第2話 邪魔はいつも突然に②
「しかし……誰も来ないわね……」
あれからしばらくの間、上空から周辺の様子を伺っていたが、遺跡周辺に変わった様子はなかった。
遺跡に近づく者すらいない。
「魔女協会から誰か派遣されるかと思ったけど……来なかったわね。吞気にお茶でもしているのかしら」
一番近くの街は、魔法都市ヘクサフェル。
だから、魔女協会が魔女を派遣してくると思い、様子を伺っていたのだが来なかった。
「興味がない、なんてことはないでしょ。……となれば、既に遺跡内に入っているか、調査を終えているってことかな……」
ソーちゃんが遺跡について連絡を貰ってから日は跨いでいないが、だいぶ時が経っている。
だから、既に遺跡の中に入ってしまっている可能性は充分に考えられることだ。
まあ、遺跡の中でバッタリ鉢合わせしても、処理すればいいだけだから、気にしなくていいんだけど。
「考えていても仕方ないし、行きますか」
ソーちゃんは、山肌の中腹にある遺跡の入口へと飛翔した、その時だった。
地上から幾つもの魔弾が、こちらへ飛んでくる。
「にょわ!」
慌てて回避行動を取った。
魔弾はこちらの横を通り抜けていく。
「危ないわねー! 誰よ! ソーちゃんを撃ち落とそうしているのは!」
魔弾が飛んできた地上へと視線を向ける。
そこには、黒いローブを着た者が四人ほど立っていた。
「魔女……? いや、魔女の雰囲気じゃないわね」
フードを被っており、顔どころか種族すらも確認できない。
唯一わかっているのは、ソーちゃんに敵対していること。
なんせ、皆それぞれに獲物を持ち構えているから。
「まあ、攻撃をしてきたということは、敵に間違いないだろうから、やっちゃって問題ないよね」
先に攻撃したのは向こうだ。
殺さる覚悟はあるだろう。
自身の周囲に四発の魔弾を生成する。
「誰だか知らないけど、攻撃する相手を間違えたわね」
そして地上に向けて、四発全てを放つ。
魔弾は一直線に相手へと向かっていく。
相手は魔弾が放たれたことを確認すると、上空へと飛翔して避けた。
「あら、凄い。飛翔魔法を使えるなんて素人ではなさそうね」
そして、四人はソーちゃんに対して空中戦を仕掛けてきた。
◇◇◇
「アハハッ! あなたたち最高ね!!」
迫りくる魔弾を避けながら、相手に拍手を送る。
それほどにこの四人は強かった。
なんせ、こちらの攻撃は全て回避されているのだ。
「ねぇ? あなたたちは魔女じゃないよね?」
「……」
ソーちゃんの問いかけには一切答えない。
帰ってくるのは、魔弾と武器による攻撃だけ。
「人間? それとも魔族かしら? ソーちゃん気になるな~!」
魔弾を八発生成。
一番近くの敵に放つ。
「……」
標的となった者は回避行動に移行し飛び回り、避けれない魔弾は武器で切り裂いていく。
その間に、他の三人がソーちゃんに攻撃を仕掛けてくる。
ある者は、魔弾で。
ある者は、槍斧で。
ある者は、2本の直剣で。
「いいね! ナイスコンビネーションだよ!」
飛んでくる魔弾は、魔弾で迎撃。
槍斧と直剣で斬りかかってくる者たちには、炎壁で炎の壁を周囲に生成し近づかせない。
攻撃できないと判断すると、相手はソーちゃんから距離を取る。
引き際もわかっていて凄い。
「どう? ソーちゃんも凄いでしょ?」
魔弾を瞬時に二十発生成。
「でも、まだまだ序の口なんだからね!」
そして杖を持った敵に集中して放つ。
連携を取ってくる敵に対して、一番有効なのは一人に絞って攻撃を加えていくこと。
つまり、順番に処理をしていけばいいだけ。
放たれた魔弾の全てが一人の敵に対して、集中して飛んでいく。
互いにぶつかり合うこともなく、器用に相手を追尾する。
「……ちっ! カバー!」
そこで初めて相手が声を上げた。
女性の声に従い、それぞれが狙われている者のカバーへと回っていく。
もちろん、ソーちゃんのことも忘れていない。
二人が魔弾の迎撃に回り、二本の直剣を構えた者がソーちゃんへの牽制に回る。
……ふふっ、わかってるじゃん。
ここで三人全員が迎撃に回っていたら、そこで勝負はついていた。
ソーちゃんが迎撃に回った者を背後から攻撃。
それを繰り返して終わりだった。
だが、相手はしっかりとそれを警戒し対応してきた。
「アハハッ! ほんと最高だね!」
でも、それは最初からわかっていた。
ソーちゃんの狙いは、相手を一人にすること。
それは状況が違えど、達成すればいい。
そして、そのチャンスは向こうからやってきてくれた。
「……」
相手は、右手の直剣で突きを放つ。
……牽制にしては当てにくるね!
