第30話 占い師メイメイ1
そうして僕の心が決まった後、契約はあっという間に進んでいった。
ダンジョン配信事務所に入りたいという僕の言葉に最初は戸惑っていた両親も、橘さんの熱意あるプレゼンと、B級以上のハンターが必ず同伴するという条件、それに加えてダンジョンに入る時と出る時に必ず連絡を入れるという約束で納得し、契約書に判を押してくれた。
これで僕も晴れて本物のダンジョン配信者になったわけだ。
あと、ちなみに配信者としての僕の名前はそのまま皓という本名を使うことにした。
前回のライブ配信でもうすでにバレてしまったからね。
鈴ねーはリンネという名前でかなりの知名度を得ている上、自分でもその名前を気に入っているからそのままいくことにしたらしいけれど。
コンという名前、僕はあんまり気に入ってなかったし。トウモロコシの英語の呼び方じゃあるまいし。
とにかくそんなこんなでダンジョン配信者になった僕の初仕事は――。
「まずは無事報告からですね」
「無事報告ですか?」
「はい。以前のライブであのような事件がありましたから。視聴者の皆さんも皓くんが怪我をしていないか、ひどく心配しているはずです。実際、私たちがしたSNSリサーチでもそういう反応が多くありました。ですので最初の配信では、視聴者たちに皓くんが心身ともに健康であることをお見せすることが一番だと私たちは思っています」
「ほぇー。そうなんですね!わかりました。そうします!」
そういうわけで、今日は僕の元気な姿を見せる配信をすることになりました。パチパチパチ!
ちなみに今日は契約してから初めての週末。
少々急ぎすぎるように見えるかもしれないけれど、この辺りは仕方がないと思って諦めていた。
そろそろ事務所連中のストーカー染みた行為もエスカレートし始めていたしね。
そんな事務所たちのせいで、僕のことをそこまで好きでもない人たちまで僕にいらん関心を持つようになってたし、それで色々誤解されることも結構多くあったからだ。
ちやほやされるのは大歓迎だけど、僕のことを大して好きでもない連中や今ではストーカーと変わらない事務所のスカウトマンたちに捕まって絡まれたり、それを見かけたお巡りさんに「可愛い男の子が変質者に絡まれてるんじゃないか」と余計な心配をされたりするのは、僕が求めるチヤホヤとはベクトルが違うからだ。
そういうわけで今日、僕は鈴ねーと一緒にスターライズの撮影用スタジオに来ていた。
僕は撮影前の準備をしに行った鈴ねーを待つ間、スタジオで橘さんからもらったジュースを飲みながら、初めて入るスタジオの中を興味津々に見回した。
明るい照明が照らす真っ白な部屋。僕が座っているテーブルを中心に、背後には華やかに飾り付けられたパネルがあり、正面には撮影用のカメラと照明、そして横の壁際には撮影に使う小道具や機材がずらりと並んでいる少し変わった部屋。
僕はその中で小道具のほうが気になった。
「何だろう。あのやたら華やかな箱は」
そんなことを考えながらやたらその華やかな箱に向かって手を伸ばしていると、ギィと音を立ててスタジオのドアが開き、見知らぬ人物が入ってきた。
羊のようにふわふわとした黒髪に小さなリボンをいっぱいつけた、着物姿の女性。
スタジオを見回した彼女は、僕と目が合うなり――。
「きゃあぁぁぁぁぁ――ッ!本当に皓くんだぁぁぁぁッ!」
と叫びながら、何の前触れもなく僕に抱きついてきた。
そしてそのまま僕の頬にすりすりと頬ずりをして、スキンシップをしてくる女の人。
うわっ!何だ何だ!?何なんだこの人!?!?
僕は唐突すぎるスキンシップに戸惑いながらも、どうにか彼女との間に距離を取ってから尋ねた。
「ど、どちら様ですか!?」
「えぇっ!?私のこと知らないの!?!?私だよ私!この事務所の占い師配信者、メイメイだよ!」
「占い師?メイメイ……さん?」
ということは、この事務所の所属の配信者なのかな?
占い師……ということは陰陽師みたいなものだろうな。
それにしても、何だか中国人みたいな名前だな。もしかして本当に中国人なのだろうか。
「あ、ちなみに中国人じゃないよ?ちゃんと日本人だよ!」
「えぇっ!?どうしてわかったんですか!?」
もしかしてイマドキの陰陽師は人の思考まで読めるのか!?
