第5話 ヒロインはトラブルに巻き込まれやすい②
ギルド――極北の風。
この街、城塞都市マシュリアを管理する三大ギルドの一つ。
普段は治安局と協力し、この街と周辺地域の治安維持活動を行っている。
所属するメンバーは、千人以上。
この街を管理しているだけあって、巨大なギルドだ。
だが、裏では非合法な仕事も行っているとも言われている。
キルシュさんを最初に監禁していたのも、このギルドの下っ端どもだ。
「またあいつらか……」
「なんじゃ、処刑人。前回も似たようなことがあったのか?」
「ああ。キルシュさんと初めて出会った時に、彼女を攫って監禁していたのがこのギルドだ」
「なんじゃ。キルシュが攫われたのは2回目になるのか」
「そうなるな……」
どうやらキルシュさんは、このギルドと妙な縁があるらしい。
その時だった。
カノンが私の首元に剣を突きつける。
「お前……なぜその時にギルドを処理しなかった?」
彼女の鋭い視線が突き刺さる。
「処理していれば、誘拐されることはなかったぞ?」
カノンの言葉に肩をすくめる。
「酒場に居た奴らは処理したんだが……ギルドそのものには興味がなかった。それにだ。ギルドの拠点もわかっていないのに、処理など出来んだろう」
調べればわかっただろう。
だが、そこまで考えていなかった。
……あの時は、キルシュさんで頭がいっぱいだったからな……
あの状況では、キルシュさん以外のことは考えることができなかった。
「……ちっ! 無能が。協定がなければその首、斬り飛ばしているところだぞ?」
「はっ! 言うじゃないか!」
カノンの首元に大鎌を向ける。
「協定がなかったとしても、貴様には無理だ。私の首を飛ばせる者など、この世には存在しない」
「ぬかせ」
互いに睨み合う。
「はいはーい! 話が進まないから、ちょっと大人しくしててくれないかなー?」
ソーバが呆れたように言う。
その言葉にシエフも頷く。
「そうじゃよ。お主らは我慢と言う言葉を覚えた方が良いぞ」
「……」
大鎌を下げて虚空にしまい込む。
カノンも、こちらが武器をしまったことを確認すると、直剣をしまった。
「ともかくじゃ。極北の風は、今日で終わりにさせる。だから、それで問題ないじゃろ?」
シエフの言葉に頷いた。
「よし! では、わらわに良い作戦がある。まずは、話を聞くがよい」
シエフは、私とカノンが落ち着いたことを確認すると、作戦について話し始めた。
「この作戦は三段階で行う」
第一段階。
「まず第一段階としては、キルシュの救出じゃ。これは、わらわの部下が担当する」
カノンがすぐさま異を唱える。
「おい。それではお前が得するだろうが」
私もカノンの言葉に頷く。
「ああ。それには賛成できんな」
「安心せい。わらわが救出したとは絶対に言わん。それに部下たちも正体がバレないように救出させるから、キルシュは誰に救出されたかもわからん」
「詐欺師である貴様の言葉を信じろと?」
「ああ、そうじゃ。……それに協定をもう忘れたのか? わらわたちは、キルシュのことに関しては噓はつけん」
確かにそうだ。
私たちは、協定によってキルシュさんに関することで噓はつけない。
もし、シエフが裏切って自分が助けたとでも言おうものなら、シエフは契約に基づき死ぬ。
「……わかった。貴様の部下に任せよう。カノンもそれで良いな?」
「ああ。かまわん」
「うむ。聞き分けが良くて嬉しいのう」
これでキルシュさんを助ける方法は決まった。
次は第二段階。
「次じゃ。第二段階はわらわたち四人で、この街の外にある四つの拠点を同時に襲撃する。拠点に居る者は、すべて殺してかまわん」
ソーバが首をかしげる。
「極北の風の拠点は、四つだけなの?」
「うむ」
シエフは、空中に半透明の画面を表示させて、この街周辺の地図を表示させた。
「これは部下が送ってくれたものなんじゃが。この様にあやつらの拠点は、この街を取り囲むようにして四つ設置されておる。だから、それを同時に襲撃するのじゃ。そうすれば無駄なく一掃できる」
シエフの言葉にカノンが頷く。
「そうだな。バラバラに襲撃すると、援軍要請などで散られてしまう。それに逃げ出す奴もいるだろう。襲撃するなら、同時にするのが一番効果的だ」
