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第14章 見守る人



翌朝。


神戸のホテルを出発し、


二人は電車に乗って、大阪へ向かっていた。




窓の外を、朝の街が静かに流れていく。




向かい合って座る二人の手元に、


同じ光があった。




左手の薬指。




青の指にも、


蒼太の指にも、


昨夜と変わらず、指輪がはめられている。




特別なことは、何も起きていない。


それでも――


世界が、少しだけ違って見えた。




蒼太は、何気ない仕草で、


自分の指輪を親指でなぞる。




その動きを、青は黙って見ていた。




昨夜交わした約束は、


もう言葉にしなくても、そこにある。




電車は、ゆっくりと西へ――


二人の次の時間へと、走り出していた。






最初に訪れたのは、


海遊館。




巨大な水槽の前で、蒼太は足を止める。




ゆったりと泳ぐ――


念願だったジンベエザメ。




「……すごい……本当に、いた」




その横で、青は何も言わず、


蒼太の横顔を見ていた。







午後は、


**新世界**へ移動。




揚げたての串カツを頬張りながら、


人の流れに身を任せて街を歩く。




にぎやかで、雑多で、


どこか懐の深い大阪の街。




二人は言葉少なに、


それでも楽しそうに、歩き続けた。







夕方、


**大阪駅**近くのホテルにチェックイン。




空がゆっくりと色を変え始める頃、


二人は大阪駅北へ向かった。




目の前に広がるのは、


梅田スカイビル 空中庭園展望台。




高い場所から見下ろす大阪の街は、


昼とはまったく違う顔をしていた。




無数の光。


途切れることのない街の息遣い。




蒼太は、そっと左手を見下ろす。


そこには、昨夜と同じ指輪。




青もまた、何気なく指輪に触れていた。




大阪の夜景は、


二人の一日を、静かに締めくくっていた。



蒼太は、夜景を見下ろしていた。




大阪の街は、神戸とはまるで違う。


光の密度が違う。


音が、熱が、意思を持って押し寄せてくる。




ビルの灯り。


走り続ける車の列。


止まらない街。




(……すごい)




神戸の夜景が「包む光」だとしたら、


大阪の夜景は――押し出す光だった。




(生きてる……)




周囲には、カップル。


家族連れ。


笑い声、シャッター音、子どものはしゃぐ声。




そのすべてが、現実で、日常で、


当たり前の幸せに見えた。




その時だった。




プルプルプル。


プルプルプル。




ポケットの中で、スマートフォンが震える。




蒼太は、何気なく取り出して――


画面を見て、固まった。




プルプルプル。


プルプルプル。




表示されている名前。




『母』




(……)




呼吸の仕方を、忘れる。




プルプルプル。


プルプルプル。




出られない。




指が、動かない。


頭の中が、一瞬で真っ白になる。




(なんで……今……)




プルプルプル。




そして――


音が止まった。




通話終了。




蒼太は、しばらく画面を見つめたまま、


動けなかった。




すぐに――


ピロン




短い通知音。




LINE。




『蒼太へ、連絡ください。母より』




それだけ




理由も、感情も、何も書かれていない。




それが、余計に怖かった。




大阪の夜景は、変わらず輝いている。


周囲の人たちも、変わらず笑っている。




でも、蒼太の世界だけが、


一歩、後ろに引き戻された気がした。




蒼太は、スマートフォンを強く握りしめた。




(……どうしよう)




