第14話 隠し部屋での戦闘3
「核の中から何か覚のある気配が感じられるんだよね……」
僕は目を細めてイエティの頭の真ん中に埋まっている赤い目玉を睨んだ。
やっぱりイエティの赤い目玉の真ん中から覚のある気配が感じられた。
何なのかはっきり思い出せないけれど、何となくこのままあの気配まで斬ってしまったら、後で少し後悔しそうな気がするんだよね。
そこまで考えた僕はイエティの攻撃に吹き飛ばされて壁にぶつかる振りをした後、ポロポロ落ちる土埃の中で呟いた。
「……よし。決めた!」
あの赤い目玉の中にあるものが何なのかは分からないけれど、気配からしてそれほど危険なものではなさそうだし、一度何か確かめてみるとするか!
ちょうどインパクトのある派手な見ものが必要だと思っていたところだし。ついでということで!
そう決心した僕は今まで絢爛に動いていたのを止め、その場にまっすぐ立った。
すると思ったより善戦する僕の姿に速度が少し落ちていたコメントが再び火を噴いた。
[えっ? 弟くん何で止まるの!?]
[まさか壁にぶつかったところが悪かったとか?]
[いくらスキルを持っているとはいえ、まだ小学生なんだからあれだけ派手にぶつかると確かにヤバイかも]
[弟くん諦めないで!! 頑張って!!]
[ヤバイヤバイヤバイヤバイ! リンネちゃんが入り口を探しているからもう少しだけ耐えて!!]
[リンネ:皓くん! お姉ちゃんが、お姉ちゃんがすぐに行くから! もう少し頑張って! 今皓くんが消えた場所を探しているから!]
うーん。あれはちょっと戰鬪特有の緊張感を見せたくてやっただけで、ここまで心配させるつもりはなかったけど。どうやら壁にぶつかった衝撃が大きすぎて僕が動けないと勘違いさせてしまったようだ。
誤解を解きたいところだけど、今はそんなことを気にしている場合じゃないんだよね。
この術を使うには今までよりずっと集中する必要があるからな。
前世だったらこれくらいの術、息を吸うように使えたはずなのにな。
たかがこんな小細工みたいな技術に集中までしなければならないなんて。落ちるところまで落ちた自分の力にため息が出た。
だがこれも仕方ないこと。
僕は人間三日月皓として転生しながら、九尾の狐としての能力はほとんど失ってしまった。
新しい生と九尾の狐としての能力を等価交換したと見てもいい。
まあ、だからと言って能力を取り戻す方法がないわけではないけどね。
とにかく今の僕は前世に持っていた九尾の狐としての本来の能力、それもごく一部の能力を使うのにも精神を集中する必要があった。
さあ、今はとりあえず集中。集中だ。早く目の前の奴をやっつけないと。鈴ねーがこの中に入ってしまったらどうやってもみんなの注目が分散されてしまうはず。鈴ねーが中に入ってくる前に何としてでも奴を倒さないと!
