながら、僕はドキドキと鈴ねーの反応を待った。

 そして。


「ぐはっ!!」


 鈴ねーが胸を押さえながら倒れてしまった。

 クリティカルヒットだったらしい。



 ***




 ふう。焦った。

 鈴ねーが僕の可愛さのせいで瀕死状態になって、危うく今日の配信がキャンセルになる危機だった。

 どうやらこの技術は鈴ねーには早すぎたらしい。

 幸いにも鈴ねー専用の特殊スキル「鈴ねー、起きて? もう朝だよー」が通じて良かったものの。


 当分の間、この技術は封印だな。危険すぎる。


 完全封印じゃないのはあれだ。人生いつか使う機会があるかもしれないからだ。

 九尾の狐の時代から今まで生きて得た経験からの教訓で完全封印はもったいない、コホンコホン! ちょっと検討が必要だと思ったからだ。


 ともかく、そうやっていろんなことがあってようやく鈴ねーとの配信を始めることになった。

 しばらく待っていると、装備のセッティングを終えた鈴ねーが元気な声で僕に言った。


「さて、それじゃあ始めようか!」

「うん! 鈴ねー!」


 僕が鈴ねーの言葉に返事をするのと同時に、鈴ねーが腕につけている腕時計のようなものに手を当て、ポチッとボタンを押した。

 すると鈴ねーの手元にあったカメラが空中へ浮かび上がり、録画が始まった印としてカメラに赤い光が点灯した。


「みんなハロー! 今日も元気いっぱいのみんなのリンネちゃんだよ!」


 鈴ねーがあいさつをすると、すぐに目の前に浮かんだ半透明なスクリーンに視聴者たちのコメントが記された。


[リンネちゃん、ハロー]

[ハロー。今日も元気可愛いいね!]

[えっ? 隣に誰かいる?]

[おはよっス! リンネちゃん今日もよろしくッス!]

[ハロー。というか、えっ? 何? 今日コラボするの? なんか隣に人の影が見えるんだけど?]

[えっ。コラボ? それ男じゃないだろうな?]

[あ、本当だ。ねえ、リンネちゃん隣にいるの誰?]


 あ、 思ったよりみんな気づくのが早いな。もう気づいた。

 ていうか鈴ねー。芸名がリンネだなんて、本気でお姉ちゃんポジションを狙っているな。どんだけお姉ちゃんって呼ばれたいんだよ。まあ、良いけど。


 そんなことを考えながらしばらく待っていると、鈴ねーが僕の方へパチンとウインクをした後、カメラを向けて言った。


「みんなもう気づいちゃった? そう! 今日はなんとゲストがいまーーす! 相手は~~~キュートで可愛い私の弟! 私の天使、コ、コ――――ン!くん!」

「……」


 鈴ねー。今になって僕の身バレ防止用に芸名を決めておかなかったことに気づいたな。

 同じく気づいていなかった僕も悪いと思うけれど、コンて。安直だし。適当すぎでしょ。

 まあ、とにかく既にこぼしてしまった水だ。鈴ねーの話に合わせるしかない。

 僕は大きく息を吸い込んだ後、準備してきた挨拶を口にした。


「……は、はじめまして! ええと、リンネ、お姉ちゃんの弟のコ……コンです! よ、よろしくお願いしましゅッ!」


 少しビクつきながら恐る恐る挨拶! そして最後には舌を噛む!

 どこからどう見ても慣れていない状況にオドオドする小学生を露骨に演じた僕は、緊張で赤く染まった顔を作りながら鈴ねーの方を上目遣いでチラッと見た。鈴ねーの反応を確認するためだった。


「……ふぐっ!!」


 鈴ねーの頬は熟したタコのようにすでに真っ赤に染まっていた。


 うん。鈴ねーの反応は予想通りだな! そして肝心な視聴者の反応は――。


[えっ、リンネの弟? 可愛い! もっと照れて?]

[ショタ来た――――!!!!!!!!!]

[あ、前から可愛いって自慢してた……。確かに可愛いかも。うちの弟に欲しい]

[あれ、僕この子、どこかで見たことあるような……]

[ゲストかー。まあ、大目に見てあげましょう! 可愛いし! 弟くんだし!]

[弟くんハァハァ。]


 うん。視聴者の反応も悪くない。狙った通りの反応だ。


 僕は恥ずかしさで頭を下げるふりをしながら陰でニヤリと笑った。

 さて、ここまでは計算通り。そしてこの後は計画通りダンジョンに入らなきゃいけないんだけど――。


「ええと、リンネお姉ちゃん?」


 乙女にあるまじき顔をしてるよ? ほら、しっかりして! そして正気に戻って後に進めて!


 鈴ねーの精神を取り戻すために僕が鈴ねーの袖をグイグイ引っ張ると、ハッ! と正気を取り戻した鈴ねーが軽い咳と共に再び配信を進めた。


「コホン! そ、それじゃ! ゲスト紹介もこれで済んだことだし。次は今日潜るダンジョンを紹介することにしま~す! 今日私たちが潜るダンジョンは――ここ! 『悲嘆の白い獣ダンジョン』です!」


 なにそれ。なんか語感が怖いんだけど。

 悲嘆なんて、まさか鈴ねーは僕の初配信だというのに高難度ダンジョンに行くつもりなのか?

 確かに目を引くにはいいかもしれないけれど。

 だけどブラコンの鈴ねーがそんなことを?

 さすがにそれはないと思うけれど。それでも念のため聞いておくことにしようか。


「リンネお姉ちゃん、『悲嘆の白い獣ダンジョン』ってどういうところなの?」

「フフッ。気になる?」

「うん! 気になる! お姉ちゃん、教えて!」

「か、かわっ……!! ハッ! これじゃなくて! コホン! 教えてあげてもいいけど、今回はこのまま行ってみない? 初のダンジョンだし。ドキドキは大事でしょ?」


 確かに。鈴ねーが言う通りドキドキは大事だよね。うん。

 それに何なのか知らずに行く方がリアルな反応を見せられそうだし。

 何よりダンジョンの難度がいくら高いと言っても、普通は僕に脅威になるはずもないしね。


 そこまで考えた僕は純粋な子供の顔を貼り付けて、鈴ねーに向かってにっこり笑いながら頷いた。


「うん。分かった! このまま行って、リンネお姉ちゃんが言う通りドキドキを楽しんでみるよ! 行こう。リンネお姉ちゃん!」

「うん! うちのコンくん、良い子! さあ、それじゃあ行こうか! あ、手はつないでいこう? もし離れたらあぶないから!」

「うん。リンネお姉ちゃん!」


 さあ、それじゃあ行ってみようか!


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