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第12章 再会 角石と高橋の未来




8月のある休日。


午後の強い日差しが、


リビングのカーテン越しに差し込んでいた。




今日は、蒼陵高校硬式野球部時代、


苦楽を共にした友人、


角石剛志と高橋智也が遊びに来る日だ。




インターホンが鳴る。




蒼太は目を輝かせて、モニターを見る。




「……あ、来たよ!」




「おう。開けるか」




青が玄関のドアを開けた瞬間、


聞き慣れた、角石と高橋の懐かしい声が


一気に流れ込んでくる。




「うわー、久しぶり!


変わってねぇな、佐伯!」




「ほんとだ。……ってか、


部屋すごい広くない?」




「お前ら、いきなり人んちで何言ってんだよ」




笑いながらも、


青の声はどこか嬉しそうだった。




「いらっしゃい。遠いところ、


ありがとうございます」




「相変わらず丁寧だな、岡谷。


 佐伯に見習わせたいわ」




「余計なお世話だ」




リビングに入ると、


四人は自然と円になるように座った。




大学、仕事、野球――


話題は途切れることなく続き、


気づけば笑い声が何度も重なっていた。




「こうやって集まるの、久しぶりだな」




「ほんと。


 高校のときは毎日顔合わせてたのにさ」




「……でも、不思議と、時間空いた感じしねぇな」




蒼太はその言葉を聞いて、少しだけ微笑む。




「みんな、ちゃんと前に進んでますからね」




「岡谷、それ大人すぎだろ」




「でも、分かる気がする。


それぞれ場所は違っても、


ちゃんと繋がってる感じ」






キッチンでは、


角石が手際よく包丁を動かしていた。


まな板の上で小気味いい音が響く。




「今日はさ、俺がごちそう作ってやるから」




フライパンに火を入れながら、


得意げに振り返る。




「楽しみにしとけよ」




フライパンから火が上る




「お前……もはやプロだな?」




テーブルに料理が並び、箸が進む。




「剛志。


実家の洋食屋、めっちゃ頑張ってるし」




「まあな。朝早ぇし大変だけどさ」




「高橋はどうだ?


ジムのトレーナー、順調か?」




「そうだね。なんやかんやで、


人に教えるの好きだし」




一瞬、角石を見ながら、間を置いて。




「……楽しいよ」




その言葉に、青は小さくうなずいた。




「いやー、智也の人気さらに上がってるし、


 6月にもうボーナスもらってたからなww」




「この前なんか、


智也をめぐって、女性会員同士で


取っ組み合いのケンカだぜ」




「角石さん……、よく見てるんだ」




「そういやさ、角石。


まだプラチナ会員なのか?」




「……い、いや、その話は‥‥」




「プラチナ会員?


佐伯よく知ってるね。」




「いや、


最近、剛志は、


レギュラー会員になっちゃってさ」




「ちょ、待て」




「だからさ、


あんまりジムに来てくれないんだよね。


せっかくプライベートトレーニング、


楽しみにしてたのに」




「――っぶ!!」




角石は飲んでいたビールを盛大に吹き出す。




「お、おい!


