第22話 配信者クロカラス2
「ええと、お断りさせていただきます」
「はあ!?!?どうしてだ!?このダンジョン配信界の黒き星、漆黒の焔を纏いし死神、クロカラスが共にダンジョン配信をしてやると言っているんだぞ!?なぜ断る!!??」
「ええと、まだちゃんとしたダンジョン配信者じゃないからです」
「……はあ?」
「リンネお姉ちゃんやクロカラスさんと違って僕はまだ事務所に入ってないんです。リンネお姉ちゃんと配信したのは家族だからいいとして、いくら何でも事務所もなしに他の配信者の方とコラボ配信をするのは難しいかと」
有名な配信者とのコラボ配信なら収益も出るはずだから、その配分も問題だし。
そうでなくとも色々と問題があるだろうから、今すぐクロカラスさんと配信をするのは難しいのだ。
「ええっ!?お前、まだ事務所にも入ってなかったのか!?じゃあ何の後ろ盾もない状態で、あんなにバズったってことかよ!?!?!?」
「あ、はい。て、バズった?僕の出た動画、バズったのですか??」
「バズったに決まってんだろ!?あの隠し部屋での配信、同接も再生数も凄かったし!切り抜きも死ぬほどアップされてんだぞ!!ほら!見ろ!これなんて10万再生を超えてるだろ!!」
「うわあ、そうなんですね。知りませんでした!すごいですね!」
どれほど驚いたのか、あの痛々しい口調すら維持できず取り乱すクロカラスさん。
僕はそんな彼を見つめながら考えた。
正直まだダンジョン配信というジャンルに対する感覚を掴めてなくて、再生数を見ても『多いのかな?』くらいの感想しかなかったが、思ったよりバズったようだな。
どれほどバズったのかはまだ掴めないが、それでも業界の有名人らしいクロカラスさんがここまで言うのを見るに、前回の配信の成果は結構良いものだったようだ。
そんなことを考えていると、しばらく口を閉じて何かを考えていたクロカラスさんがハアァと溜息を吐き、片手で前髪を後ろにしながら落ち着いた声で言った。
「……はあ。まあ、そういうことなら仕方ないな」
「はい。断ってごめんなさい」
「いや、ちゃんと調べもせずに来た俺様が悪いんだ。お前が謝ることはない」
「理解してくれてありがとうございます!」
「まあ、それはそれとしてだ。お前、リンネの弟。本格的にダンジョン配信をやる気はあるのか?」
勿論ある。大いにある。
しかしここでハッキリ言うのは子供らしくないだろう。
僕は少し照れくさそうに頬を掻きながら、わざと曖昧な感じで答えた。
「あの、まだよく分からないです。僕にうまくできるか分かりませんし。でも、その、前にリンネお姉ちゃんと一緒に配信したのは面白かったから、またできたら嬉しい……かな、と思います」
「そうか。ならこうしよう。後でもし正式にダンジョン配信者になったら、その時は一番最初に俺様と一緒にコラボ配信をする。これならいいな?」
「ええと、僕は……いいです!クロカラスさんみたいにカッコいいお兄さんと一緒に配信できるとすごく嬉しいと思います!」
「……お、おう!フハハ!ま、まあ、いいに決まっているよな!俺様はダンジョン配信界の黒き星、美しき黒き焔の死神、クロカラスだからな!」
そう言いながら再び痛々しいキメポーズを取るクロカラスさん。
ちょっと前までは割と普通に喋っていたのに、また痛々しい口調に戻ってしまったな。
それにしてもさっきから気になっていたんだが、カッコいいと思って使っているのだとは思うが、ダンジョン配信界の黒き星って。ちゃんと分かって使っているのか?全く良い意味には思えないのだが。
しかし初めて会った人に、しかもこうして見る目もあるところでそれを問うほど僕は野暮じゃない。
僕はツッコミもせずにそれをただ笑って流した。
そうして話がまとまったとき、好奇心と憧れを我慢できなかったらしいたっくんが前に出てクロカラスさんに声をかけてきた。
「あ、あの!クロカラスさん!俺クロカラスさんのファンです!さ、サインしてください!!」
「おお!お前はこの黒き焔の死神の信者か!いいだろう!どこにやってやろうか!」
「ええと、ここ!このノートにしてください!」
「いいだろういいだろう」
「あっ!僕、名前は太一です!」
「心得た!黒き焔の死神クロカラスが、太一くんへ!はい!どうぞ!」
そんな感じで浮かれてクロカラスさんにサインをもらうたっくんを見ながら、みーちゃんが一人で「何がそんなに好きなのかしら」と小さく呟く声が聞こえた。
しかしその声が浮かれている2人に聞こえるはずもなく、僕たちに見守られながら慣れた感じでたっくんにサインをしてやったクロカラスさんは、たっくんにサインをしたノートを渡した後、再び僕の方を見て話を続けた。
「それにしてもお前もこれから苦労するな」
「……はい?」
「まだ事務所も入ってないんだろ?これから苦労すると思ってさ。近いうちに色んな事務所から接近してくるんじゃないか?」
「……へ?」
「いや、考えてもみろよ。俺様は偶然通りがかって運良く一緒にいるそのモンスターを見てお前がリンネの弟だと気づいたわけだが。事務所の連中は今まさに血眼になってお前のことを調べている途中だろう。少し経てば奴らの方から先に接近してくるぜ?前のイレギュラースライムの件もあるから、少し調べりゃお前が住んでる場所がどこか、通っている学校がどこかくらいはすぐ突き止められるだろうしな」
「えっ。そこまでやるんですか!?そんなのストーカーじゃないですか!!」
まだそんな気配は感じなかったけど?まさか嵐の前の静けさってやつか?てか、そこまでするほどあの配信はバズったのか??と、僕が考えている間、クロカラスさんの話を全て聞いたみーちゃんが青ざめて叫んだ。
まだ幼いみーちゃんには理解できないことだったようだ。
僕はそうでもないけどね。
事務所たちがそんなことをするほどバズったのかが理解できなかっただけで、九尾の狐として永い生を生きながらストーカーに一度も遭ったことがないとは言い難い。
むしろストーカーはうんざりするほど遭った方だ。
僕を退魔しようと追ってくる退魔士もいたし、九尾の狐としての外見に惑わされて追いかけ回すイカれたストーカーたちもかなりいた。
だから有名になったせいでストーカーができてしまうを変だとは思わないし、ストーカー如きにそれほど負担も感じない。
事務所の人たちがストーカーになったとしても命を狙ったりはしないだろうからな。
この時まで僕はそう思っていた。




