第6話 罪深き者に血の洗礼を①
<side 魔女:ソーバ・ヘクセン>
魔法を発動させる。
私の周囲に、無数の炎の塊が生成されていく。
「さぁて、行ってきなさい!」
前方へと手をかざすと炎の魔弾が一斉に射出された。
標的は、廃墟の中に隠れるように建てられた建物群。
「アハッ! 爆ぜなさい!」
私の言葉と同時に、魔弾が直撃し建物が爆ぜる。
一瞬にして、周囲が赤く染まり、炎に包まれていく。
「なんだ。中に人が居たのね……」
燃え盛る炎の中から、ボロボロの人間たちが這い出てくる。
「アハハッ! こんな廃墟の中に隠れ住んでいるなんて、あなたたちはネズミさんなのかしら!」
私は、再び炎の魔弾を生成する。
「……ダメよー? 悪いネズミさんは一匹残らず駆逐しないといけないんだから」
そして彼らに向け、魔弾を放った。
放たれた魔弾は、彼らを巻き込んで爆ぜる。
「ふふっ。罪人には相応しい最後ね」
辺りを見渡す。
もうこの周辺に生きている者はいない。
「さてと、次ね」
廃都の中心部へと視線を向ける。
「みんなに取られる前にどんどん進まないとね」
遠くの方でも爆発音やら、何かが崩れ落ちる音が聞こえてくる。
きっと、私と同じように暴れているのだろう。
「1番は譲らないからねー」
これはシエフちゃんの作戦の最終段階。
だが、私たちには別の目的もあった。
「キルシュちゃんとデートする権利は、ソーちゃんのものなんだから。誰にも譲らないわ!」
極北の風の本部に来る前。
各拠点を破壊した私たちにシエフちゃんが提案してきた。
内容は至ってシンプル。
先にギルド極北の風の団長を殺した者が、キルシュちゃんとデート出来るというもの。
……そんな最高の景品を出されちゃったら、頑張るしかないよね。
この景品を聞いて、頑張らない馬鹿は私たちの中にはいない。
皆一様に目に炎を宿して、各方面に散って行った。
現在私たちは東西南北に分かれて、襲撃を行っている。
……同じ場所からのスタートじゃあ、喧嘩になるもんね。
そんな事をしていては、目標に逃げられてしまう。
それでは景品を獲得できない。
だから、こうして別れることになった。
「待てってねーキルシュちゃん! ソーちゃんが必ず――」
デートに誘ってあげる、と言おうとしたその時だった。
突然、前方から巨大な瓦礫が飛んできた。
「にょわ!?」
咄嗟に空中へと飛び上がって避ける。
瓦礫は、横を通り抜けていくと凄まじい音ともに地面に激突した。
「あー……危なかった。もう! こんな物投げたら危ないじゃない!」
すると、野太い男の声が聞こえてきた。
「ほう。あれだけの質量の瓦礫をいとも容易く避けるとはな」
「……あら? あなたが投げたの?」
前方に視線を向ける。
そこには、肩に大斧を担いだ男が立っていた。
男の体は、すべてが筋肉で出来ていると言っても過言ではないほどに鍛えられていた。
……なんで男って、あんなにも筋肉を強調したがるのかしら?
女の私からすると理解できない。
あんな体では、着れる服なんてないだろうに。
それに女にもモテないだろうね。
「ああ。そうだ。こちらも確認させてもらうが、 マシュリアの周りにあった我らが拠点を破壊したのは貴様か?」
男が尋ねる。
もう知られてしまっているようだ。
男に向かって笑みを浮かべる。
「アハハッ! 正解よ!」
「……まさかこんな小娘にやられるとはな……鍛え方が足りなかったか」
男は、亡くなった者に黙とうを捧げるかのように目をつぶった。
「何故、我ら極北の風の拠点を破壊した? 誰かに依頼でもされたのか?」
「アハッ! ざんね~ん! 誰かの依頼じゃないわよ?」
「では、我らに恨みでも抱いているのか?」
「半分正解かなー。実はね~……ソーちゃんは正義の味方なの」
「……正義の味方だと?」
男が顔をしかめる。
別に不思議なことなんて言ってないんだけど。
「そうよ~。可愛い可愛いお姫様を悪い奴らから助け出す白馬に乗った王子様。……いや? ソーちゃんは女の子だから……お姫様ね」
「……ふん。その可愛いお姫様が誰かは知らぬが、悪い奴らとは我らのことか」
「あら! わかるの? 自覚なんてないかと思っていたけど、ちゃんとあるのね! ソーちゃん、びっくりだわ!」
「……」
男が手に持った大斧を力強く握りしめる。
どうやら癇に障ったらしい。
「……貴様のような舐めた人間は初めてだ」
「ほんと! アハッ! 嬉しいなぁー!」
男にむかってわざとらしく拍手する。
男の顔がどんどんと怒りに染まっていくのが、手に取るようにわかる。
「……おしゃべりはここまでにしよう」
男が腰を下げ、大斧を構える。
大斧に魔力が込められていく。
「これ以上は、怒りで自分を抑えられなくなる」
「いいねー! その闘志! 無謀な戦いに挑む姿勢! ソーちゃんは大好きだよ!」
自身の周囲に魔弾を展開していく。
そう言えば、一つ聞くのを忘れていた。
「一つだけ質問してもいいかしら?」
「……なんだ」
「あなたは~……極北の風の団長さん? それとも下っ端?」
男に尋ねる。
すると、男が笑った。
「私に勝ったら教えてやる」
つまんない男。
それじゃあ、聞けないで終わっちゃうじゃない。
「いくぞ!!」
男は、私の返答を待たずに、地面を蹴った。
