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幕間 闇に溺れた者

 廃都グラムスヘル。

 かつては、周囲の山々から採れる鉱石によって栄えた都市。

 しかし、今ではその面影は何も残っていない。

 建物は崩れ、通りには瓦礫が散乱している。

 王族が優雅に暮らしていた城も、すでに廃墟と化していた。


 だが、その城の地下では四人の男女がテーブルを囲んでいた。


「――以上が、先ほどの件の報告です」


 金髪の女性はそう言うと、静かに席に腰を下ろした。

 しばらくの間、沈黙が場を制する。

 やがて、報告を聞いていた体格のいい男が口を開く。


「そうか……ありがとな。ノイズ」


「いえ、すべてはアグニス……あなたの為ですから」


 ノイズと呼ばれた金髪の女性は、胸に手を当てながら頭を下げた。

 アグニスと呼ばれた男は、正面に座り腕組みをしている別の男に尋ねる。


「ダラム」


「なんだ」


 ダラムと呼ばれた男は、腕を組んだまま答えた。


「魔族側との貿易を担当しているのは、お前だよな?」


「ああ、そうだ」


 アグニスは、テーブルに両肘を置く。


「じゃあ、教えてくれないか? どうして魔族側での収益が減少している?」


「……詳細は不明だ。ただ、調査に送り込んだギルドの者が消息不明になるケースが報告されている」


 ダラムは表情一つ動かさない。

 そんな彼にアグニスが、笑みを浮かべる。


「詳細は不明。送り込んだ者も消息不明か……」


 だが、一瞬にしてその表情は険しいものに変わった。

 アグニスがテーブルに拳を打ち付ける。


「お前それでも副団長か? そんな報告しか用意してなくて、よくもまぁのこのことこの場に顔を出したな?」


「事実だから仕方のないこと。それに、お前に噓の報告をする方が怖いからな」


「はっ! 笑わせるな。お前がそんなことで怖がるわけがないだろ。……まぁいい。それで消息不明の方も原因がわかっていないんだな?」


「ああ。原因を調査に行かせた者も帰ってこない」


「つまり意図的に狩っているってわけか……」


 アグニスが、腕組みをする。

 すると、つまらなそうに話を聞いていた赤髪の女性が口を開いた。


「なー……そんなの私の兵隊に任せれば簡単に片付くことだぞー? 私に命令してくんねぇのかー?」


 少女のような幼さが残る声で言った。


「そうだな」


 アグニスは、赤髪の女性に視線を向ける。


「だが、お前には別の仕事を依頼している。それにこれは、グラムの問題だ」


 再びグラムに視線を戻して言う。


「グラム自身で解決しなければ、こいつが副団長を務める理由が無くなる。無能はいらないからな」


 金髪の女性――ノイズもアグニスの言葉に同調する。


「アグニスの言う通りよ。カムリア。これはグラムの問題。グラムが解決しなければいけないわ」


「ちぇー……」


 赤髪の女性――カムリアは、つまらなそうにしてテーブルに顔を伏せた。

 アグニスはグラムを見据える。


「ともかくだ。これはグラムで責任を持って対処してもらう。グラム。良いな?」


「当然だ。すぐに片を付ける」


 グラムは、アグニスの言葉に頷いた。


「よし。それで良い」


 アグニスは三人を見渡す。


「よく聞け。我がギルド――極北の風の最終目的は、城塞都市マシュリアにおけるすべての実権を獲得し、あの街を我がギルドの手中に収めることだ」


 それが極北の風の最終目標であるとアグニスは宣言する。


「それには、もっと金が必要だ。金さえあれば実権を握っている馬鹿な役人どもを手懐けることが出来る。そうすれば、すべては我が物となる」


 アグニスの言葉に皆が頷く。


「だから、お前たちは今以上に金を稼ぐんだ。どれだけの命を消費したって構わない。最後に俺らの四人が笑っていれば良いんだ。命なんて、どんどん使い捨てていけ! 良いな!」