夜景の光が、


指輪をはめた左手を、静かに照らしていた。



蒼太の顔から、血の気がすっと引いていく。




「…‥蒼太?」




青の問いかけに返事がない。




蒼太は、夜景を前にしたまま、


まるで時が止まったかのように動かなかった。




青は、その異変を一瞬で察した。




「おい……」




そっと、蒼太の手に触れる。




冷たい。




思わず、その手を包み込むように握った。




「……帰ろう」




強い言葉ではなかった。


でも、迷いのない声だった。




「ホテルに、戻ろう」




蒼太は、ゆっくりと瞬きをして、


ようやく青の方を見る。




その顔は――


さっきまで夜景に感動していた表情とは別人で、


青は胸の奥が、


きゅっと締めつけられるのを感じた。




青は、何も聞かない。




ただ、蒼太の手を離さず、


人の流れから静かに外れるように、


歩き出した。




大阪の街は、相変わらずにぎやかだった。


誰も、二人の変化には気づかない。




それでも、青にとっては――


今、この瞬間が、何よりも優先だった。




エレベーターを降り、


ホテルの部屋に入った瞬間、


張りつめていた空気が、ふっと緩んだ。




「……蒼太、大丈夫か?」




蒼太は一瞬、ハッとしたように顔を上げる。




「……あ、ごめん。青さん……心配かけて」




靴を脱ぎながら、無理に笑おうとする。




「うん……部屋に戻ったら、


少し落ち着いてきた」




青は、その表情をじっと見つめる。




「……本当にか?」




蒼太は、返事をしない。




「蒼太。どうした。


 ……何か、あったんだろ」




しばらくの沈黙。




蒼太は、深く息を吸ってから、


ゆっくりと口を開いた。




「……青さん」




「ん」




「……母さんから……着信が、あった。」




「……え?」




思わず、声が漏れる。




「……怖くて、出られなかった」




拳を、ぎゅっと握る。




「……なんで、今さらって……思って」




言葉が、少しずつ荒くなる。




「もう……母さんがいなくても、


僕は……青さんと、生活が回ってるのに」




視線を落としたまま、続ける。




「……思い出したくも、なかったのに……」




声が、震える。




「……なんで……」




青は、何も言わなかった。




否定もしない。


正論も言わない。




ただ、蒼太の前に立ち、


その言葉がすべて出切るのを待っていた。




「……ごめんなさい、青さん」




ようやく顔を上げる。




「せっかくの旅行なのに……


せっかく、楽しかったのに……」




「……そんなこと、気にしなくていい」




低く、はっきりとした声だった。




「調子、悪いなら……


明日、朝一で帰ろう」




蒼太は、その言葉を聞いても、


何も答えなかった。




ただ、


左手の薬指にある指輪を、


無意識に親指でなぞっていた。




部屋の外では、


大阪の街が、まだにぎやかに息づいている。




けれど、この部屋の中だけ、


時間が、静かに止まっていた。




* * *




翌日。


蒼太の体調はすっかり回復していた。




それでも念のため、


二人は予定を早めて帰ることにし、


ホテルをチェックアウトすると、


そのまま新幹線に乗った。




車内。


蒼太は窓側の席に座り、


流れていく景色を、ずっと無言で見つめていた。




何かを考えている――


それは、青にもすぐ分かった。




青は、何も言わなかった。


今は、言葉よりも沈黙の方が、


蒼太のそばにいられる気がしたからだ。







家に着く。




玄関のドアを閉めた瞬間、


蒼太は小さく息を吐いた。




「……やっぱり」




部屋を見回して、静かに言う。




「ここが……今の自分の居場所だ」




「ああ」




靴を揃えながら、肩の力を抜く。




「なんやかんや言っても、


やっぱり家に帰ると、ホッとするな」




蒼太は少し迷ってから、口を開いた。




「……青さん」




「ん?」




「……あれから、母さんから……


 着信も、LINEも……何もない」




「……そうか」




それだけ答えて、続きを待つ。




「……僕、どうしたらいいんだろう」




言葉が、少し震える。




「どうしたらいいのか……分からないよ」




少し前の蒼太なら、


こんなふうに迷いを口にすることはなかった。




青は、


(変わったな)


