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第32話 メイメイの新人占いコーナー1

 


 結局二人が僕を放してくれたのは、僕のリュックに潜って眠っていたイチゴが騒ぎで目を覚ました後だった。

 目を覚ましたイチゴが鈴ねーとメイメイさん二人に首を絞められている僕を発見して、二人に飛びかかったからだ。

 ちなみに僕が絶対に許可なく人に爪を立ててはいけないと言い聞かせていたこともあって引っ掻れたりはしなかったけれど、流石に苦しんでいる主人の姿を目にして怒らずにはいられなかったらしく。

 鈴ねーとメイメイさんはイチゴの足跡をそれぞれ額に刻んだ状態で、橘さんにお説教を食らっていた。


「二人とも何をしているんですか!せっかくセットしたのに台無しになるでしょう!プロの配信者としてそんなことをしていいと思っているのですか!」

「「いいえ!ごめんなさい……!」」

「次また同じことをしたら、大好きな皓くんとの配信、当分の間禁止にしますからね!」

「えぇっ!そんな……!」

「橘さん、それは酷いよぉ~!」

「異論は認めません!お返事は?」

「「……はーーい。以後気をつけます」」


 そうしてひとしきり橘さんにしごきを受けた後、再び僕の方へと寄ってくる二人。


 そんな二人の視線は、いまだ興奮がさってなくフンスフンスと鼻息を荒げているイチゴに釘付けになっていた。


「ええと、この子、前回の配信に出てきたあのモンスター……だよね?」

「あ、はい。そうです」

「何というか、見た目と違って結構強いね。こんなに小さくて可愛いのに、リンネちゃんですら気づけない速さで動いて、攻撃まで成功しちゃうなんて」

「私も驚いちゃった!イチゴちゃん、強いんだね!」

「はは。僕も驚きました。今まではこんな姿見せたことがないので……」


 もちろん嘘である。

 イチゴが早く動くのを見たことは何度もあったし。それがなくともイチゴの曾祖母のモモを知っている僕は、見る前からイチゴの能力についてある程度把握していた。


 そもそも鎌鼬はその速度こそが特徴だし。


 ただ、イチゴと出会った以降ダンジョンに入ったことがないことになっている僕が、イチゴが強いってことを知っているのはおかしい。だから今は知らないふりをしているだけだった。

 なので適当に二人に話を合わせた僕は、二人に何か言われる前に話題を変えることにした。


「コホン!それよりそろそろ配信始める時間じゃないですか?」

「ああ、そうだね!」

「橘さん、準備は――」

「もちろんとっくに終わってますよ。皆さんが席についてくれたらそれで準備完了です」


 さすが橘さん。しっかりしてる~!





 ***





 カメラの前にセットされたテーブル。

 そこに座るのはメイメイさんと鈴ねーの二人だけだった。

 一応メインゲストということで、僕は二人がある程度場を温めてから入ることになっていたからだ。


「では、始めます。3、2、1、スタート!」

「ヤッホー、みんな!久しぶりのメイメイのすっっっごい新人占いコーナーだよ~!そしてメインゲストを紹介する前に!はい!今日一緒に配信を進めてくれるリンネちゃんだよ!」

「こんにちは、リンネです!今日はよろしくお願いします!」


 橘さんの合図に合わせて慣れた姿で配信を始めるメイメイさんと鈴ねー。


 二人の挨拶に、コメントウィンドウからすぐに反応がき始めた。


[メイメイ、リンネ、こんにちは!てかこのコーナー久しぶりだな!今日の新人は誰?]

[リンネがゲストってことはまさか……!]

[ショタキターーーーー!]

[いや、まだリンネの弟くんって決まったわけじゃ……ショタキターーーーーー!]

[おいおい、お前らまだ確定してるんじゃないから先走るなよ。確かに期待はしちゃうけどさ]

[そうそう。それより私、気になってることがあるんだけど弟くん大丈夫?告知は見たけど、やっぱりあんなことがあったから心配でさ]

[リンネもあの件の後、全然配信しなくなってたから心配してた]

[おいらもおいらも!]


「みんな心配してくれてありがとう!私は元気だし、皓くんも元気だよ!あの時はちょっとびっくりして取り乱しちゃったけど。少し驚いただけでもう何ともないよ!」


[そうなんだ。よかった]

[弟くんも元気なのか。安心した]

[本当によかったぁ]

[てか前の配信から気になってたんだけど、弟くんのあのケモミミって本物?教えて、リンネちゃん]

[あ、それ私も気になってた]


「うんうん。みんな心配してくれてありがとう!そしてやっぱりみんな、皓くんのケモミミが気になってたんだね。分かるよ。その気持ち!幻じゃないかと思うくらいめちゃくちゃかっわいいもの!そしてもちろん、紛れもない本物だよ!」


[うおおおおお!すげぇーーー!]

[本物だったんだ!すごい!]

[おいおい、信じてたぜ。この世界には夢も希望もあるってな!]

