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第13話 隠し部屋での戦闘2

「ハァハァ」


 僕は一瞬逃げるのに疲れたように足を遅くし、奴の攻撃をわざと喰らった!


「くっ……!!」


 小学生の軽い体がブワッと吹き飛んで地面を転がった。


 僕はわざと遠くまで転がった後、傷を負った腕を手で押さえつつ涙目でこう言った。


「……うう。痛いよォ~」


 あとは後ろにいるイエティを警戒する振りをしながら、涙の溜まった顔と傷を、自分を撮っているカメラにさりげなくちらつかせる。

 どこをどう見ても強敵にやられて傷ついた可憐で可哀想な少年の姿!

 ちなみに目に溜まった涙は嘘ではない。


 演技のためにわざと怪我をしたとしても、結構染みるな……。


 優れた反射神経のおかげで普段滅多に怪我をすることがないから、余計痛い気がした。

 僕は染みる傷を手で押さえながら、チラッとコメントウィンドウを見た。

 コメントウィンドウは派手な攻撃を喰らった僕を心配するコメントで埋め尽くされていた。


 フフッ。さすが僕。なんて完璧な演技なんだ!


 さて、これくらいやれば配信を見ているみんなにも僕がピンチだということはしっかり伝わっただろう。


 ピンチに陥ったらその次はなんだ?

 克服!

 つまり、真の姿を見せる!


 獣人の姿に変身してピンチを克服し、可愛くてかっこよく敵をやっつける!

 それこそがピンチに陥ったヒーローのあるべき姿!


 ヒーローじゃないけどね! むしろ人間視点で見れば悪の首領の方だろうけどね!


 とにかく攻撃を喰らってピンチになったし、コメントウィンドウの反応的にも絶好のタイミングだと判断した僕は、ふらつきながら起きた後、涙目でイエティを睨みつけながらこう叫んだ。


「シクシク!もうやだ! お前大嫌い! あっち行けッ!!」


 と叫びながら体内に縛っていた妖力を解き放ち、姿を変える僕!

 ちなみに台詞はわざとちょっと情けなくした。

 可愛い弟ポジションを狙うことを考えれば、これくらいの情けなさが必要だと判断したからだ。

 とにかくそんな結果、僕の頭とお尻からケモミミと尻尾が生えた。すると今までとは比べ物にならないほど感覚が鋭くなるのを感じた。

 第二フェーズ『妖狐の姿』になったことで全体的なスペックがアップされたおかげだった。


 さて、それじゃあ僕の妖狐バージョンに対するみんなの反応は……。


[うわッ! マジでケモミミ出た!!]

[マジかよ! マジでケモミミショタかよ!!]

[おい。お前ら。今そんなこと言ってる場合じゃないだろ。いくら姿が変わったとしてもピンチなのは変わりないからな]

[鈴ねー:皓くん! 大丈夫!? お姉ちゃんが今すぐ行くからね!!]

[いや。イレギュラースライムをワンパンで倒したことを考えると、あの姿ならかなり強いっぽいし。ワンチャンあるかも]


 うん。よしよし。しっかり盛り上がってるな~。


 それにどこにも嫌な反応はないし、むしろ心配する反応がほとんど。

 思った通りこの姿は現代の人間にはウケが良いらしい。

 そこまで確認した僕はまだ少し抱いていた不安をやっとおろしてから考えた。


 それにしても鈴ねー。芸名じゃなくて僕の本名そのまま呼んでるけど。そんな基本的なことにも気をまわせないくらい心配しているってことかな。

 なんか悪いな。ここを出たらしばらく鈴ねーのワガママにちょっと付き合ってあげるか。あと詫びに何か買ってプレゼントしよう。


 さてみんなの反応も確認できたことだし。真面目にやってみるか!


