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第6話 昼休み

 結局朝の騒動は、先生が教室に入ってきたことでなんとか収まった。

 そして今は午前授業が終わった昼休み。

 僕は相変わらず騒がしい教室から避難して、空き教室で昼ご飯を食べていた。

 僕がまだ痛むような気がする狐の方の耳があったところをてで触っていると、みーちゃんが申し訳なさそうな顔で手を合わせた。


「ごめん、皓くん!まさかあんなことになるとは思わなくて……」

「いや、大丈夫だよ。僕もあんなことになるとは思わなかったし。何よりみーちゃんはこうして先生に話して空き教室を使う許可も取ってくれたし」

「でも……」

「それより忘れないでね。耳を見せてあげる代わりにお弁当にいなり寿司を作ってくれるって言ったこと!十日だからね!」

「……もう、本当。皓くんたら。分かったよ」


 これ以上謝られたらご飯を食べる前に昼休みが終わってしまうかもしれないと思って話題を逸らすと、みーちゃんが困った子を見るような顔で笑いながら頷いた。


 あー、明日からが楽しみだ。

 だから明日を楽しみながら、今日はたっくんにもらったいなり寿司を食べよう!


「ところでたっくん、本当に大丈夫?本当にこれ僕が食べていいの?」

「あ、うん。皓にあげようと思って持ってきたんだし。母さんからも礼を言ってほしいと言われた」

「そっか。それじゃあ、いただきます!」


 今日の昼ご飯のことだけど、たっくんが昨日の件のお礼だと言っていなり寿司のお弁当を持ってきてくれたから、それをもらうことにした。


 給食でもらったご飯は別にあるけれど、それはそれ。これはこれだ。いなり寿司は別腹だからね。


 僕はできるだけ早く給食でもらったご飯を食べ尽くして、デザートにいなり寿司を食べることにした。


 うん。いなり寿司ほどではないけれど給食も悪くない。

 前世の食事を考えれば、なおさらそう思えてしまうんだよな。

 食文化の発展最高!


 そうやって現代食文化の発展に喜びながら昼ご飯を半分ほど食べた頃、僕はふと気になることがあったことを思い出し、一緒に食事をしている二人に声をかけた。


「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「ん?何?」

「おう!何でも聞いてくれ!なんならうちの妹の初恋相手が誰なのかも教えてやるぞ!」


 気持ちはありがたいけれど、その情報は必要ないかな。

 そもそも僕が聞きたいのはそれじゃないし。


「その……僕の耳、変じゃない?」


 反応を見る限り思ったより否定的な感じではなさそうだけど、それでもなんかアレだ。ちゃんと二人の口から聞きたい。本当はどう思っているのか。


 緊張でつばをゴクリと飲みながら二人の返事を待っていると、しばらくポカンとしていた二人がおかしい質問を聞いたと言わんばかりに首を傾げた。


「……変?何が?」

「いや、だって……人の頭に狐の耳がついてたら気持ち悪いでしょう?」


 人間は自分と違うものを排除する生き物。

 その性質は今も変わっていないはずだ。

 それを分かっているから僕も妖怪としての姿をみんなにバレたくないと思ってたわけだし。

 だけど緊張していたのが虚しいほど、たっくんは軽い態度で僕の質問に答えた。


「気持ち悪いわけないだろ?クラスの奴らはむしろ可愛いって言ってたぞ?皓、お前は知らないかもしれないけど、他のクラスの奴らもお前のその姿見られないかって見に来てたからな」

「えっ、そうだったの?」


 本当に気づかなかった。

 だってなんか話を聞こうとしてもあんな騒がしい場所じゃ、一つ一つ聞き取るのなんて難しいし。

 そんなことを考えていた時だった。

 みーちゃんが僕の肩を再び掴んできたのは。


「……皓くん!!今、自分が何を言ったか分かってるの!!?気持ち悪くないかって!?気持ち悪いわけないじゃない!!むしろ可愛すぎて死にそうなんだから!!ただでさえ皓くん小さくて可愛いのに!そんなあなたにあんなに可愛い耳と尻尾がつくの!?超絶可愛いのに決まってるでしょ!?たっくんもそう思うでしょ!!?私はさっき皓くんのあの姿を見た時――」


 それから続くのはみーちゃんの褒め言葉の数々。

 永遠に続くかのようなみーちゃんの褒め言葉爆弾、その勢いに僕とたっちゃんはただ彼女の言葉を聞いているしかなく。

 結局みーちゃんの話は、彼女が息切れを起こす直前になってようやく終わりを迎えた。


「……はぁはぁ。もう分かったかな?自分がどれだけバカなことを言ったか」

「う、うん。分かった。話してくれてありがとう。みーちゃん」


 だからもうやめてくれていいよ。ほら、水飲んで。

 それにしてもアレだ。世の中も変わったものだ。昔だったら陰陽師どもに死ぬほど追われるところだというのに。二人の話を基に考えると、現代では僕の妖怪としての姿は嫌われるどころか可愛いと思われているということか。

 やれやれ、これは……。


「……一生に一度のチャンスなのでは?」

「ん?皓、何か言ったか?」

「あ、いや。何でもない」


 たっくんの問いに首を振った僕は、デザートのいなり寿司を箸でつまみながら考えた。


 可愛い。

 心惹かれる対象に対して使う言葉。

 一部の人たちは最上の褒め言葉とも言うもの。

 つまり、その対象に対する好意を表す言葉ということだ。


 好意というものは良いものだ。


 場合によっては例外もあるけれど、大抵の場合、こういう好意は受け取る対象にいろんな利益をもたらしてくれる。

 だから僕も人に好かれるのは好きだし、そうなるため常に努力している。

 なのでそんな僕としてはこの状況を利用しないわけにはいかない、ということだ。

 僕はいつの間にか最後の一つになったいなり寿司を頬いっぱいに頬張りながら決意した。


 よし!立ててみるか!


 僕がたくさんの人にチヤホヤされるための計画を!





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