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第1話 魔女の恋心②

 シエフちゃんへの依頼も完了した。

 これで、この街での要件はすべて片付いた。

 酒場を出て歩きながら、体を伸ばす為に両腕を上へと伸ばす。


「ん~……よし! 用も済んだし、キルシュちゃんの元へと行きますか!」


 今日は、キルシュちゃんのお店はお休み。

 会いに行っても、仕事の邪魔にならない日だ。

 もちろん、彼女の予定もしっかりと確認してある。


 ……今日はお店の掃除をするって、この前言ってたからね。


 だから、お昼を買って行けば一緒に食べられる。

 しかも今日は、絶対に邪魔が入ることはない。


「他のみんなは忙しいから……キルシュちゃんと2人きりで過ごせる……にゅふふ」


 つい、口元が緩む。

 ソーちゃんは仕事ができる女なので、他の3人の予定は全て把握しているのだ。

 胸元から手帳を取り出して、情報を確認する。


「えーと……ケリンちゃんは、組織からの依頼対応中。カノンちゃんは、軍の任務で遠征中。シエフちゃんは、お昼からは商人たちとの会合に参加……」


 つまり。


「暇なのはソーちゃんだけなのよ」


 別に普段から暇なわけじゃない。

 ちゃんと仕事はしている。


 ……まぁ、まともな仕事じゃないけど。


 暗殺や拷問、窃盗など表立って言えないものばかり。

 でも、仕事に変わりはない。

 働いているのだから、文句を言われる筋合いはない。


「買っていく食べ物は、この街のでいいよね」


 歩きながら周囲に視線を向ける。

 流石、貿易都市と名乗ることあって、通りには沢山の屋台が並んでいた。

 人間領で食べられている見慣れた物から、各種族での名産品を使った見慣れない物まで様々な食べ物が取り扱われている。


 ……キルシュちゃんなら、どれを買って行っても喜んでくれるよね。


 キルシュちゃんは、食べるのが好きな女の子だ。

 いっぱい食べることが好きなのではなく、美味しい物を食べるのが好きな子。

 そこを間違えてはいけない。

 だから、この街の屋台はうってつけだ。


「待っていてね、キルシュちゃん! 美味しい物を買っていくからね!」


 こうして屋台を練り歩き、キルシュちゃんへのお土産を買い、彼女の元へと向かった。


 ◇◇◇


「キルシュちゃん! 久しぶり!」


「ソーバちゃん、いらっしゃい」


 元気よくキルシュちゃんに挨拶をする。

 キルシュちゃんは、笑顔で出迎えてくれた。

 彼女は、丁度お店の前を掃除していたようで、手に箒が握りしめられていた。


「今日はどうしたの?」


「え、えーっとねー……」


 つい、屋台で買った食べ物が入った小さなかごを後ろに隠す。

 普通に「お昼を一緒に食べよう!」と言えば、すぐに済むのだが、どうしてもキルシュちゃんの前では緊張してしまい、言い淀んでしまう。

 最初よりは、話せるようにはなってきているのだが、まだまだだった。

 体をもじもじとさせながらも、勇気を振り絞る。


「お、お昼を一緒に食べようかなーって思ってさ……」


「え、お昼?」


「う、うん……」


 後ろに隠していたかごを、恐る恐る体の前に持ってくる。

 そして上に乗せられていた布を取った。


「これ……別の街で買ってきたの」


「まぁ! 美味しいそうね!」


 かごに入った食べ物を見て、キルシュちゃんが嬉しそうに笑った。

 その笑顔を見て、少しホッとする。


「お店が休みって聞いたからさ。偶には2人きりでどうかなーって思って……迷惑だったかな……?」


 恐る恐る尋ねるが、キルシュちゃんはゆっくりと首を横に振った。


「全然そんなことないわ。丁度お昼はどうしようかなって、思ってたから嬉しいわ!」


「ほんとに!」


「ええ、本当よ」


 その言葉に嬉しさが爆発しそうになる。

 今すぐにでも、目の前のキルシュちゃんを抱きしめてしまいたい。


 ……落ち着け、落ち着くのよ。


 まだ、食事は始まっていない。

 一緒に食べれることになっただけ。

 楽しい時間は、これからなんだから。


「じゃあ、せっかく買ってきてくれたんだから、ちょっと早いけどお昼にしましょうか」


「うん!」


 ソーちゃんが返事をすると、キルシュちゃんはニコッと笑う。


「それじゃあ、中に入っていただきましょう」


 キルシュちゃんと共にお店の中へと入っていった。


 2階の居住スペースのテーブルにキルシュちゃんと向かい合わせで座る。

 テーブルの上には、ソーちゃんが買ってきたお料理が並べられていた。

 今日買って来たのは、3種類。


 一品目は、人間領でも良く食べられている芋を甘辛いタレで煮詰めた物。

 キルシュちゃんは、木のフォークでお芋をほぐしてから口へと運ぶ。


「んー美味しい。シンプルだけど、この甘辛い味が癖になっちゃうのよー」


