↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/35

第28話 事務所スカウト1

「ふぁ~、疲れた!」


 プチサイン会兼撮影会をちょっとやってからたこ焼き屋を出てきた僕は、ぐーっと背伸びをしながらそう呟いた。


 いや、たこ焼き屋のおばちゃんへの恩返しの為に、おばちゃんに癒やしをあげて、そのついでに少し店にお客さんを集めてあげようかと考えたのは事実だけど、まさかあんなに人が集まるなんて思わなかった。


 おかげでおばちゃんが途中でたこ焼きを焼くのを中断して、僕を人だかりから救い出してくれる羽目になった。


 恩返しをするつもりが助けてもらうことになるなんて。一体何なんだよ、これ。

 まあ、それでも売上には結構貢献できたのか、おばちゃんがたこ焼きをタダで3箱も持たせてくれたけれど。


 いつの間にかコンビニから戻ってきて、僕の友達だという理由でおばちゃんからたこ焼きを1箱ずつもらったたっくんとみーちゃんが、たこ焼きを片手に僕に話しかけてきた。


「よぉ、人気者!」

「本当にすごいね。あんなに人が集まるなんて。ところで皓くん、スカウトマンはもう行ったの?」

「うん。行ったよ」

「あ!そういえば、今日は何人目だったんだ?」

「ええとね、4人目だったよ」

「おぉ、今日も多いな!その上集まった人たちにサインを書いてあげたり写真撮ってあげたりしてさ。マジですげえよ、お前!」

「いやいや。さっきのは僕も困ったよ。まさかあんなに人が集まるとは思わなくて……ふぁあぁぁ~」


 おっと。うっかりあくびが出ちゃった。


 うーん。さすがに少し疲れてるのかな。


 いや、でも別にスカウトマンとか集まったファンたちのせいで疲れたというわけではない。スカウトマンは毎日何人も押しかけてくるから、そろそろちょっと面倒だとは思ってはいるけれど、我慢できないほどじゃないし。ファンは勢いがすごいとは思うけど嬉しいし。


 ただ、この前夜にこっそりダンジョン探索へ行ってから毎晩のようにダンジョンに潜っているせいで少し寝不足なのだ。


「ふぁあぁぁぁ~……」


 押し寄せる眠気に一度ならず二度もあくびを漏らすと、隣で僕の顔色をじーっと見ていたみーちゃんが心配そうに聞いてきた。


「そろそろその事務所っていうの、決めた方がいいんじゃない?皓くん、ストレス溜まってそうだし。疲れて見えるよ」

「うーん。どうしようかなぁ」


 クロカラスさんに出会った日から数日経った頃から、いろんな事務所の人間たちが僕に声をかけてきている。

 だからその気になれば、僕はいつでも事務所と契約すること自体はできるのだが……。


 ただ、そんな状況で僕が契約を先延ばしにしている理由は一つ。

 ダンジョンが妖怪に及ぼす影響を確かめるためだった。

 だからこうしてあくびをしながらも、無理をして毎晩夜な夜なダンジョンに潜っていたわけだけれど。

 ただ、それも今は正直潮時かなとは思っている。


 初日に判明した『ダンジョンが妖力を吸収する』ということ以外には追加で分かったこともないし。これ以上調査を続けたところで大した意味もなさそうだしね。


 この一週間、毎日違うダンジョンに潜っているというのにここまで何も出ないことを考えれば、僕がダンジョンに入ったところで大した問題は起こらないと考えてもいいだろう。


 正直に言えば、ダンジョンが吸収した妖力がどこへ流れていくのかまでは突き止めたかったけれど。夜という限られた時間で調査できるのは限界があったからなぁ……。

 結局、ここまでが今の僕に調べられる限界ということなのだろう。


「うん!分かった!みーちゃんの言う通り、事務所は早く決めてみることにするよ!」

「あ、本当?よかったぁ!」

「ま、そうだな!俺が考えてもそうしたほうがいい。最近来る事務所のスカウトマンども、ちょっとやりすぎな感じあったしよ」


 僕の返事にみーちゃんが手を打って笑い、たっくんもうんうんと頷いた。


「まあ、それはそうだね」


 確かに最近のスカウトマンたち、ちょっとしつこい感じがあったしね。


 正直、最初はたいしたことでもないと思っていて、むしろこうして僕を認めてくれる人がいるという事実が嬉しいとすら思っていたけれど。それも限度というものがある。

 一日だけで5人以上の人間が接触してくる日もあるし、その人たちが家まで押しかけてくるときもあったし、僕も最近は少し気になるとは思っていたのだ。


 調べることはまあまあ調べたことだし、これ以上我慢する必要もないよね!