と、静かに思う。




そして、穏やかに言った。




「……蒼太」




蒼太が顔を上げる。




「蒼太が、思うようにすればいい」




「……え?」




「それが、正解だから」




蒼太は、はっとしたように目を見開く。




「母親に連絡したかったら、すればいい」




少し言葉を区切って、続ける。




「取りたくないなら、


 ……取らなくてもいい」




「今、蒼太には……俺がいるだろ」




「……」




「だから、何も心配しなくていい」




視線を合わせて、はっきりと言う。




「何が正解かなんて、


周りが決めることじゃない」




「蒼太が出した答え――


それが、答えなんだ」




しばらくして、


蒼太の表情が、少しだけ緩む。




「……ありがとう」




小さく、でも確かな声。




「なんか……少し、心が軽くなった」




一歩近づいて、


そのまま青の胸に飛び込んだ。




青は何も言わず、


腕を回して、しっかりと抱きしめる。




逃がさないように。


でも、縛らないように。




二人の呼吸が、ゆっくりと重なった。




外では、いつも通りの午後が流れている。




それでもこの場所は、


今、確かに――


蒼太の帰る場所だった。



* * *




それから数日が過ぎた。




蒼太は、母に連絡をすることはなかった。


母からも、あの日以来――


着信も、LINEも、何もない。




それ以外は、いつも通りの日常だった。




卒業に向けて、卒論の準備。


カフェのバイト。


大学事務職員採用試験の勉強。




生活は、問題なく回っている。




それでも、


心のどこかに、小さな引っかかりだけが残っていた。




(……このままで、いいのかな?)




蒼太は、何度も考える。




連絡を取るべきか。


取らなくていいのか。




答えは、まだ出ない。




* * *




蒼太は、卒論の資料作成のため、


蒼太は大学へ通っていた。




八月下旬。


大学はまだ夏休み期間で、


構内は驚くほど静かだった。




人影の少ないキャンパス。


風に揺れる木々の音だけが響く。




蒼太は歩きながら、


ふと、ある顔を思い浮かべる。




(……松本さん)




就職課の、あの半個室ブース。


穏やかな声。


否定せず、遮らず、話を聞いてくれる人。




(松本さんなら……なんて言うだろう)




すぐに、首を振る。




(でも……家族の問題だし)




(相談したって……)




そう思いながらも、


足は自然と、


就職課のある建物へ向かっていた。




考えるより先に、


身体が動いていた。




蒼太は、


就職課のドアの前で、立ち止まる。




深く、ひとつ、息を吸った。




(……少しだけ、話を聞いてもらうだけ)




そう自分に言い聞かせて、


蒼太は、ドアを開けた。






蒼太は、就職課に入った。




中に入ると、カウンターの向こうに、


見慣れた姿があった。




(松本さんだ)




蒼太が気づくより先に、


松本の方が、はっとした表情でこちらを見る。




「あ……岡谷君」




そのまま、少し早足で近づいてくる。




「よかった。ちょうど、会えて」




「え? 松本さん、どうかしたんですか?」




松本は一瞬だけ言葉を選ぶように


視線を落とし、すぐに柔らかく笑った。




「いえ……よければ、


少しお話できませんか?」




「え、はい。何でしょうか?」




「ここだと、ちょっと……」




そう言って、奥の方を指さす。




「会議室がありますので、そちらで」




「……あ、はい」




蒼太は案内されるまま、


就職課の奥へと進んだ。







扉が閉まる。




そこは、


完全に外の音が遮られた空間だった。




「……ここ、初めて入りました」




きょろりと室内を見回す。




「こんなところ、あるんですね……」




松本さんは、小さく笑いながら部屋に入り、


後ろ手で扉を閉めた。




そして、テーブルの上に


缶コーヒーを二本置く。




「はい、どうぞ」




「あ、ありがとうございます」




蒼太は缶を受け取り、


その冷たさを両手で感じた。




いつもの半個室ブースとは違う。


逃げ場のない、静かな密室。




蒼太は、


なぜか胸の奥が少しざわつくのを感じていた。




(……何の話だろう)




