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第2話 邪魔はいつも突然に①

 古代遺跡。

 その名の通り、古代の人たちが残した遺跡。

 この世界では、こういった遺跡が数多く存在している。

 古代の遺産が数多く保管されており、その遺産を売れば大金持ちになれると言われている。

 その為、一攫千金を狙って遺跡ハンターが、世界中の遺跡を探し回っていらしい。


「よくもまあ、あんな場所に作ったわね……」


 望遠魔法で拡大表示された遺跡を見て、溜息をついた。

 崩れかけた山肌の中腹。

 人が近づくことすら想定していないような位置に、入口がぽっかりと口を開けている。


「土砂崩れで入口があらわになったみたいだけど……よくこれまで見つからなかったねー」


 今いるのは遺跡のすぐそばではなく、あえて距離を取った上空。

 入口がかろうじて視認できる程度の位置だ。

 足場のない空中に、飛空魔法で腰を下ろしながら、半透明の画面越しに様子を探っている。

 もう一度、大きく溜息をつく。


「はぁ……啖呵を切って来てみたものの。いざ来るとめんどくさいなぁ……」


 ソーちゃんが古代遺跡にまで足を運んでいるのは、シエフちゃんから魔法が見つかったとメッセージを貰ったからだ。

 だが、そのメッセージには古代遺跡なんて一言も書かれていない。

 では何故、わざわざ遺跡にまで来たのか。

 それは数刻前に遡る。


 ◇◇◇


「ねぇ、シエフちゃん。もう魔法が見つかったって本当?」


 キルシュちゃんとの幸せな昼食会を終え、すぐさまシエフちゃんに連絡をした。

 まさかこんなにも早く、連絡を貰えるなんと思ってもいなかった。


「お金も払ってないし、まだお願いしてから数刻しか経ってないんだけど?」


 通信魔法で表示した画面には、シエフちゃんが映っている。

 だが、その表情はどこか気まずそうだった。


『すまぬ!』


 開口一番に謝ってきた。

 シエフちゃんは、画面越しに手を合わせ頭を下げる。


『魔法が書かれた魔導書が見つかったというのは、伝達ミスじゃった。まだ、その様な魔導書は見つかっていないんじゃよ』


 小さく溜息をつく。


「だと思った……」


 予想していたことなので、ショックはない。

 どうせ間違いだろうとわかっていたからだ。


『なんじゃ。わかっておったのか?』


「まあね。そんなに簡単に見つかるなら、とっくにソーちゃんが見つけているからねー」


 簡単に見つかる魔法なら、わざわざ魔女をさらって拷問なんてしないし、シエフちゃんにも依頼しない。

 というか、そんな簡単なら世間に知れ渡っているだろうし。

 シエフちゃんは、こちらの言葉に頷く。


『確かにそうじゃな……だが、今回は本当にすまなかった。誤った情報を渡すなど商人としては、失格じゃな』


 詐欺師が何を偉そうに言っているんだろう。


「詐欺師なんだから、そもそも失格じゃないかしら?」


『ははっ! それもそうじゃな』


 シエフちゃんは、大笑いした。

 詐欺師なのに、真面目に商売人として仕事をするとか、ほんと面白い子だよ。シエフちゃんは。


「まあ、いいわ。それで? 伝達ミスってことは、何かしらの情報があるのは事実なんでしょう?」


 シエフちゃんは、伝達ミスと言っていた。

 それはつまり、魔法に関係のある情報が入ったということ。

 まったく収穫がゼロだったというわけではない。


『うむ。関係があるかはまだ定かではないが、関係している可能性がある情報がタイミングよく入ってのう。……これじゃ』


 そう言うとシエフちゃんは、とある文書を画面に映し出した。

 その文書こう書かれていた。


「えーっと……『ガラウス山脈で古代遺跡を発見! 入口に書かれた文字から古代の魔法使いが作ったと思われ、古代の魔法が隠されている可能性大! 集え! 遺跡ハンターたちよ!』……何よこの、胡散臭い記事は?」


