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【録音データ:某郷土史家へのインタビュー】   作者: おそばぽろろ


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【記録ファイル:這子谷(ほうこや)における「共結び」の相談】

記録者:田中沙織 記録日:10/24/2023


(来客を告げるドアの開閉音、陶器のカップが置かれる音)


郷土史家︰……ああ、沙織くん。久しぶりだね。隣の方が、電話で言っていた婚約者の……


健一︰はじめまして、健一です! 沙織さんには僕しかいないんで、こうして付き添ってきたんです。ね、沙織さん?


沙織︰……ええ


郷土史家︰……そうか。それで、新居の相談というのは?


健一︰ここなんですけど。宮上町の、山の麓にある新築賃貸マンションで。相場よりずっと安くて、周りには何もない。僕と沙織さん『ふたりきりの世界』って感じで、最高じゃないですか。でも沙織さんが安いのにはなにか理由があるって……言うんです


郷土史家︰……ええ、その通りです。健一さん。この土地は、おすすめしません。他を探した方が良い


健一︰えっ、どうしてですか?


郷土史家︰この辺りの旧地名を『這子谷ほうこや』と言います。ここにはかつて、『共結び(ともむすび)』と呼ばれる土着の呪術がありました。互いの髪や爪を縒り合わせて人形(這子)に入れ、谷の奥の沼に沈めるんです


健一︰へえ、ロマンチックですね! 永遠の愛の誓い、みたいな


郷土史家︰違います。これは列記とした『呪い』です。人の心は移ろうもの。もし片方の気持ちが離れたり、相手から逃げようとした場合……沼の底の人形は、その『結び目』を維持するために、逃げようとする側を深い水底へと引きずり込むと言われています。現に昭和初期から現在に至るまで、あの沼では奇妙な入水心中や、水死体の発見が相次いでいるんですよ


健一︰……すごい


郷土史家︰健一さん?


健一︰じゃあ、もし沙織さんが僕を嫌いになって逃げようとしても、あの沼が沙織さんを僕のところに縛り付けてくれるってことですよね? 絶対に、離れられない。最高じゃないですか! ねぇ、沙織さん! ここにしよう!


沙織︰……先生


郷土史家︰沙織くん、君も少しは反対しなさい。こんな曰く付きの場所……


沙織︰先生、伝承には続きがありますよね


郷土史家︰え?


沙織︰逃げようとする側ではなく……『縛り付けようとする側の執着』があまりにも強すぎた場合、沼はどうやって二人を永遠に結びつけるのか


郷土史家︰……っ。沙織くん、この話の続きを知っているのかい?一体何を企んでいるんだ……!


沙織︰健一さんは、私と『ふたりきりの世界』に行きたいんでしょう? ずっと一緒にいたいって、毎日毎日、一秒も離れず私を見張って……。だから、叶えてあげることにしたんです


健一︰……え? さ、おり、さん? なんの話……ゲホッ、ゲホッ


郷土史家︰やめなさい沙織くん! まさか、あの沼に人形を……!?


沙織︰私じゃ、健一さんの重すぎる愛は受け止めきれない。だから、昨日、ひと足先に二人のお揃いの人形、あの沼の底に沈めてきました。健一さんのお望み通り、これでずっと一緒よ


健一︰ちが……くるし、ごボッ……ごボ、ゴボゴボッ!


郷土史家︰健一さん!? 嘘だろ、なんで口から水が……!


健一︰たすけ……さお、り……ごぼっ、ぼえっ……!


沙織︰ふふっ。苦しい? でも幸せよね。沼の底なら、邪魔する人は誰もいないもの。……行ってらっしゃい、健一さん。暗くて冷たい、ふたりきりの世界へ


(激しくむせる音、水が床にこぼれるような音)


ごぼ、ごぼごぼ。


[録音終了]

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