松本は席に腰を下ろし、


蒼太の方を、


いつもより少し真剣な表情で見つめていた。




松本は、テーブルの上に両手を置き、


少しだけ姿勢を正した。




「……岡谷くん。


まずは、落ち着いて聞いてくださいね」




その声音に、


蒼太は無意識に背筋を伸ばす。




「実は――」




一拍、間を置いてから、続けた。




「岡谷くんのお母さんと思われる方が、


ここに来られました」




「……え?」




思わず、声が裏返る。




「正確には、学生課の窓口の方なんですけどね」




松本は穏やかに説明を続ける。




「私は、以前から


岡谷くんのご家庭の事情を


伺っていましたので、私が対応しました」




「……松本さん……


本当に……母だったんですか?」




「……おそらく、ですが」




松本は、正直に首を傾けた。




「私は、岡谷くんのお母さんのお顔


を存じ上げていません。


ですので、その方が“本当にお母さんか


どうか”を断定することはできません」




一度言葉を切り、慎重に続ける。




「ただ、お話の内容や、


状況から判断すると……


まず、お母さんで間違いないと思います」




蒼太は、膝の上で手を強く握りしめた。




「……母は……なんて言ってましたか?」




「岡谷くんに、会いたいそうです」




その言葉は、はっきりしていた。




「大事な話がある、と」




蒼太の胸が、ぎゅっと締めつけられる。




「連絡をしたそうですが、


繋がらなかった……」




「それで、岡谷くんが以前住んでいた


大宮のアパートにも行かれたそうです」




「……」




「ですが、そこにはもう岡谷くんはいなかった」




「……そうだったんですか……」




「それで、大学の窓口に来られました」




松本は、そこで一度、蒼太の目を見る。




「お母さんは、


岡谷くんがまだ大学に在籍しているのか、


今、どこに住んでいるのか――」




「もし知っていたら、


教えてほしいと頼まれました」




「……」




「ですが、私は答えていません」




きっぱりとした口調だった。




「規則ですから」




「たとえ、ご家族の方であっても、


本人の同意なく、


学生の個人情報をお伝えすることはできません」




蒼太は、深く頭を下げた。




「……そうだったんですね」




「……ありがとうございます」




少し間を置いて、続ける。




「……それに……すみません。


ご迷惑をおかけして……」




松本は、やさしく首を振った。




「いいんですよ」




「気にしないでください」




そして、穏やかに微笑む。




「これも、私の仕事ですから」




会議室の中に、


しばし、静寂が落ちた。






「……松本さん、教えてください」




声が、かすかに震えていた。




「僕……分からないんです」




「どうしたら、いいのか」




視線を落としたまま、言葉をつなぐ。




「母に……会ったほうがいいのか」




「それとも……会わないほうがいいのか」




拳を握りしめる。




「正直な気持ちは……


“なんで今さら”って、それです」




顔を上げる。




「今さら、何の用事で……」




「あんなふうに……


僕に何も言わずに、黙って消えて」




「それなのに……


今度は、勝手に現れて……」




言葉が、途中で詰まる。




松本は、すぐには答えなかった。


蒼太の言葉が、すべて出切るのを待つ。




そして、ゆっくりと口を開いた。




「……岡谷くん」




「あなたの気持ち、よく分かりますよ」




まっすぐ、目を見る。




「今おっしゃったことは、


どれも……至極、真っ当なことです」




「……」




「本来でしたら、私はこう答える立場です」




少し、言葉を選ぶ。




「“決めるのは、あなた自身です”と」




「……」




「ですが――」




一拍、間を置く。




「これは、あくまで


私個人の意見として、聞いてください」




蒼太は、息を呑んだ。




「……以前の岡谷くんでしたら」




静かに、はっきりと。




「このまま、会わないほうがいい。


私は、そう思ったと思います」




「……」




「でも――」




松本は、柔らかく、


しかし確信をもって言った。




「今のあなたは、違います」