『はっ!』


「それで良い。……では、次の話になるが、他ギルドの――」


 アグニスが、別の話をし始めようとした時だった。

 突然、ドアが勢い良く開き、一人の男が息を切らしながら飛び込んできた。


「おい。今は会議中だ――」


 アグニスは、最初は眉をひそめる。


「た、大変です!!」


 しかし、男の言葉と様子を見て、すぐに表情を引き締めた。


「何があった?」


「城塞都市マシュリアの周囲に設置していた四つの拠点すべてが――」


 男は、言葉を一度区切る。

 そして言い放った。


「何者かによって襲撃され壊滅した模様です!!」


 男の報告を受けてアグニスは、大きく目を見開いた。

 他の者たちもその内容に驚き言葉を失っている。


「……おい」


 アグニスは、男を睨みつける。


「それは本当なのか?」


 アグニスの視線に男は、体を震わせている。


「ほ、本当です! マシュリアにいる者から、拠点がすべて破壊されたと報告がありました! 我々も各拠点に通信をつなごうとしましたが、連絡が取れておりません!」


 ノイズが、視線を下げながら顎に指先を当てる。


「有り得ないわ……あの四つの拠点は、城塞都市マシュリアを守護する名目で建造した場所。それがたった一晩で壊滅するなんて……」


 ノイズは、顔を上げて男に尋ねる。


「本当に全部が破壊されたの? ただ煙が上がっているとか、通信魔法の精度が低下しているとかじゃないの?」


「いえ! マシュリアの者は、間違いなく四つすべてが破壊されたと言っております! それにマシュリアの者と連絡も取れておりますので、通信魔法も正常と思われます!」


「そんな……馬鹿な……」


 ノイズは、顔を俯かせた。

 アグニスは、ノイズに一瞬だけ視線を向ける。

 だが、すぐに男へと視線を戻した。


「わかった。こっちからも確認の部隊を出すぞ。カムリア!」


「お! 出番か!」


 カムリアが、目を輝かせる。


「ああ。すぐに部隊を率いて向かってくれ。それとダラム」


「なんだ」


「お前も向かってくれ」


 アグニスの言葉にダラムは表情一つ変えずに頷く。


「いいか! 状況は不明だが、襲撃されたことは間違いないだろう。きっと他のギルドの者だ。速やかに対処にあたれ! いいな!」


『はっ!』


 アグニスの指示に従って、各々が動き出そうと席を立った時だった。

 突如として、上の方から轟音が聞こえてきた。


「今度は何だ!」


 すると、もう一人の男が飛び込んでくる。


「ほ、報告します! 何者かの襲撃により、北側の宿舎が破壊された模様です! また他の場所も攻撃を受けているとのこと!」


「クソ! 今度は本拠地をつぶそうってか……カムリア! グラム!」


 アグニスは2人に叫んだ。


「拠点の確認は後回しだ! お客さんを出迎えてやれ!」


「ははっ! まかせな!」

「了解」


 指示を受けた2人は、報告に来た男たちを引き連れて、部屋を飛び出していった。

 部屋には、アグニスとノイズの2人だけになる。


「ノイズ」


 アグニスは、ノイズに優しく語りかける。


「はい」


「すまないが、お前も行ってくれ。あいつらだけじゃあ、上手く連携がとれないはずだからな」


 そっとノイズの頬に手を当てる。

 ノイズは、その手に頬を摺り寄せる。


「わかっています。私に任せて」


「ああ。頼む!」


 そしてノイズは、頬に当てられた手を名残惜しそうにどけると、部屋を出ていった。

 アグニスは、誰もいない部屋で拳を握りしめる。


「……どんな馬鹿な奴か知らないが、この極北の風に手を出したことを後悔させてやるよ」


 アグニスは、そう言い残して部屋を後にした。


 四人全員が生きたまま揃うのが、これが最後であることなど想像もせずに。



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