最小限の体の動きで、あえて右側に避ける。
すぐさま相手は、左手に持った直剣で回避行動を取ったソーちゃんを狙う。
回避先と相手の直剣の軌道が重なる。
普通なら直撃だろう。
……普通ならね。
迫りくる直剣を《《下から》》魔弾で弾いた。
「なっ!?」
初めて相手から驚愕の声が聞こえてくる。
下から魔弾が直撃した剣は上へと弾かれ、体ががら空きになった。
すかさず、がら空きになった相手の腹部に手をかざす。
「アハッ! チェックメイトだね!」
相手に満面の笑みを浮かべる。
笑顔は大切だからね。
そして至近距離で魔弾を放った。
「グハッッ……」
魔弾を至近距離でくらった敵は、地上へと落下していく。
まずは一人。
「ダイル!!」
魔弾を迎撃していた一人が、即座に落下していく仲間へと向かおうとする。
「脱落!」
しかし、女性の声で制止された。
……残念。追っていたら、二人目も落とせたのに。
連携が取れているということは、仲間との絆が強いということ。
であれば、地上へと落下していく仲間は見捨てないと思った。
だが、相手は仲間を切り捨てた。
「アハッ! 良い判断ね!」
ここで殺してしまうのが、勿体ないくらいだよ。
「陣形!」
女性の声と共に相手の動きが変わる。
一人脱落することも想定された対応だ。
心が踊る。
もっとソーちゃんを楽しませてよ!
「アハハッ! 次行くわよ!」
「攻撃!」
互いの魔法がぶつかり合い、至る所で爆発が起こる。
まるで、空に無数の黒い花が咲いているかのようだ。
一人が急接近し、刀剣で斬りかかってくる。
「よっと!」
体を捻り回避。
すかさず魔弾を生成。
しかし、回避行動に合わせて、槍斧を持った者が背後から、薙ぎ払う。
「よいしょ!」
攻撃が来た方向へと宙返りして、飛び越える。
そして生成した魔弾を放つ。
「はぁぁぁ!!」
放たれた魔弾は、槍斧によって切り裂かれた。
「カバー!」
女性の声と共に、魔弾が襲来。
攻撃後の隙は逃すつもりはないのだろう。
だが、ソーちゃんの方が魔法の生成は速い。
「それ!」
すぐさま、魔弾を生成し迎撃。
爆発の煙で視界が塞がる。
「――もらった!!」
煙の中から、勢い良く刀剣が振り下ろされる。
……そろそろだね。
振り下ろされる刀剣を庇うようにして左腕で受け止める。
剣と生身の肉体がぶつかり合う。
でも、それでいい。
ガキン! という音が響き渡り、刀剣の刃が砕け散った。
「馬鹿な!?」
相手から驚愕の声があがる。
まさか、腕が切り落とされるのではなく、刃が砕け散るなど想像もしなかっただろう。
「アハハッ!! 魔女にはこんな魔法もあるの!!」
「ちっ!」
すぐさま相手は、後方へと距離を取ろうとする。
ダメだよ。
ここで二人目を落とすのだから。
「――逃がすわけないでしょ!」
すかさず相手に体を寄せ、右手で相手の首を掴んだ。
「ぐっ!」
「アシム!」
一人が槍斧を振り上げ、ソーちゃんを引き剝がそうと迫る。
けど、もう遅い。
「『爆発』」
ドカン! と黒い花が咲いた。
同時に後方へと飛翔し、煙から離れる。
煙の中から、頭を失った胴体だけが落下していく。
「アシム!! ……くそっ!!」
槍斧を持った相手が仲間の名前を叫ぶ。
爆風で吹き飛ばされたようで、距離が空いていた。
「隊長! 一時撤退を!」
残っている一人が、傍により撤退を訴える。
「アハッ! 撤退してもいいよー? 見逃してあげるから!」
「……何?」
あえて撤退を促す。
ソーちゃんは、優しいからねー。
「だって、攻撃してきたから反撃しただけだし? 二人は殺せたから満足だよ。だから、大人しく帰りなよ」
「……」
槍斧を持った敵から、凄まじい殺気を感じる。
フードで顔は見えないが、きっとソーちゃんを睨んでいるに違いない。
……いい殺気。
そりゃ、仲間をやられて撤退なんて出来るわけがないよねー。
敵に大人しく帰って良いと言われて、帰るわけがない。
それでは、死んだ仲間に顔向けが出来ないから。
死んだ仲間のためにもと、一矢報いたいはずだ。
……さぁ、どうするの?