「……え?」




「岡谷くん。あなたは、変わりました」




「とても、強くなりました」




蒼太の胸が、小さく鳴る。




「自分の意見を、


迷わず、はっきり言えるようになった」




「困難な状況にも、


逃げずに向き合って、打ち返してきた」




「それは……あなた自身が、


強くなった証拠です」




蒼太は、言葉を失っていた。




「今の岡谷くんなら……」




「きっと――


お母さんと、向き合うことができる」




「たとえ、どんな結果になったとしても……」




「それを“自分で選んだ答え”として、


 受け止められるはずです」




会議室に、静かな沈黙が落ちる。




蒼太は、ゆっくりと息を吐いた。




その言葉は、


「会え」とも


「会うな」とも


言っていない。




でも――


前に進めるだけの強さが、自分にある


そう言われた気がした。




「……松本さん」




小さく、でも確かな声。




「……ありがとうございます」




蒼太の中で、


まだ答えは出ていない。




松本は、少しだけ声のトーンを落とした。




「……これも、あくまで


 私個人の意見なんですが」




蒼太は、黙ってうなずく。




「もし、岡谷くんが


お母さんと会う、という選択をされるなら――」




一度、言葉を区切る。




「電話は、やめた方がいいと思います」




「……」




「会って、話すべきです」




それは、はっきりした口調だった。




「それから……


もし会うとしたら、場所も大切です」




指を組みながら、続ける。




「ご自宅や、周りに人がいる場所――


レストランやカフェのようなところも、


私はおすすめしません」




「……」




「感情がどう動くか、分からないですから」




松本は、静かに蒼太を見る。




「もし会われるのであれば……」




少しだけ間を置いてから、言った。




「この会議室を、


使われてはいかがでしょうか」




「……ここを?」




「ええ」




「事前に言っていただければ、


 私の方で、使えるように手配します」




逃げ場も、遮る壁もない。


でも、第三者の目もない。




「必要であれば、


 私が近くに待機することもできます」




そこで、松本は言葉を止めた。




一瞬、何かを言いかけて――


でも、それ以上は口にしなかった。




松本


「……」




蒼太は、その沈黙の意味を考えていた。




それは、


「逃げるための場所」ではなく、


自分の言葉で向き合うための場所だ。




蒼太は、ゆっくりと息を吸った。




(……もし、会うなら)




その時は、


もう子どもとしてではなく、


今の自分として、向き合うことになる。




松本は、静かに言った。




「無理に、今決めなくていいですよ」




「岡谷くんが、


 “選んだ”と思えるタイミングで」




会議室の中に、


再び、静かな沈黙が落ちた。







「……松本さん、ありがとうございます」




深く、一礼する。




「なんだか……


 少し、答えが見えてきた気がします」




「……そうですか」




「本当に、ありがとうございました。


 失礼します」




扉が開き、


そして――




パタパタパタパタパタ。




足音が、廊下の向こうへ遠ざかっていく。




会議室は、再び静寂に包まれた。




松本は、しばらくその場に立ったまま、


やがて、窓の方へ歩み寄る。




ガラス越しに見えるのは、


キャンパスを駆けていく、蒼太の後ろ姿。




真っ直ぐで、迷いがあって、


それでも前に進こうとしている背中。




(……俺らしく、なかったかな)




ふっと、小さく息を吐く。




(海斗の世話焼き病が……


 うつっちまったか)




少しだけ、苦笑する。




(でも……)




窓の外を見つめたまま、心の中で続ける。




(こういうのも……悪くないか)




蒼太の姿が、建物の影に消える。




松本は、そっと目を伏せた。




(頑張れ……岡谷くん)




会議室には、もう誰もいない。


けれど確かに、




一人の学生が、


自分の答えへ向かって走り出した――


その余韻だけが、静かに残っていた。






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