 妖狐の姿になった僕は体を低くしてイエティの大きな体を睨んだ。

 今にも血で血を洗う激しい戦闘が繰り広げられそうな緊張感が空間に満ちた。

 しかし、僕は今すぐイエティの奴を仕留めるつもりはなかった。


 まだこの妖狐の姿の能力をちゃんと見せてないからね。あと何よりハンターになるのにただ情けないだけというのもおかしいと思うし。


 それにダンジョン配信を親に許してもらうには、しっかり実力を見せておかないと難しいだろうしな。


「そういうわけで今からは僕の能力を最大限アピールする方向に動いてもらうよ!」


 そう呟いた僕は今までずっと避けてばかりいた態度を変え、再び突進してくるイエティの攻撃を華麗な動作で回避し、獣のように鋭くなった爪で奴の体に傷を負わせた。


 目をまばたくほどの短い時間。

 その一瞬の間にイエティの体には無数な傷が刻まれた。

 そしてそれと比べてイエティは僕にそれらしい傷一つつけられずにいる状況。

 それが続くとそれをカメラを通して見ていた視聴者たちのコメントが熱を帯びた。


[オイオイ。何あれ。凄すぎるだろ!]

[本当に小学生?嘘でしょ?強すぎるんですけど!!??]

[正直イレギュラースライムの件は合成か運のおかげかだと思ってたけど、これなら納得]

[あ、ホラー苦手でそろそろ出ようかと思ってたけど、これなら安心してみられるかも]

[いやいや、安心てのはないだろ。確かにリンネの弟くんの方が優勢に見えはするけど、よく見て見ろよ。あの白いやつすぐ傷を回復してるぞ!]

[あ、本当だ。あれじゃ弟くんやばいかも]


 コメントの言う通り。

 奴は優れた回復能力を持っていた。

 傷を負わせてもすぐに傷のあった痕跡まで消えてしまうし。攻撃されたイエティの奴もまるでハエでも止まったかのように気にも留めなかった。

 さっき斬りつけた傷がまだ残っているわけではなかったら、僕が攻撃を失敗したのかと思うほどの無反応。


 確かに戦闘スキルやセンスの側面では僕の方が優れているが、これでは埒が開かない。

 傷を負わせても負わせても、それがみるみる元通りになるのだから。

 このまま戦闘が進むと、体力にそこがある俺が負ける確率が高いだろう。


「だからといって勝つ方法がないわけではないけどね」


 多くの攻防をつづけた結果、気づいたことがあった。

 僕はそれを確認するため奴の腕の上へ飛び上がり、奴の腕に深い傷を負わせた。

 すると腕の半分ほどが斬り落とされ、その内側が見えるようになった。

 その断面にはイエティの外側と同じ毛の塊しかなく、それも速い速度で復元されていった。


「やっぱりな」


 僕は手に付いた奴の毛の塊を払い落としながら呟いた。


「予想通りというべきか」


 実は奴と攻防をつづけながらずっと考えていた事があった。


 音が軽すぎる、と。


 奴の動きからは生物なら基本的に持っているはずの骨と肉から出る音が聞こえてこなかった。

 聞こえるのは何か無機物に近いものが動く軽い騒音だけ。


 さらに念のためと傷の断面を確かめてみたが、そこを通して見えるのはイエティの外側と同じ毛の塊だけで、それも速い速度で復元されていった。

 つまり、目の前のイエティはただ動く無機物だということだ。


「もしかしてあんな姿をしておいてゴーレムとかそんな部類なのか?」


 毛でモサモサのゴーレムがいるという話は聞いたことがないけど。

 それともこれも社会科見学で倒した巨大なスライムみたいに特殊なケースなのか?


 念のため他の場所も攻撃してみたが、奴からこれといった反応を得ることはできなかった。

 さらに負わせた傷を復元する速度も全然変わりがなかった。

 つまりあれだ。目の前にいる奴の体はただ何かに操られる毛の塊に過ぎないということだ。

 そしておそらく本体は――。


「頭の中央にある赤い目か」


 ならそれを叩き割るか何かして破壊すればいいはず。

 だからそれ自体はそれほど難しいことではなかった。


 ただ、問題が一つあるとすればーー。





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