僕は鈴ねーが隠し部屋に入る前にイエティを倒してみせる!と気合を入れながら、自分の中の妖力を慎重に動かし始めた。
耳を閉ざし、大きさに比べて軽い音を立てて再び自分に向かってくるイエティの足音を無視して。
目を閉ざし、速いスピードで出力される視聴者たちのコメントも無視して。
全ての感覚を体内を流れる自分の妖力に集中。集中。集中。
そうやって集中すること数十秒。
イエティがすぐ数メートル前まで迫ってきた時、
僕はついに完成したワザを体の外へと顕現させながら呟いた。
「僕の前を立ち塞がる全ての不敬を燃やせ。【狐火】」
僕の言葉が終わるのと同時に、僕の体から放たれた無形の力が形を持ち青い炎となって隠し部屋を満たした。
ゆらゆらと揺れる美しい空色の炎。
今にも消えそうな危うさが感じられる炎たちが妖しく視線を奪った。
しかし危うく見えるのはただの見た目だけ。
その内部に込められた力は無視できるものではない。
だけどそれを目の前の無駄に大きいだけのモンスターが知る由もなく。
イエティは自分の前を立ち塞がる小さな炎を無視し、これまで通り勢いのまま敵、僕三日月皓に向かって突進してきた。
自然とイエティにすれ違うように触れる青い炎。
それを見た僕はニッコリと笑みを浮かべ、小さい声で呟いた。
「ポン!」
僕の言葉と同時にイエティの毛に触れた青い炎がポンッ! と力強く弾けた。
ちっぽけな火種だったそれは勢いよく、貪欲にイエティの体を喰らい尽くしていった。
次第に燃えていくイエティの白い毛。
その後に残るのは完全なる消失。
すでに消え去ったものを操って体を復元するような芸当を見せる能力までは無いイエティの体は、当然のようにどんどん体積を減らしていった。
キィィィン! フォォン! フゥンッ!
最後のあがきと言わんばかりにイエティはこれまでとは比べ物にならないほどの勢いで風の刃を飛ばしてきたが、全て無駄なあがきに過ぎず。
奴が放った風の刃はまだ空中に残っている炎に喰われ、僕に届くことなく力を失っていった。
この僕が集中までして作った炎なんだから。当然の結果だよね。
僕の前に立ち塞がった奴に残された未来はただひとつ、破滅のみ。
僕は青い炎が奴を完全に喰らい尽くすまでその様子をただみているだけでいいのだ。
さて、それじゃあこの隙にコメントウィンドウを少し見てみようかな。
[何あれ何あれ]
[きれい、っていうかカッコいい…]
[何あれ、あの火? モンスターが出したやつじゃないよね!?]
[っぽいよね。モンスターほうがダメージを受けてるみたいだし]
[何何、コンくん新スキル???? 可愛いのに強いとか神かよ!!]
おお、反応良き〜。
僕が見せた派手な術にコメントがアップされるのが速くなるのが見えた。後になっては読むこと自体が難しくなっていくコメントウィンドウ。
狙い通りの反応だな。
僕は満足げな笑みを浮かべながらイエティの奴を見下ろした。
数分も経ってないというのに、奴の頭についてた赤い玉だけが残っていた。
「ふむ。こんなものか。念のため警戒はしていたけど何の意義なかったな」
僕はもう抵抗する力も残ってないらしく風を使った攻撃もしてこないイエティに向かって、トコトコとのんびりと歩いて行った。
「おお、思っていたよりデカイな」
毛で埋め尽くされていてどれくらいのサイズかパッと分からなかったけど、こうやって外側を覆っていた毛を全て取ってみると、イエティの目玉、赤い玉はドッジボールくらいのサイズだった。
僕は僕の火できれいに燃やされたおかげで埃一つ残ってないイエティ赤い目玉を両手で持ち上げ、口元を緩めた。
「さて、それじゃあやってみるか」
そう呟いた僕はまだ空中に残ってる青い炎たちを手の中の赤い目玉へと集めていった。
すでに身体の外へ出て形を得たとしても、元は僕の妖力から始まったもの。操ることは息をするように簡単だった。
そうやってイエティの目玉を覆うほどまで集まった力を使って、僕はゆっくりとイエティの目玉に圧をかけていった。
目標は外側と内側の分離。
卵を割るように殻を割ること。
料理に慣れてない者が黄身を割ってしまうみたいに、中にあるものを一緒に壊してしまってはダメだ。
僕はそう考えながら精神を集中した。
「……」
そうやってしばらく時間が経つと。
パリッパリッという音と共にイエティの目玉にヒビが張り、まもなくパリん! と音を立てながらイエティの目玉が真っ二つに割れた。
そしてそれと同時に。
パーーーッ――!!
と、その裂け目から放たれた眩しい光が僕の視野を奪っていった。




