第15話 隠し部屋での戦闘4
「うわッ!!」
一瞬で視力を奪うほどの眩しい光。その光に僕は『まさかイエティの最後の攻撃か!?』と体を緊張させたが、その後続く攻撃はなかった。
どうやらただあのイエティの目玉が割れたことで出た単なるエフェクトのようなものだったらしい。
いや、いくら何でもちょっと眩しすぎじゃないか? 目がメッチャチカチカするんだけど。あ、もしかしてこれを狙って?
確かにもしこの空間にイエティ以外の他のモンスターがいたら、この攻撃は確かに有効だったかもしれない。
……そもそもこの空間にはイエティしかモンスターがなかったのだから意味ないけど。
ダンジョンでわけのわからないことが起きることが多いというのはこういうことか?
とにかくここに駐屯していたモンスターであるイエティを倒したのだから、視力が回復するまでこのまま休んでいても良いだろう。
そんなことを考えながら視力が回復するのを待っていると、僕の視力が戻るよりも先に体に衝撃が加えられた。
「……!!」
「皓くん!!! 大丈夫!? 無事!? 傷は!!?!?」
敵かと思えば、鈴ねーだった。
まさかあの入り口を自力で見つけたのか? と思ったけれど、鈴ねーが支離滅裂に話すのを聞くと、イエティを倒したことで隠し部屋の入り口が開いてここまで入ってこられたようだ。
塞がった隠し通路の前で僕の戦闘が終わるのをかなり焦って待っていたようで、鈴ねーはあせたくの顔で僕の状態を確認した。
それほど傷は負ってないんだけどね。
でもここで変に落ち着いているのもおかしいだろう。
そう頭で考えた僕は怯えた振りをしながら、鈴ねーの胸に抱きついた。
「り、鈴ねー。僕怖かったよぉ〜。シクシク!」
「ああ、皓くん! 怖かったよね! もう大丈夫だから! お姉ちゃんがいるから! ああ、どうしよう。皓くんの可愛いお顔に傷が! 皓くん、痛いよね? お姉ちゃんがすぐ治してあげるから!!」
そう言った鈴ねーは僕の体にあるかすり傷一つ一つに薬を塗っていった。
目が見えなくてちゃんと動けないという理由で、そのまま鈴ねーに治療を受けていた僕は、 ruralいくばくもなく鈴ねーの手を止めた。
「鈴ねー。もういいから。もう薬塗るのやめていいよ」
いくら何でも配信の途中で服の中に薬を塗るのはちょっとね……。
僕の止める言葉にようやく正気に戻った鈴ねーが手を止め、コソコソと薬をバッグに戻す音が聞こえた。
そうしている間、視力がある程度戻った僕は目をパチパチとさせた後、鈴ねーの腕から抜け出そう……としたのだけれど。鈴ねーのホールドが強すぎて失敗してしまった。
「鈴ねー。離してくれない?」
「ダメ! 皓くんは怪我してるんだから! 無理しちゃダメ!」
「……」
別に無理はしてないんだけど。そもそも大した傷でもなかったし。
ところで鈴ねー。さっきから皓くんって呼んでるけど。もう芸名で呼ぶの諦めたでしょ。 身バレどうするつもりだよ。まあ、もう遅いんじゃないか、て気はしてたし。鈴ねーがそう呼ぶなら僕もそのまま普段通り呼ぶけどさ。
それはともかく、鈴ねーはホントに心配がたっぷりこもった表情で僕と目を合わせていた。
はぁ。仕方ないな。ここまで心配をさせておいて鈴ねーの好意を無義にするのも少し気が引けるし。
仕方なく僕は鈴ねーの腕に体を預けたまま言った。
「じゃあ、鈴ねー。あっちに行きたいから。運んで」
「ん? うん……別に危なそうなものもないから大丈夫かな。いいよ。はい。皓くん。キューっと、お姉ちゃんに抱っこして!」
「はぁーい」
この体に生まれてから今までじゃんじゃんやって慣れまくった抱っこだけど、こ、この姿が配信で視聴者たちに見られていることを考えると何か恥ずかしいな。まあ、今は確認したいこともあるから、仕方なくスルーするけど。
とにかく鈴ねーに抱かれた僕はそのまま鈴ねーに指差しで方向を教えた。
すると鈴ねーがそれにしたがって前へと足を進めた。
僕は僕の体に負担がかからないように、音も立たないくらいに歩くのに気をつける鈴ねーにちょっと申し訳なさを感じながらも指差しを続けた。
そうして到着した場所は、最初にイエティが立っていた祭壇の後ろ。
そこで僕は迷うことなく手を祭壇と壁の間の狭い隙間へと伸ばした。
鈴ねーが「あっ!」と驚いた声を上げるのが聞こえた。
だけど今は無視だ。
なぜならさっきイエティから放たれた眩しい光の中から出た何か小さなものが、こちらへ逃げていく気配を感じたからだ。
僕の予想通りならそれほど危険なものでもないし。何より取り逃がすにはもったいないからね。
そんなことを考えながら祭壇の後ろ、奥深くへ手を突っ込んだ僕はニヤリと口元を上げ、そこに隠れているものを迷いなくギュッと握りしめた。
「……おお、つかまえた★」
僕はそう呟きながら祭壇の後ろに突っ込んでいた手を元に戻した。
すると祭壇の影に隠れていたものがダンジョンの光に照らされて露わになった。
さっき僕が戦っていたイエティと同じ真っ白な毛皮の塊。柔らかく動く尾と体。そしてまんまると可愛らしい二つの瞳。
それは真っ白な毛を持つイタチだった。
「……キュー! キューウウッ!!」
僕の手につかまったイタチが怯えたように悲鳴を上げながら暴れた。
僕がそれを離さずに握っているおかげで、そんなイタチの姿を見た鈴ねーが言った。
「……フェレット? ここ、ダンジョンなのに? ……まさかモンスター!? こ、皓くん! 早くそいつ捨てなさい! ばっちいよ! ばっちい!」
「キューッ! キューウウッ!!」
鈴ねーの『ばっちい』という発言に『何を言っているんだ! この僕がばっちいわけないでしょう!! そして誰がフェレットだ!!』と僕にしか聞こえない言葉で反論する白いイタチ。
僕はその姿を見下ろしながら鈴ねーとカメラに見えない角度でニヤリと不気味に笑った。
鈴ねーの考えと違ってこいつはフェレットでもモンスターでもない。
いや、まあ似たようなものと言えば似たようなものだけど。正確に言うとこいつはモンスターではなく妖怪。そしてその中でもかなり有名な――。
「……鎌鼬」
「ん? 皓くん何か言った? いや、それより皓くん! ばっちいからその子手から放してってば!」
「……」
あまりにも小さな声に僕の言うことをちゃんと聞き取れなかった鈴ねーが他のところに気を取られている時、動物の敏感な耳でちゃんと僕の声をとらえたはずの鎌鼬がピタリと動きを止めた。
そのままゆっくり頭を上げて僕と視線を合わせる鎌鼬。
そんな鎌鼬とそのまま視線を合わせた僕は、まだ妖狐のままの目を丸くし笑顔を作りながら鎌鼬に言った。
「君、僕と一緒にうちに来ないか?」
もちろん、答えはyesだけだよ?




