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第1話 魔女の恋心③

「旅……ですか?」


「うん! まぁ、旅と言っても1日の小さな旅だけど……どうかな?」


 キルシュちゃんは、困ったように笑う。


「私、旅なんてしたことないので……うまく想像が出来ないのですが……」


 まあ、旅をしたことない人間からしたらそうだろう。

 旅をするとなればそれ相応の準備をして、野党や盗賊、魔獣といった外敵を気にしなければいけない。

 でもそれは、一般人の話。

 ソーちゃんたちの旅は、そこら辺の一般人の旅とはわけが違う。


「全然難しくないし、安全だから安心してよ!」


 なんたって、この魔女であるソーちゃんが一緒なのだから。

 ……まあ、3人の邪魔者も一緒だけど。


 本当なら2人きりで行きたい。

 だが、絶対に後から揉める。

 別にお出掛けに誘ってはいけないとは、協定で定められていない。

 あくまで、告白を禁止しているだけ。

 だが、ソーちゃんとキルシュちゃんが一緒に出掛けたと知られたら、あの3人は怒る。間違いなく怒る。


 ……そうなれば、自分たちもとキルシュちゃんを誘い始めるだろうね。


 別に3人が誘うことも問題はない。

 協定違反ではないし。

 だが、個々が遊びに誘い始めると、キルシュちゃんと好い仲になられてしまう可能性があった。


 ……ソーちゃんが先に好い仲になればいいけど、先を越される可能性はあるからね。


 協定には、明確な抜け道がある。

 協定では、『キルシュちゃんに協定者の同意なしに告白しないこと』と明記した。

 これは言葉の通り私たち4人が、同意なしに告白してはいけないということ。

 つまり、()()()()()()()()()


 ……だって、誰も同意するはずがないからね。


 だが、相手からなら話は別だ。

 キルシュちゃんが誰かを好きになり、告白するのであれば協定に違反しない。

 そして、そうなってしまうと他の3人は何も文句を言えなくなってしまう。


 ……ソーちゃん以外が、キルシュちゃんの隣に立つなんて許さない。


 そう。そんなことは絶対に許してはいけない。

 だからこそ、個々で気軽に遊びに行ける状況にはしたくない。

 今のように牽制しあいながら、抜け駆けできない状況にしておかなければならないのだ。


「どうかな?」


 キルシュちゃんは、先ほどからフォークを手に持ったまま、下を向いている。

 そんなに悩むことではないと思うんだけどな。

 すると、彼女はゆっくりと口を開く。


「でも……どうやって移動するんですか? 馬車じゃ時間もお金もかかりますし……」


 あれ? キルシュちゃんは、私たち4人がゲート――転移魔法を使用しているって知らないんだっけ?

