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第6話 罪深き者に血の洗礼を②

 <side 軍人:カノン・シュラハ>


 炎が作った道を歩いて行く。

 周囲では火が燃え盛り、建物も人もすべてを焼き尽くしている。


「まったく……雑魚ばかりだな」


 散らばっている焼死体を横目に溜息をついた。

 拠点を襲撃した時もそうだった。

 連中は虚しい抵抗をしただけで、戦いは一撃で終わってしまった。


「本部ともなれば、違うと思ったのだがな」


 団員が千人近くいる巨大ギルドの本拠地。

 十人くらいは、強者はいるはずだと考えていた。

 だが、その予想は外れた。


「期待外れだよ。まったく……」


 不満を漏らしながら瓦礫を踏み越えて行く。

 このまま街の中心部へと向かおうとした時だった。

 ふいに、凛とした女性の声が聞こえてくる。


「あなたは何者ですか?」


 声のした後ろへと振り返ると、金髪の女性が1人立っていた。

 腰には2本の直剣を携えている。


 ……こいつも弱いな。


 ここまで殺してきた奴らよりは強いだろう。

 だが、そこまで。

 私が相手をするレベルではない。


「弱者に名乗る名など、持ち合わせてはいない」


 女にそう吐き捨てると、再び街の中心部へと歩みを進めた。


「弱者ですって……その言葉取り消してもらうわ!!」


 ……まったく相手の力量すら測れんのか。


 虚空から直剣を抜き、後方から攻撃してきた女の剣を防ぐ。

 刃同士がぶつかり、女の顔が正面に見える。

 傷一つない綺麗な肌をしている。


「弱いかどうか……確かめたらいかがですか?」


 刃を合わせながら女が言う。

 これだから弱者は嫌いだ。


「ふん。そんなもの戦わずしてわかる」


 合わさった刃を弾く。

 女はその勢いを利用して後方へと飛びのいた。


「私は強者だからな。弱者など見ればわかる」


 女を足元からゆっくりと眺めていく。


「お前は、魔法特化型の魔剣士。肉体強化での力技よりも魔法を駆使しながらの中距離戦闘を得意としている。そうだろう?」


「!」


 私の指摘に女が目を見開く。

 図星なようだ。


「それにお前は、戦闘よりも男を抱く方が好きなんじゃないか?」


「なっ!? 何を言っているのですか! 私はそんなはしたない女ではありません!」


 女は顔を真っ赤にして否定する。


「どうだか。お前の体からは男の臭いが強く漂ってくる。男好きじゃなければ、こんなに強くは臭わない」


 実際、処刑人たちからは男の臭いがまったくしてこない。

 あいつらは、まだ男を知らぬ者たちだろう。


 ……まぁ、私もそうだがな。


 男よりも戦いが好きなので仕方がない。

 決して男受けが悪いわけではない。


「ふ、ふざけないで! 私はあの人以外に抱かれたことなんてないわ!!」


「別に複数人とは言ってないぞ?」


「……っ」


 女は顔が歪む。

 やはり頭の中は、男のことばかり考えているようだ。


 ……真面目そうに見えて、卑しい女だ。


 大きく溜息をつく。


「……これだから弱者は嫌いなんだ」


 女を見下ろす。


「男の力に寄りかかり、自分もその一部になった気でいる。自分の力量すらも測れず、愛する男となら何でも出来ると思っている。……なんせ、抱かれることばかり考えているんだからな」