[リンネちゃん、また弟くんと配信したりしないの?すごく見たいんだけど!]

[おいおい、これメイメイの配信だぞ?心配なのは分かるけど、あんまりそっちにばっか行くなよ?]

[私も私も!弟くんまた見たい!]


「そうだよ!メイメイを無視しないでよ!これメイメイの占いコーナーなんだからね!?」

「あっ!すみません!私の皓くんが可愛すぎるせいで!決して配信を乗っ取る気はなかったんです!」


 口では謝りつつ、胸を張ってみせる鈴ねー。


 鈴ねーのそんな姿に、コメントウィンドウが草で埋め尽くされた。


[いや、何でお前が得意げなんだよwwwww]

[マジでウケるwwwwww]

[おい、みんなあんまりいじるなよ。リンネはああいうアホなところが可愛いんだから!]

[メイメイちゃん許してあげて。分かってるだろ?リンネは元々こういう子なんだって]


「はぁ。まあ仕方ないかぁ。優しくて可愛いメイメイちゃんが許してあげる!それにしてもやれやれ。みんなして皓くんに夢中になっちゃってさ!まあ、ウチの皓くん可愛いし!気持ちは分かるけどさ!」

「ちょっと!メイメイさん?ウチの、じゃなくて私の皓くんですからね!?」

「えーっ。ケチ!減るもんじゃないしシェアしようよ~?」

「ダメです!減ります!シェアしません!」

「えぇぇ~っ。リンネちゃん、可愛い皓くんを独り占めするなんて、ひっどーーいッ!」


 そうやって再び揉めあい始める二人。

 それでも配信中と意識しているからか、さっき僕を取り合っていた時と違い、その仕草はあくまでじゃれ合いに入るところに留まっていた。


 いや、そうでもないのかな?鈴ねーの額にうっすら青筋が浮かんでいるように見えるし。


 何はともあれ、そうやって本格的な配信開始前の雑談タイムが過ぎていき――。


[それで、結局今日紹介する新人は誰なんだ?]

[やっぱりリンネの弟くんだよね?ケモミミだよね?ショタだよね?そうだよね!?]

[ケモミミショタ来い。ケモミミショタ来い。ケモミミショタ来い]


 そうして僕の登場を待ち望むコメントで埋め尽くされるコメントウィンドウ。

 それに対するこの配信の主、メイメイさんの返事は――。


「今日のメインゲストは~……ひ・み・つ、だよ?ふふっ!」


 こうだった。

 ふざけたことを言ってカメラに向かってウインクを飛ばすメイメイさん。

 それに対するファンたちの反応は冷ややかなものだった。


[おい、メイメイふざけんなよ?]

[またその癖が出たのか。全然似合ってないのに、どうしてミステリー路線狙うかね]

[まだミステリー設定諦めてなかったのか。やれやれ]


 そうしてメイメイさんへのツッコミで埋まっていくコメントウィンドウ。

 それを見たメイメイさんが頬を膨らませて叫んだ。


「もうっ!みんな酷い!メイメイは占い師なんだからね!占い師がミステリアスなのは当たり前でしょ!メイメイ諦めないからね!?」

「ほらほら、メイメイさんファンたちと喧嘩しないでください。みっともないですから」

「うぇぇぇん――!リンネちゃん、ひっどーーーい!シクシク!」

「あ、それはもういいです。私もメイメイさんが嘘泣きしてるの分かりますからね?ですからさっさとメインゲストの紹介に入りましょう。みんなずっと待ってるんですから。それとも本当にやめますか?もし本当にメイメイさんがやらないというなら、私が代わりにやりますよ」


 メイメイさんの肩を掴む鈴ねーの表情からは、どこか凄まじい威圧感が漂っていた。


 みんな、とは言っているけれど、あくまで僕を待たせているのが気に入らないという顔だな、あれは。やれやれ、鈴ねーったら。


 とにかくそんな鈴ねーの本気がメイメイさんにもしっかり伝わったらしく、流石にこの配信の主としてメインゲストの紹介する権利を奪われるわけにはいかないと思ったようで、メイメイさんは嘘泣きをやめて姿勢を正した。


「もう~。リンネちゃんは冗談が通じないんだから。わかったよ、ちゃんと紹介するよ。コホン!さて、それじゃ気を取り直して、早速本日のメインゲストを紹介したいと思います!……とは言ったものの、紹介といってももうみんな分かってる感じだし!無駄に引っ張らないでさっさと呼んじゃおうか!本日のメインゲスト!この度スターライズの新人となったリンネちゃんの弟、皓くんです!みんな拍手で迎えてね!パチパチパチ!」

「イェーイ!パチパチパチ!」


 口でも手でも拍手をしながら、橘さんの隣で待機している僕へ視線を向ける二人。

 僕は唾をゴクリと飲み込み、二人が待つカメラの前へと足を進ませた。


 僕のダンジョン配信者としての本格的な活動が、今ここから幕を開ける。



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