「さすが軍人殿じゃの」
「ふん。これくらいは初歩的だろう」
これが第二段階。
そして次が最後。
これがこの作戦のフィナーレを飾る。
「最後じゃ。第三段階は、極北の風の本部を全員で襲撃し、これを殲滅する」
シエフに尋ねる。
「極北の風の本部は、どこにあるんだ?」
「この街からだいぶ離れた場所にある。場所は……」
シエフは別の地図を映し出して、その場所を示した。
「廃都グラムスヘル。数百年前の戦争で滅んだ街じゃ」
廃都グラムスヘル。
城塞都市マシュリアから山を二つほど超えた先にある廃都。
戦争で滅ぶ前は、とある王国があった。
しかし、魔族との戦争の際に禁忌を犯したために滅んだとされている。
その禁忌が何だったかまでは、わかっていない。
カノンが、顎に手を当てる。
「そこは、放棄され人間が住んでいない場所と聞いているが……本当に本部があるのか?」
「なんじゃ。防衛軍はそんなことも把握しておらんのか?」
「仕方ないだろう。わが軍は、魔族側と戦争をする時の為のものだ。領内のことなど気にしてはおらん」
カノンは、そっぽを向く。
さすが、国民から嫌われている軍隊だ。
国内のことなど、どうでも良いのだろう。
「……軍人とは思えん発言じゃのう。まぁ、お主も平和などに興味がないと言っていたからなぁ。そんな軍人が許されているのだから、そのくらいは当たり前かのう」
「私のことはどうでも良いだろう。それで? 本部の規模はどのくらいだ?」
「廃都はこの街と同じくらいの大きさではあるが、我々四人ならどうということはない。多少の抵抗はあるだろうがの」
……それは楽しみだ。
ただ、殲滅するだけでは何も面白くない。
ささやかでもいいから、抗ってもらわんとな。
ソーバも同じことを思ったようで、無邪気に笑った。
「アハハッ! いいじゃない! 抵抗しないアリを踏み潰しても面白くないわ!」
「ふふっ、同感だ」
「ああ。抵抗があった方が殲滅しがいがある」
シエフは、肩をすくめる。
「……ほんと血の気が多い奴らだのう。まぁ、わらわも同意じゃがの」
これですべて出揃った。
私は気になったことがあったので、シエフに尋ねた。
「そういえば、この街に極北の風の本部や拠点はないのか?」
この街を管理しているなら、ここにも拠点はあるはずだ。
しかし、シエフは首を横に振った。
「ない。運営する酒場や武器屋などはあるが、拠点のようなものはここには置いていないそうじゃ」
「何故だ? いくら周囲に拠点があるとはいえ、この街にも置かねば不便だろ」
他のギルドは、街中に支部を設けている。
そこで市民からの相談や依頼の発行、入団希望者の募集などを行っているのが一般的だった。
「理由は知らぬ。ただ、極北の風は他のギルドとは違って、市民からの相談は受け付けてはおらん。あくまで自分達の意思でこの街を守護しているだけじゃ。必要ないのじゃろうな」
ギルドとしての目的が違えば必要ないのだろうな。
……それに裏稼業のこともあるから、表立って置けないのだろう。
支部や拠点を置いてしまうと、治安局に監視される恐れがある。
それでは、裏稼業に専念できない。
だが、酒場などのお店に分散させて置けば話は別だ。
……酒場が摘発されても無関係と言えば、言い逃れも容易いしな。
前回は、殺すからと思って名乗ってしまったようだが、普段は隠しているのだろう。
「まぁ、この街のことは気にせんでよい。各拠点と本部が壊滅すれば、ここの酒場などもなくなるじゃろ」
「……そうだな。余計なことを聞いた。すまない。さっさと始めよう」
「うむ。そうするかのう」
シエフは、半透明の画面を展開し、どこかに連絡を入れる。
「……わらわじゃ。予定通りにお主らはキルシュを救ってくるのじゃ。……犯人どもは、皆殺しでかまわん。……よろしく頼んだぞ? ……ではな」
そして一通りの通信を終えると表示させていた画面を消した。
「これで良しじゃ。今、わらわの部下が行動を始めた。わらわたちも各拠点に向かうとしよう」
シエフの言葉に皆、頷いた。
こうして、キルシュさんの救出作戦。及びギルド極北の風の殲滅作戦が開始された。
彼らはあの世で後悔するだろう。
私が愛する者に手を出してしまったことに。