「……」


 女は俯き、何も言わない。


「お前の曇った目には、私はどう映っている? 余裕で勝てる相手か? それとも命をかければ勝てる相手か?」


「私は……」


 女が何かを言おうとするが、構わず言葉を続ける。


「きっと何も映っていないだろうな。なんせ、その目には男しか映っていない。それ以外の者など、見えていないだろう」


「私は違う!」


 女は、私を睨みつける。


「私は寄りかかってるだけじゃない! 私はあの人を愛しているの!」


 蓋を外したかのように言葉を吐き出していく。


「あの人の願いを叶える為なら何でもするわ! たとえ、罪人と呼ばれようが構わない! 私はあの人を支えていきたいのよ!! 男に媚びる他の安い女と一緒にしないで!!」


 素晴らしい愛ではあるな。

 私も愛を最近知ったから、多少は理解できる。

 だが、それは愛などではない。


「あなたには愛する人はいないの!?」


「ああ。いるさ」


「だったら――」


「おい。貴様の愛と私の愛を一緒にするなよ?」


「……っ」


 女を威圧する。

 こいつと一緒にされたくはない。


「私の愛は並び立つことだ。支えることじゃない」


 私はキルシュを支えたいのではない。

 共に横を歩いていきたいのだ。


「一緒に夢を見て、新たな願いを作っていくのだ」


 愛する者の願いが、己の願いになることはない。

 ただ、酔ってるだけだ。

 願いを叶えてあげる自分に。

 そして対価を求める。

 自分を愛して、守るようにと。


「対価としての愛など、私は欲していない! 私が欲しいのは対等な愛だ!」


 キルシュはきっと、支えられることなど望んでいない。

 むしろ、自分の為に身を粉にすることを嫌うだろう。

 彼女が望んでいるのは、無償の愛だ。

 純粋に愛し合う無垢なる愛。

 愛する者の為に生きるのではない。

 愛する者と助け合いながら生きたいのだ。


「お前のような付き従う愛は、愛とは呼ばん! それはただの奴隷だ!」


「……」


 女は黙り込んでしまう。

 きっとわかってはいるのだろう。

 自分が男に媚びて甘えていること。

 だが、認めたくないのだ。

 認めてしまえば、愛ではなくなってしまうから。


「……違う。私はあの人を愛している。決して奴隷などではない」


 女は私を見据える。


「だから、証明してあげる……私の愛を……」


 そして両手に持つ剣に魔力を込め始めた。

 ほんと馬鹿な奴だ。

 自分の愛など証明する必要はないのに。


 ……愛を証明できると思っている時点でお前は弱者なんだよ。


 愛なんて証明することはできない。

 なんせ人の心は読めないから。

 ただ、黙って愛していればいいのだ。


「いいだろう。お前の薄汚い愛など私が一撃で焼き尽くしてくれる」


 直剣に魔力を込める。

 塵一つ残さない。

 この女のすべてを焼き尽くす。


「行きます!!」

「来い!!」


 そして互いに魔力を解放する。


「切り刻め! 『千の刃』!」

「全てを焼き尽くせ! 『ゲヘナ・イグニス』!」


 互いの刃から放たれた魔法が激突した。

 だが、勝負など最初からついている。

 女の魔法が私の炎に一瞬にして飲み込まれた。


「アグニス……私――」


 そして愛する者の名前を呼ぶ女を炎は飲み込んでいった。




 ◇◇◇


 大鎌を振り抜く。

 城門が、音を立てて崩れ落ちていく。

 ゆっくりと城の中へと足を踏み入れる。

 城の中は荒れ果てており、かつて栄えた面影など何も残っていない。


「ここか……」


 奥へと歩みを進める。

 周囲には、いくつかの木箱が積み重ねられていた。

 物資が中に入っているのだろうか。


「しかし……あっけなく着いてしまったな」


 幹部クラスの人間が、行く手を塞ぐかと思っていた。

 しかし、蓋を開けてみると大きな抵抗もなく、廃都の中心地にあるこの城まで辿り着いてしまった。

 雑兵は何人か蹴散らしたが、それだけ。

 皆、一薙ぎで地面に倒れていってしまった。


「ソーバたちがいる方向からは、戦闘の音はしている……。つまり、私の所だけが手薄だったのか?」


 周囲からは、建物が崩れ去る音や何かが爆ぜるような音が聞こえてくる。

 きっとソーバやカノンたちが、派手に戦闘しているのだろう。


「まぁいい。さっさと頭を潰そう」


 極北の風の団長を仕留めた者が、キルシュさんとのデートの権利を得る。


「ふふっ……」


 思わず口元が緩んでしまう。


「キルシュさんと何処へ出かけようか」


 歩みを進めながら考える。

 どうせならキルシュさんが行ったことのない場所がいいな。

 キルシュさんのことだ。

 あの街から出ることなど、経験がないだろう。


「いや……あえて街の中をデートするのもありか……?」


 あえて、キルシュさんと街を散策するシンプルなデート。

 見知らぬ土地を歩くよりも、彼女も安心して羽を伸ばせるだろうな。

 腕を組み、顎に指先を当てる。


「悩むな……」


 勝者は既に決まったも同然。

 三人は悪いが、存分に楽しませてもらう。

 そう思った時だった。

 突如として、男の声が聞こえてくる。


「歓迎するぞ。魔族の女」


 声のする方向に視線を向ける。

 奥の廃れた玉座に一人の男が座っていた。

 傍らには大剣が立てかけてある。


「我が城に入るなら何か言うのが、礼儀ではないか?」


 どうやら、キルシュさんの事を考えていて、男が座っていることに気がつけなかったようだ。


「すまない。ちょっと考えごとをしていてな。気がつかなかった」


 男が大声で笑う。


「ははっ! この俺を無視して考えごととは、随分と余裕だな! なんだ? 愛する男のことでも考えていたのか?」


 なかなか勘が鋭いな。


「ああ。男ではないが、愛する者のことを考えていた。何処にデートしに行こうかとな」


「……」


 眉をひそめ、男が黙り込む。

 癇にでも障ったのだろうか。


 ……聞かれたから答えただけなんだがな。


 気にせず玉座に座る男に尋ねる。


「貴様がこのギルドの団長か?」


 男の装いは、そこらの連中とは明らかに違っていた。

 どこか、貴族を思わせるような上品な服。

 だが、社交の場で着るようなものではない。


 ……貴族というよりは、騎士と言うべきかな?


 どこか騎士を思わせる装飾がなされており、王を守る騎士と言った方が近いだろう。


「ああ。俺は、極北の風の団長を務めるアグニス・モエルノだ」


「そうか……」


 ……よし。


 心の中でガッツポーズする。

 これで勝者は確定した。


「貴様の名は何だ? 殺す前に聞いておいてやるよ」


 いい度胸じゃないか。

 流石、団長と言ったところか。


「ふん。名前などどうでも良いだろう。憶えるだけ無駄だからな」


「……そうだな。殺した奴の名前なんて憶えておいても、何の意味もないな」


 男は、笑みを浮かべる。

 しかし、すぐに消え去る。


「――じゃあ、始めるとするか」


 男は、玉座から立ち上がり、大剣を担いだ。


「ああ。さっさと終わらせよう」


 こちらも大鎌を構える。


「ぬかせ。それは俺のセリフだ」


 互いに睨み合う。


「我がギルドに反抗する者は――断じて許さん!」

「我が愛する者に手を出したことは――許さん!」


 そして互いに地面を蹴った。





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