 ソーちゃんからは、話した記憶はない。

 話す必要も場面もなかったから。

 だとすれば、他の3人も同じ理由で話してないのか。


「それは大丈夫! ソーちゃんは転移魔法を使えるから、一瞬にして好きな街に自由にそれもお金もかからずに移動できるよ!」


「転移魔法……ですか?」


 キルシュちゃんが首を傾げる。

 せっかくだし見せてあげよう。


「そ! キルシュちゃんは転移魔法を見たことはない? こういうのなんだけど――」


 右手をテーブルの横の空いているスペースに向ける。

 そしてゲートを出現させた。

 すると、キルシュちゃんは「あっ」と声を漏らす。

 どうやら見たことはあるようだ。


「これって確か、ケリンさんが使っていたような気がします」


「だろうね。ケリンちゃんも使えるからねー」


 なんだ。

 あの処刑人は目の前で使っていたのか。

 だったら、説明しておいてほしいな。

 開放したゲートを閉じる。


「これを使えば、一瞬にして移動できるし、道中襲われることもない。それに私たち4人がキルシュちゃんをエスコートするから、街中でも安心してくれていいよ!」


「……そうね。それなら行ってみようかしら」


 ようやくキルシュちゃんも行く気になってくれた。

 これで出掛けることは確定した。

 あとは行き先といつ出掛けるかだ。


「じゃあ、決まりね! キルシュちゃんはどういった街に行きたいとかある?」


「そうですね……」


 キルシュちゃんは窓の外へと視線を向ける。


「やっぱり明るくて綺麗な街がいいですね」


「うんうん!」


「それで……やっぱり美味しい物がいっぱいあると嬉しいです」


 流石、食べるの大好きっ子。

 やっぱり美味しい食事は外せない。


「明るくて綺麗で……美味しい物がいっぱいある街か……」


 キルシュちゃんの要望に適した場所を考える。


「うーん……貿易都市ボロニバスは、美味しい物が多いけど……あまり綺麗ではないよね」


 綺麗というよりは、人と物が多いがゆえにごちゃごちゃしている印象だ。


「宗教都市レーリジョニアは……綺麗だけど食事が微妙。それに……」


 あそこは、魔族を毛嫌いしている人間が集まった都市。

 ケリンちゃんとシエフちゃんは、嫌がるだろうし、揉め事が起きる可能性が高い。

 となれば、今思いつく場所としてはあの街しかないか。


「キルシュちゃんは、お魚は好きだよね?」


「え? ええ。値段が少しすることもあって頻繫には食べませんが、嫌いではありません。このソーバちゃんが買ってきてくれたお魚だった美味しく頂けましたから」


「そりゃそうだね」


 そもそも嫌いだったら、この魚の素揚げにすら手を出していない。


 ……まあ、キルシュちゃんのことだから嫌いでも無理して食べそうではあるけど。


 買ってきれくれた物を嫌いとは言えないと、何とも言えない顔で食べていそうだ。


「じゃあ、海都ヴァッテンスタッドにしよう! あそこなら、風景や街並みも綺麗だし、食事も美味しいからね!」


 魔族領ではあるけど、人間側と交易を行っているから人間への風当たりも穏やかだ。

 キルシュちゃんが嫌な思いをすることはないだろう。

 ソーちゃんの言葉に、キルシュちゃんが首を傾げる。


「海都……海に面した街なんですか?」


「そ! キルシュちゃんは海は見たことある?」


「いえ、子供の頃に絵本で見たことあるだけです」


 見たことないなら、尚更うってつけの場所だ。


「じゃあ、決まり! みんなで出掛ける場所は、海都ヴァッテンスタッド!」


 キルシュちゃんが行きたい場所と言えば、他の3人は文句は言わないだろう。

 それにシエフちゃんあたりは、海都のことを知ってそうだから、いいお店とかも知っているだろうし。


「それじゃあ、いつ行く? ソーちゃんは何時でもいいよ!」


 予定があっても空ける。

 キルシュちゃんとのお出掛け以外に重要な予定はない。

 予定を入れるような不届き者がいるなら、私が殺す。


「ちょっと待ってね」


 キルシュちゃんはそう言うと、椅子から立ち上がると、我部際に置かれた机へと向かった。

 彼女が普段から使用しているのだろう。

 机の上には、本やペンなどが置かれており作業机のようになっていた。

 きっと、お店の売上を記録したりしているのであろう。


「えーっと……確か孤児院に行く日は……」


 キルシュちゃんは、引き出しから手帳を取り出して予定を確認している。


 ……流石、しっかり者のキルシュちゃんだね。


 その光景に関心した。

 手帳を使って予定を管理するなんて、貴族の側近や大きな商いをしている商人くらいだろう。

 一介の市民は、手帳に記録することなんてしない。

 皆、自分の記憶だけで日々を過ごしている。


 ……記録するほどの予定が無ければ面倒なだけなだからね。


 キルシュちゃんのような、しっかり者でなければ記録することはしないだろう。

 流石、ソーちゃんが惚れただけのことはあるね。


「うん。明日明後日は予定があるから無理だけど、その先なら何時でも大丈夫」


 キルシュちゃんは手帳をパタン、と閉じるとこちらへと振り返った。


「ほんとに! じゃあ……」


 いつにしようかと考える。

 明日明後日がダメということは、3日後からは大丈夫だと言うこと。

 なら、3日後にしてしまおうか。


 ……いや、少し間は開けた方がいいよね。


 なるべくなら、キルシュちゃんには準備時間をゆっくりと与えてあげたい。

 なんせ、初めて他の街に行くんだ。

 彼女なりにも準備が必要だろう。


「6日後でどうかな?」


 このくらいが丁度いいだろう。

 キルシュちゃんも異論は無いようで、笑顔で頷いた。


「わかったわ」


「よし、決まり! じゃあ、6日後の日が昇り始めたころに迎えに来るね!」


「ありがと。準備しておくね」


 これで全て決まった。

 あとは、当日を待つだけ。


「よーし! ソーちゃんがおすすめの場所を調べておくから、キルシュちゃんは楽しみにしててね!」


「ふふっ。ええ、楽しみにしておくわ」


 じゃあ、食事の続きでも……とフォークを持った時だった。

 突如としてメッセージが届いた。

 誰だろうと思いつつ、半透明の画面を展開して表示された名前を確認する。


 ……あ、シエフちゃんからだ。


 送り主は、朝方に会っていたシエフちゃんだった。

 そしてメッセージには、こう書かれていた。


『探している魔法が書かれた魔導書が見つかった』



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