「この前買っていった時に美味しいって言ってたから。また買ってみたの」


 これは、前回4人で食事した時にも買ってきた物だ。

 あの時、キルシュちゃんが好きだと言っていたので選んだが正解だったようだ。


「こっちは……凄い見た目の魚ね」


 キルシュちゃんが、歪な形をした魚を見て若干引いている気がする。

 これはまずい。


「み、見た目は少し変だけど味はものすごーく、美味しいから!」 


 二品目は、魔族領で取れた魚を素揚げにしたお料理。

 ちょっと見た目は、歪なのだが味は美味しい。

 ソーちゃんも最初は敬遠していたが、一度お店の店主に試食させてもらった所、めちゃくちゃ美味しかった。


「……よし!」


 少し躊躇しているものの、キルシュちゃんはフォークとナイフで綺麗に身を取り、小皿へと乗せる。

 そして、フォークですくい上げると恐る恐るパクっと口に入れた。


「ん! 美味しい!」


 キルシュちゃんは、パッと目を見開く。

 そしてすぐに二口目を口に含んだ。

 その光景にほっと胸をなでおろす。


「見た目にびっくりしちゃうけど、凄く美味しいわ!」


「でしょ? ソーちゃんもこんな見た目の魚が美味しいわけないと思ってたんだけど、食べたら凄く美味しくて」


「ええ。こんな美味しい魚は、食べたことがないわ」


 キルシュちゃんは、余程気に入ったのだろうか、先ほどから食べる手が止まらない。

 これには、心の中でガッツポーズした。


「この魚は何処で取れたものなの?」


「これは、魔族領側の海で取れたものだよ」


「魔族領では、こんな魚も取れるのね……。確かにこの街の市場でも見かけたことがないわね」


 キルシュちゃんは、関心した様子で魚を見る。

 この街――城塞都市マシュリアにも生魚は流通している。

 決して海が近いというわけではない。

 食材の鮮度を保つ魔法が魔女協会で発明されたことにより、生魚や生肉が世界中に流通するようになったのだ。


 ……ほんと変な魔法を考えるわよね。


 きっとキルシュちゃんのような、食べるのが大好きな魔女が作ったんだと思う。

 そうでなきゃ、こんな魔法は生まれないだろう。


 ……まぁ、本来はこっちの用途の方が正しい魔法なんだけどね。


 この世界には、戦闘系の魔法よりもこういった生活面で役立つ魔法の方が多く生み出されている。

 魔法と聞くと戦闘系の魔法を想像しがちだが、魔法とは本来は生活を便利にするための小技に過ぎない。

 火をすぐに付けたいから、火を生み出す魔法が生まれた。

 遠くの者に会いたいから転移魔法が生まれたように、生活をする上でので願いを叶える為のものが、本来の魔法なのだ。


 ……結局は、人殺しの道具としても便利になっちゃったけどね。


 生物としての本質は争い。

 生き抜くためには、武器が必要だ。

 だから、魔法も生活を助けるものから、戦いで使用することを目的とした魔法へと移行してしまった。

 つまるところ、人の幸せを願って生み出しても争いに利用されてしまうのだ。


「あ、これも美味しい!」


 そんなことを考えていると、キルシュちゃんが三品目の料理を食べていた。

 三品目の料理は、香草と燻製肉を炒めた物。

 味付けは塩だけなのだが、香草のほのかな苦みと塩味が合わさって癖になる一品だ。


「ソーバちゃんが買ってきれくれたお料理は、どれも本当に美味しいわ」


「アハ! キルシュちゃんが喜んでくれて良かったよ!」


 キルシュちゃんが喜んでくれて何よりだ。

 すると、キルシュちゃんがテーブルに並んだ料理を見ながら呟く。


「外の街には、こんなにも美味しいお料理があるのね……」


「そう言えば、キルシュちゃんはこの街以外の街には行ったことあるの?」


 キルシュちゃんはゆっくりと首を横に振った。


「いいえ。別の街になんて行ったことがないわ」


「へーそうなんだ」


 これは別に驚くことではない。

 キルシュちゃんのような、魔法を使えない人間なら普通のことだろう。

 転移魔法が発明されているとはいえ、主な移動手段は馬車などのままだ。


 転移魔法は非常に便利な魔法だ。

 一度行ったことのある場所だったら、一瞬にして移動できる。

 だが、その反面。

 使用者の魔力量によって行ける距離が異なってしまう。


 ……ソーちゃんクラスなら何処にでも行けるんだけどね。


 魔力量が多ければ、遠くの街にでも移動できる。

 しかし、少なければ街から出ることすらできない。

 だから、転移魔法が発明された今でも、馬車のような交通手段が主流になっている。


 ……そうだ! 良いこと思いついた!


 きっとキルシュちゃんも喜んでくれるはず。

 料理に舌鼓を打っているキルシュちゃんに提案してみた。


「ねぇ、キルシュちゃん。今度みんなを誘って旅してみない?」


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