これまで通りに正常な判断ができるなら、撤退を選択するだろう。
でも、できるかな?
仲間を二人も失って、おいそれと帰ることが……。
「……バルム。援護を」
「隊長!? 私たち二人では!」
「うるさい! ここで撤退しては、あの方に顔向けできん!」
「しかし……」
「これは命令だ!」
「……わかりました」
二人は撤退せずに武器を構えた。
……残念だよ。
最後の最後で選択を誤るなんて、悲しいね。
正解は、死んだ仲間に顔向け出来なくても撤退すること。
撤退すれば次に繋げることが出来る。
そうすれば、いつかはソーちゃんに一矢報いことができただろうに。
最高だっただけに残念だよ。
「行くぞぉ!!」
女性の合図と共に、二人はソーちゃんに突貫した。
◇◇◇
「ねー? 生きてるー?」
ソーちゃんは、地面に横たわっている女性の横にしゃがみ込む。
目の前の女性は、来ているローブはボロボロで、フードで隠されていた顔も露わになっていた。
綺麗な金色の髪も薄汚れてしまっており、体の至る所から血を滲ませている。
だが運が良いようで、見る限り致命傷はない。
「もう生きているのは、あなただけなんだけだからさー。質問していいかな?」
周囲には、三つの遺体が転がっている。
一つは、脇腹をえぐられ。
一つは、頭を失くし胴体だけとなり。
一つは、下半身だけとなっていた。
「……」
女性は何も言わない。
殺気を滲ませながら、目だけがソーちゃんを睨む。
「そんなボロボロなのに、殺気を出すとか凄いね! でも……もう勝負は決まっているの。だから、大人しく勝者の言う事を聞いてもらえないかな?」
「き……貴様なんぞに……答えることはない……」
「あなたになくても、ソーちゃんにはあるの」
ちゃんと確認しなければいけない。
彼女たちが何者で、どこの所属なのかを。
「魔族ではなさそうね……でも、魔女ではないよね?」
周囲の遺体は全て男だった。
魔女は、その名の通り女性しかなれない。
だから、魔女協会の者ではない。
「……」
女性は何も言わない。
目を閉じて、だんまりを決め込んでいる。
「ちょっとー……無視しないでよー」
女性の頬を指先で突っつく。
柔らかい頬で弾力もある。
お肌のケアは、欠かさずにいるようだ。
「もう……」
これでは埒が明かない。
……仕方ない。さっさと処理しよう。
女性の口からは聞けないが、体に聞けばいい。
何らかの痕跡は出てくるだろう。
立ち上がり、女性に右手を向ける。
「何も喋ってくれないなら、もう用はないから。じゃあね? 優秀で無口なお姉さん」
そして魔弾を放とうとした、その時だった。
『そこまでにしておけ。性格の悪い魔女よ』
突如として通信が入り、目の前に見覚えのある赤髪の女性が映し出された。
「あれ? カノンちゃんじゃん!」
「た、隊長……!?」
それまで目を閉じて黙り込んでいた女性が、驚きの声をあげた。
え? 隊長?
「あなた、カノンちゃんの部下なの?」
「……」
女性に問いかけるが、何も言わずに視線を逸らされた。
え、何その態度。ムカつくんだけど。
『今そっちに行く。少し待て』
カノンちゃんは、そう言うと通信を切った。