 うん。やっぱり早く事務所を決めよう!

 そういうことで!


「よーし。今日はこのまま鈴ねーに会いに行ってみようか!」


 そろそろ専門家に手を貸してもらうとしよう!




 ***




「だから鈴ねーに助けてほしいんだけど。この中で良さそうなところってある?」


 学校から帰ってすぐランドセルだけを放り出して鈴ねーの家を訪ねた僕は、これまで集めた名刺をテーブルの上にずらりと広げて鈴ねーに尋ねた。

 すると鈴ねーは目を丸くして名刺を一度、僕の顔を一度見つめた後、不思議なものを見たかのようにこう言った。


「え?皓くん、ダンジョン配信者になることにしたの?前はあまり乗り気じゃないって言ってたのに」

「ああ、あれはね……」


 あれはイメージ管理のためにそう言っていただけなんだけど……。


 それを素直に白状するわけにはいかない。

 僕は少し困った表情を浮かべながら、モゴモゴと言い訳を口にした。


「……実は、最近ちょっと困ったことがあって……」


 そうして話を始めた僕は、ここ最近起こったことを隠すことなく鈴ねーに説明した。

 あのライブ配信をした以来、登下校のたびに事務所のスカウトマンたちに捕まっていること。そしてそのスカウトマンたちが時々家まで尾行してくること。さらには最近そうしたスカウトマンたちがあまりにもしつこくて避けていたら、学校の子達にまで近づいて僕について探りを入れ始めたこと。


「……だからとりあえずどこでもいいから事務所に入れば、ああいう人たちを少しは止めることができるんじゃないかと思って。でも僕は配信事務所のことあんま知らないから、鈴ねーに助けてもらいたいんだ」


 そうして状況説明(言い訳)が終わった後、鈴ねーをお願いの気持ちを込めてキラキラと見つめると、僕の話が進むたびに少しずつ強張っていった鈴ねーの顔が、真っ青に染まっているのが見えた。


「……」


 何も言わず天井を見て、何もない壁を見て、また僕を見てから、再び天井へと視線を彷徨わせる鈴ねーを僕は黙ってただ見ていた。

 僕のことが大大大好きな鈴ねーの性格を考えると、何があろうと僕を助けようとしてくれるはずだから、わざわざ急かす必要はないと考えたからだ。

 そうしてしばらく待っていると、やっと考えがまとまったらしい鈴ねーが、溜息とともにこう言った。


「はあー……。そ、その、皓くん?どうしてそれを今までお姉ちゃんに言ってくれなかったのかな?」

「ええと、少し待てば収まるかと思って」

「そ、そうなんだ。……すぅー。とりあえずちょっと待ってて。お姉ちゃん、ちょっと電話してくるから」


 そう言って席を外す鈴ねー。


 僕はそんな鈴ねーに「はぁーい」と返事をした後、テーブルの上に置かれていた桃のジュースをストローでちゅーっと吸いながら、鈴ねーが戻ってくるのを待っていた。


 そしてそれから数分後。

 先と比べると少し落ち着いた顔になった鈴ねーが、僕に向かって単刀直入に言った。


「皓くん。ウチの事務所に入らない?」

「……へ?」


 いきなりだな。

 というか、なんで鈴ねーと同じ事務所なんだ?