 そう言うと、シエフちゃんは笑った。


『ははっ! そう見えるのは仕方ないのう。じゃが、噓ではないぞ? ここに書かれているのは事実なのじゃなからな』


 シエフちゃんがそう言うなら、事実なんだろう。

 詐欺師だけど、商売も真面目にしている彼女だ。

 わざわざ金にならない噓は、つかないだろう。

 だが、その前に気になっていることがあった。


「……っていうか。この胡散臭い記事は何なの?」


 そう。魔法がどうこうの内容よりも、この明らかに遺跡ハンター向けに書かれた記事の方が気になっていた。

 遺跡ハンターは、正式な職業ではない。

 ハンターとかっこよく言っているが、ただの遺跡泥棒だ。

 基本的に見つかった古代遺跡は、すべて国の管理下になる。

 人間領で見つかれば人間側が管理し、魔族領で見つかれば魔族側が管理する。

 だから、一般人が入ることは禁止されているのだ。


『これはな、遺跡ハンター協会が作っている記事でのう。こうやって古代遺跡が見つかった時には、どこよりも早く情報を入手し、協会のメンバーに通信魔法で情報を伝達しているのじゃよ』


 遺跡ハンター協会なんて、初めて聞いた。

 そんな協会まで出来ていたのね。


「じゃあ何? シエフちゃんも遺跡ハンターなの?」


 協会メンバーに送られてくるなら、シエフちゃんも協会に所属しているということ。

 つまり、遺跡ハンターだと言っているようなものだ。

 しかし、シエフちゃんは首を横に振った。


『いや。わらわは所属などしとらんよ。わらわの部下に遺跡ハンターがいるんじゃよ』


「部下に遺跡ハンター? シエフちゃんは遺跡の盗品まで扱っているの?」


『うむ。わらわは手広く商品を扱っているのでな。盗品も取り扱っているぞ』


「そうなんだ。じゃあ、この遺跡にも部下を向かわせるの?」


 もしそうなら、ソーちゃんが行かなくていい。

 シエフちゃんの部下に情報を取って来てもらえばいいだけだし。


『普段ならそうしているがのう……今回は向かわせてはおらんよ』


「は? 何でよ。ちょちょいと行って、ソーちゃんの依頼通りに情報を取ってきてよ」


 そう言うとシエフちゃんは視線を下げ、腕を組んでどこか考える素振りを見せる。


『そうしたいのは山々なんじゃが、お主から貰った費用では、ここまでが限界でのう……こっからは別料金になってしまうのじゃよ』


「そうくるのね……」


 流石、商人。

 金稼ぎに隙が無い。

 シエフちゃんは、顎に指先をあてて不敵に笑う。


『それに遺跡の調査までは約束しておらんし、最初の依頼は既に果たしているからのう……』


 ソーちゃんの依頼した内容は、魔法について調べてほしいということだけ。

 シエフちゃんの言う通り、遺跡の調査も含めて言ってはいない。

 だけど、情報を調べるということには含まれていても不自然ではない。

 むしろ、当然ではないか。


「遺跡の調査だって、ソーちゃんの依頼の範囲内じゃないの?」


『そうじゃな。だがお主は、ただ魔法のことを調べてほしいと言っただけで、どれだけの情報をどこまで教えてほしいかは、一言も言ってはおらんぞ?』


 シエフちゃんは鉄扇を手に持つと、椅子の背もたれにゆったりと身を預け、笑みを浮かべた。


 ……やられたわね。


 これはシエフちゃんが仕掛けて置いた罠だ。

 依頼の内容を、あえて曖昧なまま受ける――それが彼女の罠。

 依頼は、最低限の行動で済ませ、「果たした」と言い張れる程度には、仕事をする。


 今回で言えば、魔法についての情報は確かに提示された。

 ただし、それは偶然手に入った断片的な情報に過ぎない。

 核心には、まるで届いていない。


 ……それでも、「依頼は果たした」と言える範囲には収まっている。


 こちらは文句を言えない。

 条件を定めなかったのは、ソーちゃんの落ち度だから。

 これでは、必殺技である『キルシュちゃんに言っちゃうよ!』戦法が使えない。

 逆に言い方によっては、ソーちゃんがシエフちゃんに無理を言っているように聞こえてしまう可能性がある。


「……ほんと、良い性格をしてるね」


 思わず、ぽつりと漏れた。

 シエフちゃんは鉄扇を開き、顔を仰ぎながら盛大に笑う。