何やってるんだよ」




楽しい時間はあっという間に、過ぎてゆく。




* * *




夜も更け、


角石と高橋は、


野球部の寮の予備室に泊まらせてもらうことになった。




部屋に入ると、


角石がぐるりと見回す。




「うわぁ……この部屋。


前に泊まったの、一年前だよな」




「そうだね。


なんか……懐かしい」




ベッドに腰を下ろし、深く息をつく。




「ここに来ると、ほっとするよ」




「それな」




少し間を置いて、角石がぽつりと続ける。




「それにしてもさ。


佐々木コーチも来ればよかったのにな」




「今日は同期の飲み会があるって言ってた」




「そっか」




「でも、今度また


みんなで飲みに行こうって言ってたよ」




「お、じゃあまたここ来れるな」




「うん。楽しみだね」




シャワーを浴び、


それぞれ軽装に着替えて一息つく。




静かになった部屋で、


高橋がぽつりと切り出す。




「……ねえ、剛志」




「ん?」




「佐伯と岡谷、幸せそうだったね」




「だな」




「パートナーシップ宣誓証明書、


見せてもらってたけど……


すごく、よかったよ」




「……そうだな」




少し視線を逸らしながら。




「俺も見たけどさ。


なんか……すげーよな」




しばしの沈黙。




「……」




「……」




「ねえ」




「ん?」




「……立川市でも、


 パートナーシップ宣誓証明書、


 申請できるみたいだよ」




「……は?」




「お、お前、いきなり何言い出すんだよ」




「え?」




「あ、あ、あのさ……


 佐伯と岡谷がやったから、


 じゃあ俺たちも、ってのは


 ちょっと違げぇだろ?」




「……え、そうなの?」




高橋の一瞬、しょんぼりした声。




「なんだ……残念」




「いや、違う、そうじゃなくて」




角石は慌てて言葉を重ねる。




「別にさ、


申請するのが嫌だとか、


そういう話じゃねぇんだよ」




「……」




「申請するならさ、


まず一緒に住まないといけないし」




「うん」




「その前に、


お互いの両親に挨拶して――」




「じゃあさ」




「……ん?」




「一緒に住む?」




「……は?」




「一緒に住めば、申請できるんでしょ?」




「住むって……」




「おい、どこに住むんだよ」




「……」




「俺の家はさ、自宅兼職場だし……」




言葉が、途中で止まる。




部屋の空気が、


さっきまでとは違う重さを帯びる。




「……そっか」




「い、いや、いや、いや……まあ、その……」




頭を掻きながら、言葉を探す。




「あのさ……妹がさ、もうすぐ家出るんだよ」




「……うん」




「そうすりゃ部屋空くし……


近い将来、まぁ……不可能じゃないよな。


うん、うん」




「……一緒の部屋じゃないんだ、剛志」




「お、おい!」




「俺の部屋、どんだけ狭いか知ってんだろ。


中学まで、ほぼ毎日俺ん家来てたくせに」




「うん。そうだね」




少し笑って。




「毎日来てたね。……懐かしいな」




「……」




角石は一呼吸する




「ま、まあ、住む場所は……


それはまた、おいおい話すとしてだ」




一拍置く。




「……両親の挨拶、どうすんだよ」




「うん……剛志の両親は、


 たぶん大丈夫なんじゃない?」




「だよな」




「親父もお袋も、


昔からなんでかお前のこと大好きでさ」




「……俺より可愛がってなかったか?」




「ふふ。剛志の両親、優しいからね」




「‥‥‥」




「……問題はさ」




角石の少し声が低くなる。




「お前の両親なんだよ」




「……」




「昔から、なんか苦手でさ。


 圧があるっていうか、


 凄みがあるっていうか……」




「挨拶行くの、正直ちょっと緊張する」




「……剛志」




「大丈夫だよ」




「……ん?」




「……俺」




高橋は言葉を選ぶように、息を吸って。




「……もう、両親には言ってあるから」




「……は?」




「だから」




「高校入学するときに、もう話してる」




「……何を」




「俺は、剛志のことが好きだって」




「……」




「将来、剛志と一緒にいたいって思ってるって」




「……はっ?」




「お、おい、


 そんなの……聞いてねぇよ!?」




高橋は、


自分でも分かるくらい顔を真っ赤にしていた。




角石は、まるで確認するように言った。




「お、お、お……


ちょ、ちょちょちょちょちょ、待て」




「……うん」




「じゃあ、なんだ?


高校入学の時には、


もう……話してたってことか?」




「うん。そうだね」




高橋は少し照れたように。




「ちょっと、緊張したけどね」




「……」




「そ、そんな……」




「俺さ、高校入学してからも、


お前んちの両親にしょっちゅう会ってんだぞ」




「うん」




「……じゃあ、その時にはもう、


 全部知ってたってことか」




「うん。そうなるね」




「……」




「じゃあ……なんだよ」




「そういうことだから、


お前んちの両親……


俺に対して、なんか圧かけてたってこと、か?」




「うん、まあ……そうだね」




苦笑い。




「うちの両親、素直じゃないから」




少し間を置いて。




「だからさ」




「うちの両親、


 剛志が、いつ話しに来るか


 ずっと待ってるんだと思うよ」




角石の顔が、一気に赤くなる。




「お、おい……」




「い、今さら……


 今さら、お前んちの両親に、


 どう顔向けすりゃいいんだよ……」




「『ご挨拶が遅れてすいません』とか、


そういうこと、言わなきゃなんねぇってことか?」




「……」




「大丈夫だよ」




「いつも通りでいい」




「……」




「剛志が、


 剛志のままで来てくれれば」




その言葉に、


角石の胸の奥で、何かが解けた。




角石は、しばらく黙り込んだあと、


観念したように小さく息を吐いた。




「……しゃーねーなー」




「じゃあ、次の休みな」




「お前んちの両親に、


 挨拶しに行くわ」




「……うん」




少し間を置いて、


高橋は柔らかく笑う。




「剛志、かっこいいよ」




「……そ、そうか」




「うん」




「剛志は、昔からかっこいい」




角石は


照れ隠しのように立ち上がる。




「よし!」




「じゃあ、練習するぞ、智也」




「……え?」




「練習?」




「そうだよ」




「挨拶の“予行練習”」




「……」




「やっとかねぇと、


 当日、絶対噛むだろ」




「……ふふ」




「いいよ」




「遅くまででも、


 付き合う」




「おう」




二人は向かい合って座り、


ぎこちない“練習”を始めた。




何度も噛んで、


何度もやり直して、


そのたびに笑って。




夜は、


静かに、そして確かに、


未来へ向かって更けていった。


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