 首を傾げる僕を見て、何の説明もなく結論だけを口にしてしまったことに気づいた鈴ねーが、急いで説明を付け加えた。


「皓くんが見せてくれた名刺、一応目を通したんだけど。中には結構大手の事務所もいくつかあったよ。でもね、それでも私はウチの事務所が一番いいと思うの」

「どうして?」

「まずは自由度が違うからだよ。他のところだと活動時間や場所、企画内容をほとんど事務所側で決めて、配信者はその中から選ぶ形になるのよね。配信者の意向も汲み取ってはくれるけど、あくまで参考程度だし。でもウチの事務所はその部分配信者の自由度が高いんだ。最低ノルマさえ押さえれば、その後はある程度配信者の自由に任せてくれるし。配信内容の面でもかなり融通が利く方なの」

「へえー。そうなんだ」

「それと何より、ウチの事務所は配信者がダンジョンに潜るとき、必ずベテランのハンターが同行してくれるんだよ。大半の事務所はこの辺が緩いし、皓くんの年齢を考えればちゃんとした保護者がついてる方が安心できるでしょ?私もこの、配信のときにベテランハンターが一緒にダンジョンへ入ってくれるって点が気に入ってこの事務所に入ったんだから。前の配信でみたいに隠し部屋に入るレベルの予測不可能な事故じゃなきゃ、大体助けてくれるよ。私も序盤は結構助けられたし」

「へえー。それはいいね」


 本当に魅力的な条件だ。

 僕がダンジョンに入ったのはたった二回だけ。しかも初級ダンジョンだけである。ダンジョンでの経験ははきっり言って浅い方だ。

 ベテランハンターが配信のたびにダンジョンへと同行してくれるのなら、それほど心強いことはない。

 そこまで考えた僕は、鈴ねーに向かってニッコリと微笑みながら答えた。


「うん!いいよ!僕も鈴ねーと同じ事務所に入りたい!」

「やった!じゃあ早速、事務所の人と話してみようか」

「早速?電話とかするの?」

「ううん、直接顔を合わせるのよ。たぶんもうすぐ――」


 ピンポーン――。


「お、もう来たみたい。さすが橘さん、仕事が早い!」


 え?もう来たの?え?もしかしてさっき電話したの事務所だったの?しかも電話してから数分も経ってないのにもう着いたの??なにこれ怖いんだけど?????


 僕がそんなことを考えながら呆然としていると、鈴ねーがピッタリの黒いスーツを着こなしたOLを連れて中へと入ってきた。


「……鈴ねー、その人は?」

「あ、ウチの事務所の橘さん!」

「初めまして。スターライズのマネージャー、橘一香と申します。今日は契約のため伺いました。よろしくお願いします、コンさん」

「は、はい。よろしくお願いします」


 名刺を差し出しながら頭を深く下げる橘一香さん。

 僕は生まれ変わってから今まで一度も経験したことのない丁寧な挨拶に少々気圧されしながら名刺を受け取った。

 そして名刺を持ってそのまま固まった。


 ……何だ、このキラッキラした名刺は。


 スターライズという事務所名に合わせているのだろうか。

 金色の星たちが鮮やかにプリントされた名刺が、リビングの照明の光を浴びてキラキラと輝いていた。名刺そのものが輝いてるのを見るに、ホログラムとかそういう特殊加工が施された用紙を使ってるみたいだけど――。


 ……持ち主と死ぬほど似合わないな。

 名刺の持ち主は黒いスーツに黒いフレームのメガネをかけた、仏頂面のOLだというのに。


 あ、いや。そうじゃなくて。


「ええと、初めまして、橘さん!僕は皓です!よろしくお願いします!」

「はい。よろしくお願いします。その、お呼びする際はコンさんではなく、皓さんとお呼びした方がいいでしょうか?」

「はい!皓でお願いします!あとさんもつけなくていいです!」

「はい。では、皓くんで。それと手ぶらで来るのもあれだと思いまして、手土産を持ってきました。貰ってください」

「わあ!何ですか?楽しみ――」

「いなり寿司です」

「嬉しいです!!今すぐ食べてもいいですか?」

「勿論です」


 この人、センスいいな。仏頂面だなんて言ったの前言撤回だ!

 やったー!今日の晩ご飯はいなり寿司だぁぁぁ!!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。