そんなことを考えて驚愕していると、メイメイさんはアハハッと声を上げて笑いながら答えた。
「だってみんな同じこと聞いてくるんだもん!だから慣れっこだよ!メイメイってのは配信者としての名前!可愛いでしょ?」
「あ、はい!可愛いですね!」
同じ事務所の人間だから好印象を与えておきたいというのもあるけれど、メイメイという名前自体が可愛いと思ったのも事実だった。
何だかメーメーと鳴く羊の鳴き声を連想させて、羊っぽい見た目ともよくマッチしているし。
そんな僕の本心が伝わったのだろうか、メイメイさんはへにゃへにゃと表情を崩し喜びながら、再び僕へと飛びついてきた。
「可愛いって言ってくれて嬉しい!皓くんもめっっっちゃ可愛いよ!こっちおいで?お姉ちゃんがナデナデしてあげる!」
と言いながら、僕が返答する隙すら与えずに抱きついてくるメイメイさん。
僕は彼女に無理やり頭を撫で回されながら質問した。
「あ、あの、ところでメイメイさん、質問があるんですけど……どうしてここに……?」
「ああ、それ?もちろん君が私の配信のゲストに招かれたからだよ!メイメイちゃんのすっっっごい新人占い配信にね!」
そう言ってウインクをし、目の横でピースサインを作るメイメイさん。
『えっへん!嬉しいでしょ?』と言わんばかりのメイメイさんに、僕は首を傾げながら質問した。
「……ええと、何ですか?その占い配信って」
「えぇっ――!そんな!知らないの!?メイメイショック!シクシク!」
「……」
「なーーんて嘘!たまにいるんだよね~、知らない子!他の事務所じゃやってない企画だし!だからこのメイメイお姉ちゃんが皓くんに教えてあげる!」
そうやって一人でコロコロと表情を変えながら、マイペースに話を進めるメイメイさん。
僕はそんなメイメイさんのテンションに圧倒されながら、彼女の話に耳を傾けた。
そして導き出された結論は――。
「つまりスターライズでは、新人のダンジョン初配信をどこにするかメイメイさんの占い配信で決めてもらう決まりがある、ということですか?」
「そうだよ!」
「へぇー。面白いですね!」
いやはや、実に興味深い。
前世では狩りや戦の際に陰陽師に吉凶を占ってもらうのが常だったけれど、現代では廃れた風習だと思っていたのだが。そんな古い伝統行事を今時の流行り物事業と言えるダンジョン配信事務所がやっているだなんて。
なかなかに風変わりだな。社長の顔を拝んでみたくなるくらいだ。
まあ、それはともかく。これは僕にとって悪い話ではない。
本当にこのメイメイさんが真っ当に占えるなら、何か得られるものがあるかもしれないし。
それでなくてもスターライズの配信者がみんなやってきたことならそれなりに見る人もいるってことだし。
そんなことを考えていた時、メイメイさんが不意に僕の手を両手でぎゅっと握りしめてきた。
「それにしても皓くんに会えて本当に嬉しいよ!皓くんには私、前から目をつけてたんだからね!」
「えっ。そうなんですか?」
「うん!だってケモミミショタだよ!?興味が湧かないわけないじゃん!可愛さと可愛さの大爆発!名付けてキュートなビッグバンなんだもの!」
ショタ?とは何だろう。よく分からないけれど、メイメイさんが僕に好意を抱いてくれていることだけはよく伝わってきた。
初対面の相手からここまで好意を向けられるなんて。やっぱり妖狐の姿でダンジョン配信者デビューを決めたのは大正解だったな。
自分の賢明な選択に満足感を覚えていると、メイメイさんが唐突に口を開いてこう言った。
「そういうわけで!可愛い皓くんには配信に入る前に、ご挨拶代わりに私がちょっと占ってあげるね!」
「え?いいんですか?」
普通こういうものには決まった作法などがあるのでは?こんなに唐突に始めてしまっていいのか?前世の陰陽師たちはかなり色々と下準備をしていたと思うんだけど。
しかし、そんな僕の疑問を気にも留めない様子で、メイメイさんは屈託なき微笑みと一緒に答えた。
「いいのいいの!たまに事務所の子たちにやってあげてるし!」
と言いながら、色鮮やかなカードを僕の前に広げ、気になるカードを一枚引くように勧めてくるメイメイさん。
僕はそんな彼女の姿に、もしかしなくとも詐欺では?と疑念を抱きながらも、彼女の手の中から一枚のカードを引き抜いた。
「九……ですね。というかこれ、もしかしなくてもUNOのカードなんじゃ?」
「うん!そうだよ!」
「……」
……これでいいのか、占い師。
というか詐欺だとしても、もう少しまともに見えるよう工夫をするだろ。ちょっとは頑張れよ。六壬神課や筮竹などとまでは言わないけどさ。いくら何でもUNOはさ。
僕はそう心の中で突っ込みを入れながらも、どうにか笑顔を崩さずにメイメイさんに聞いた。
「それでメイメイさん、占いの結果はどうなんですか?何か良いこととかありましたか?」
「ええとねぇ」
「はい」
「ひ・み・つ!」
「……」
……秘密って。結果を本人に教えない占いって何だよ。意味あるのか、それ?