……急いでるし、一瞬で終わらせよう。
私は展開している魔弾を掃射した。
◇◇◇
<side 詐欺師:シエフ・トイシェン>
「このっ!!」
「ははっ! 威勢の良い子供じゃのう」
わらわは、赤髪の少女の攻撃から逃げ回っていた。
いや、違う。
逃げ回るようにして、遊んでいた。
「クソッ! ちょこまかと!」
少女は、必死に槍を構え突き刺そうとする。
しかし、どの攻撃もわらわにかすりもしない。
「ほれ? 何処を突いておるんじゃ? わらわはこっちじゃぞ?」
廃墟を足場にして、彼女の攻撃を避けていく。
……しかし、単純な攻撃よのう。
先ほどから少女の攻撃は、魔力で強化した肉体に頼りきったものばかりだった。
強化した脚力で、わらわを追っては槍で突く。
それの繰り返しだ。
「はぁぁぁ!!」
時には連撃を混ぜてはくるが、予備動作が大きいのですぐにわかる。
これまでも、こうして力技で押し切ってきたのだろう。
少女を飛び越えるようにして、彼女の後方へと避ける。
「もっと遊びを入れぬか! それではバレバレじゃぞ!」
「うるせぇ! 魔族の薄汚い動物の言葉なんか、聞くわけねぇだろ!!」
少女は、瞬時に切り返す。
そして再び地面を蹴り飛ばす。
……まったく。こやつは脳みそをどっかに捨ててきたのかのう……
せっかくこちらが、アドバイスをしているのに聞く耳を持っていない。
わらわじゃなくて、この少女が動物なのではないかと思えてきた。
「ちっ! しゃらくせぇ!」
少女は、何やら槍に魔力を込め始めた。
……やっと戦法を変えるのか……遅いのう。
戦闘が始まってからは、結構な時が経っている。
こんだけの時があれば、わらわなら商談の一つや二つは成立させている。
「はぁぁぁ!」
少女の気合の入った声と共に、槍が炎に包まれていく。
その見事なまでの炎に、拍手する。
「ははっ! 見事な炎じゃな! それなら見世物として金が得られるぞ?」
「舐めるなぁぁぁぁ!!」
少女が槍を構え突貫する。
先ほどよりも速度もあり、攻撃範囲も広い。
並大抵の者は、避けることは出来ないだろう。
……並大抵の者だったらのう。
右手に持った鉄扇を開き、突っ込んでくる少女に向かって優しく仰ぐ。
鉄扇から発生したそよ風は、少女を包み込む。
すると――
「炎が!?」
少女の槍を覆っていた炎がそよ風に煽られて消失した。
炎が消失し、槍が力を失う。
「ほれ!」
鉄扇を前へと突き出す。
鉄扇と槍の先端が激突しガキン! という音が鳴り響く。
「なっ!?」
少女が大きく目を見開いた。
驚いて当然だろう。
真正面からわらわに、槍を受け止められてしまったのだから。
「どうじゃ? わらわもムキムキじゃろ?」
「くっ!」
少女が歯を食いしばる。
きっと強化した肉体の力で槍を押し込もうとしているのだろう。
……甘いのう。激甘のマギアジュースよりも甘い。
あの激甘のジュースよりも甘い物など、この世に存在しないと思ったが、目の前にいたようだ。
「このぉぉぉ……!!」
少女は必死に前進しようとする。
しかし、足が滑るだけで前に進むことができないでいた。
……これ以上は、あやつらに先を越されてしまうのう。
ちょっと遊び過ぎた。
これではキルシュとのでーとの権利を奪われてしまう。
それにもう、こやつと遊ぶのは飽きた。
「頑張っているところですまぬが、そろそろ終わりにさせてもらうぞ?」
「う、うるせぇ! やれるもんならやってみろ!! この薄汚い淫獣が!!!」
さっきより下品になっていた。
……わらわは、そんな性欲は強くないんじゃがな……
獣人には発情期が存在する為、他の種族よりも性行為が多いと言われている。
だが、わらわはあまりそういった行為に興味がなかった。
まぁ、キルシュは抱きたいと思っているが。
「はぁ……本当につまらん人間じゃな……」
これ以上この少女を見ていたら、こちらまでつまらない女になってしまう。
……これで終いじゃ。
この少女を殺す為に静かに唱える。
「舞い散れ……『花吹雪』」
その瞬間。
2人の周囲に綺麗な花が咲いた。
花は満開に咲き誇ると、その美しさを花びらとなって散っていく。
だが、ただ散るわけではない。
「な、なんだこれは!? 離れろ!?」
散った花びらは少女を優しく包み込んでいく。
まるで母親が赤子を抱きしめていくかのように。
「このっ! このっ! このっ!」
少女がわらわから距離をとり、必死に槍を振り回す。
しかし、纏わりつく花びらを払いのけることが出来ない。
「無駄じゃ。その花びらはお主では払いのけることは不可能じゃ」
そう言い残して、街の中心部へと歩みを進める。
「おい! 待て! ……クソッ! 何でこの花びらは――」
やがて、花びらに完全に包まれると、少女の声が聞こえなくなった。
「じゃあのう。戦い方が下手な少女よ」
咲いた花は美しく、儚く脆い。
されど、散り際こそが一番美しい。
だから、お主も美しく散るがよい。
「あの世で精一杯、稽古するんじゃぞ」
その言葉と共に、少女を包んだ花びらが一気に圧縮された。
赤く綺麗な血を吹き出しながら。
後ろへと振り返る。
「真っ赤な髪によう似合う花びらになったのう。……まぁ、つける体がないがな」
血だまりの上に広がる花びらは、血を吸い込み綺麗に赤く染まっていた。




