第23話 一人こっそりダンジョン1
22話の後半を少し削り、23話は新しく書き直しました!
すでに22話を読んでくださった方は、お手数ですが22話の後半をもう一度ご確認いただけると幸いです…!
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人の足の少ない深夜。
僕は家をこっそり抜け出し、イチゴと共に家の近くのダンジョンへとやって来た。
少し調査してみたいことができたからだ。
ダンジョンの核に触れたらそこに飲み込まれた、というイチゴの証言。
それを耳にした僕は考えた。ダンジョンの核が妖怪を取り込むのなら、ダンジョンの核以外にも何か妖怪に影響を及ぼすものがダンジョンにあるのではないか、と。
「もし本当にダンジョンにそんなものがあるなら、早く把握しておかなきゃならないからね」
クロカラスさんが言った通り、クロカラスさんと会ったその数日後から始め配信事務所は僕に声をかけ続けている。
たっくんの言葉通りなら中には結構大きな事務所もあるみたいだが……。
ダンジョンが妖怪にどんな影響を及ぼすか分からない今、僕はどこから誘われても返事はできない状況なのだ。
調べて何かあれば問題を把握し、それを解決するか、何か対処法を考えなければならないからな。
配信事務所との契約はその後だ。
元の計画では一番有名になりやすそうなダンジョン配信者になるつもりだったが……。
今はちゃんと調べた後、もし後々問題になりそうな何かがあればダンジョン配信者ではなく別の道を狙う方がいいかもしれない、とまで考えていた。
「本当ならもっと早く確認したかったんだけど……」
前の隠し部屋の一件で僕以上にショックを受けた鈴ねーが、毎晩一緒に寝てあげると言って部屋に入り浸っていたせいで遅くなってしまった。
「ほぼ一週間ずっと添い寝なんて、鈴ねーも心配性なんだから」
「ピィー」
「何?家族を心配するのは当たり前のことだって?……ま、それはそうだけどさ。僕これでも鈴ねーよりずーっと年上なんだよ?もちろん体は子供だけど!精神年齢は違うから!」
精神年齢はめちゃくちゃ高いし、大人なんだから!数百歳は軽く超えてる超・超・超大人なんだから!
こればかりは誰も否定できない事実だから!
まあ、雑談はここまでにして。
「よし、それじゃあ行ってみようか!レッツゴー!ダンジョン!」
「キュッ!」
そうして念のため持ってきた身バレ防止のプラスチックの仮面を顔につけた後、妖力を使って姿を消した僕はダンジョンの前を守っている管理者の目を盗んでダンジョンの中へと足を踏み入れたのだが――。
「……なーーんにも出ないな」
「キュウー」
本当に何も出ないな。
いや、モンスターが出ないという意味ではない。モンスターはちゃんと出ている。さっきも数匹倒したばかりだし、今だって。
「……クオッ!!」
影に隠れて横から襲ってきた奴の顔にワンパンを喰らわせている最中だ。
しかしここに来た目的、ダンジョンが妖怪に及ぼす影響に関する手がかりが本当にこれっぽっちも出てこないのだ。
「分かったことと言えば、ダンジョンという空間そのものが妖力を吸い取ってるってことくらいか」
しかし分かったのはそれだけ。
それに正直これが僕にとって脅威になるかと言われれば、かなり微妙なところなのだ。
「そもそも吸い取られる量自体、こうして集中しなきゃ気づけないレベルだし。イチゴ、お前はどうだ?」
「キュウウー」
「そうか」
もしかして僕が人の皮を被っているからなのか、とも疑ったが、イチゴの反応を見る限りどうやらそうでもないらしい。
純粋な妖怪である鎌鼬のイチゴですら、集中しなければ気づけない程度の微量しか吸収されてない、と。
こうなると本当に極端なピンチの状況にでもならない限り、脅威になると見るのも微妙だ。
「本当何がなんだか……」
僕は先ほど倒した奴の影に隠れ、斧を振りながら突っ込んでくる奴の得物を素手で受け止め、そのままそいつの首を片手でへし折りながら溜息を吐いた。
ちゃんと調べたら何か分かるかもと思ってこうして夜中に一人でダンジョンまで来たというのに、これといった収穫がないせいで何だかモヤモヤした気分になってきた。
正直、ちょっともう諦めて家に帰って寝てしまいたいくらいだ。
「ふあぁ……。ただでさえ体が幼くて夜になると眠いっていうのにさ……」
「キュッ!」
夜行性のイチゴが「こんなところで寝ちゃダメですよ!」と僕を励ましてくれたが、そうは言っても戦闘も、目標の情報もこれほど手応えがないと、眠気が襲ってくるのは仕方ないことだ。
「ぶっちゃけ戦闘と呼べるほどのものでもないし。お前もそう思うだろ、イチゴ」
「キュキュッ」
僕の問いかけに、イチゴも「それはそうですね」と首を縦に振った。
イチゴから見ても、これを戦闘と呼ぶにはあまりにも退屈な戦いだったということだ。
それに……。
「血も流れない戦いなんて、戦闘とは呼べないしな」
「キュウ!」
ダンジョン内のモンスターたちは傷を負っても血を出さない。そして死んでも間もなくその場にドロップアイテムだけを残して光の粒子となって消えてしまう。
戦闘といえば血で血を洗うのが基本だという古風な考えを搭載している僕からすれば、退屈極まりないとしか言いようがない。
「まあ、そのおかげでダンジョン配信が流行ってるんだろうけどさ」
よほど頭のネジが外れた人間でもない限り、血生臭い光景を好む者はいない。
それが豚や魚といった自分たちとは別種の生き物だとしてもだ。
しかしダンジョンのモンスターはまるでゲームの中のモンスターみたいに血を流さない。
だからこそ、その分配信を見る側も気軽に楽しむことができるのだ。
それにダンジョン配信はあくまでエンターテインメント。
一定以上のグロテスクなシーンを流してしまったら、配信サイトそのものから警告を食らってしまう。
だから最前線で命をかけて戦うハンターたちとは違って、ほとんどのダンジョン配信者はある程度余裕を持ってダンジョンに潜るのが基本であり、それゆえに配信でグロテスクなシーンを見る確率はかなり低いらしい。
もちろんそうしたエンタメでも血腥い過激さを求める人たちがいないわけでもないらしく、そういった配信をするケースもなくはないらしいが、そうした場合でも映像を流す際にはある程度のフィルターをかけるのが常らしい。たっくんからの受け売りだけど。
それが懲りもせずハンターを目指す者が出てくる理由でもあり、そのハンターの大半がそう経たないうちに夢を諦めてハンターを辞める理由でもあるはずだ。
「たっくんがハンターに夢を見ているのもそのせいだろうな」
まあ、そんなことは今はどうでもいい話だが。
「流石に退屈だなぁ。何か面白いことでも起きないかなー」
「キュウウー」
「いや、僕も分かってるよ。お前の言う通り、何事も起きないのが一番だってことはさ。でもやっぱり、これじゃ退屈すぎるでしょ」
そうやって呑気な話をイチゴと二人でしたいる、その時だった。
「きゃああああああッ!!!!」
そう遠くない場所から、悲鳴が聞こえてきたのは。
「「……」」
イチゴと僕は互いに視線を合わせた。
退屈だと言っていたら、本当に事件が発生してしまったらしい。