『ははっ! 商売をしていれば、この程度のことは日常茶飯事だぞ? 詐欺師のわらわよりも質の悪い商人は、沢山おるぞ』


「そうね。忘れていたわ」


 これはソーちゃんの油断が招いたこと。

 シエフちゃんだからと油断してしまったのが原因だ。


 ……やっぱり、シエフちゃんが一番食えないわね


 最初に会った時のことをすっかり忘れていた。

 カノンちゃんよりもこの女狐の方が危険だと感じたことを。


 ……キルシュちゃんとの旅行の件は黙っておこう。


 話の後にでも、伝えようかと思っていたがやめた。

 キルシュちゃんには、シエフちゃんは忙しくて来れないとでも言っておこう。

 シエフちゃんは、まさかキルシュちゃんとのお出掛けに誘われなくなったなどつゆ知らず、愉快そうに笑っている。


『ははっ! まあ、これもいい勉強だっと思えばいいのじゃ。……それで、遺跡の調査はどうするのじゃ? 金を払ってわらわの部下が行うか? それともお主が直接行って確かめるか? どっちにするのじゃ?』


 さーて、どうしたものか。

 別にソーちゃんが直接確認しに行くことに問題はない。

 近くの街に転移魔法で移動してしまえば簡単だ。


 ……でも、その街に近づきたくないのよね……


 問題は、近くにある街だった。

 古代遺跡が見つかったには、標高の高い山々が連なるガラウス山脈。

 その山脈に一番近い街は――魔法都市ヘクサフェル。

 魔法の研究が盛んに行われている街で、住人のほとんどが魔法を使えることができる。

 そしてソーちゃんと因縁がある街。


 ……魔女協会の本拠地なのよね……


 魔法都市ヘクサフェルは、魔女協会の本拠地でもあった。

 魔女協会とは、その名の通り魔女で構成された組織。

 魔法の研究や実験だけでなく魔導書の管理も行っており、新しい魔法を生み出したり、危険な魔法は禁忌として全世界に通達していた。

 先日攫ったのも、この協会に属する魔女の研究員だ。


『そう言えば……ガラウス山脈の近くには、魔女協会の本拠地である魔法都市ヘクサフェルがあったのう』


 シエフちゃんが、わざとらしく聞こえるように呟く。

 こちらが迷っている理由に、見当がついているのだろう。


『魔女協会と言えば、魔女なら必ず所属する決まりになっておると聞くが……そうじゃ! お主は魔女なのだから、魔女協会に入っておるのだろう? であれば、古代遺跡に向かうのは簡単じゃな!』


 シエフちゃんは、鉄扇を閉じるとポン、と手を叩く。

 ほんとわざとらしい。

 この女狐は、ソーちゃんが魔女協会から《《破門されていること》》を知っているだろうに。


 ……魂胆が見え見えなのよ。


 どうせ、破門されて近づけないだろうから、ソーちゃんに「お願い」と言わせたいのだろう。

 もちろん、高額な依頼料を徴収してだ。


 ……ほんとムカつくわー。


 実際問題として、あの街……いや、魔女協会に近づきたくはない。

 色々と問題を起こしているし、最近なんて協会の魔女を拷問して殺している。

 バレることはないだろうが、近づくのはリスクになる。

 でも、それ以上にこの女狐に大金は払いたくない気持ちもあった。

 だって、負けた気がするし。


「はぁ……わかったわ」


 となれば、ソーちゃんがとる方法は1つだけ。


『お、決まったかのう』


「ええ、決まったわ」


 ソーちゃんは、シエフちゃんを見据える。

 そして大きく息を吸い込んでから言った。


「狐ババアに大金むしり取られるくらいなら、自分で行くっつーの!! 黙って金でも数えてろよ、バーカ!!! 通信終わり!」


 突然の罵倒に目を点にしているシエフちゃんを放置して、無理矢理に通信を切ってやった。

 ざまあみろ。


「あースッキリした!」


 後悔などしていない。

 だって友達でも何でもないし。


「魔女協会が何だって言うのよ。こちとら、何年も前から喧嘩売ってるつーの!」


 邪魔されるなら排除すればいいだけの話。

 至極簡単なことだ。


「さて、目指すはガラウス山脈! ちょっと距離はあるけど別の街から飛空魔法でぶっ飛べばすぐよ!」


 こうしてソーちゃんは、古代遺跡のあるガラウス山脈へと向うことになったのだった。


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