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【録音データ:某郷土史家へのインタビュー】   作者: おそばぽろろ


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2/5

【記録ファイル:二原港の黒猫について】

記録者:フリーライター(仮名:K) 記録日:07/05/2024


(ノイズ混じりの録音音声)


明美ちゃんの件ですね……ええ、本当に残念なことです。もう4年も経つというのに、手がかり一つないとは。当時小学生3年生の明美ちゃんが隣の光流市から引っ越してきて、わずか1ヶ月での行方不明。ご家族は随分とお辛いことでしょう。


明美ちゃん、大の猫好きだったそうですね。光流市が『猫の街』としてテレビ等で紹介されているのはご存知でしょう? でもね、猫にまつわる噂があるのは、あそこだけじゃないんですよ。ここ、二原の港にも、昔から妙な黒猫が居着いているんです。


1954年にこの二原市沖で起きた『第三福丸沈没事故』をご存知ですか? 113名もの命が冷たい海に呑まれた大惨事です。……ああ、Kさんはお若いからご存知ないのも無理はない。実はあの事故以降、この周辺の海では不可解な遭難や、突然姿を消すような行方不明事件が後を絶えないんです。


それと、あの海難事故の直後からです。港の近くで『ひどく痩せ細り、ずぶ濡れの黒猫』を見た、という噂が囁かれ始めたんです。


その猫は、決して鳴かないそうです。ただ、じっと暗い海の中を見つめている。そして、夜釣りや深夜の散歩で港に一人取り残された者の足元へ、音もなくすり寄ってくるそうです。噂によれば、その猫に触れた者は狂犬病のように『水』を極端に恐れるようになるか……あるいは、何かに呼ばれるようにして自ら海へ歩み入ってしまうのだとか。


オカルトじみた作り話だと思いますか? そう思うのは当然です。でも、私の知人が実際に二原港でその黒猫に遭遇しているんですよ。


とある夏の夜、釣りをしている彼の足元にまとわりつく猫を見下ろすと、猫はゆっくりと口を開きました。決して鳴かないと言われていた猫の声が聞けるのかと思ったそうです。しかし、聞こえてきたのは可愛らしい鳴き声なんかじゃありませんでした。


喉の奥から絞り出すような、『ごぼ、ごぼごぼ……』という、水中に沈んだ者が息を吐き出すような不気味な音だったんです。


彼はひどく怯えていました。当時の私は『猫の鳴き声ひとつで大袈裟な』と笑い飛ばしたものです。……でもその一週間後ですよ。彼が深夜の国道で単独のバイク事故を起こして亡くなったのは。

海からは遠く離れた山道のカーブ。にも関わらず、解剖の結果、彼の肺には『大量の海水』が詰まっていたそうです。


まあ、民俗学の観点から言えば、海を彷徨う水死者の魂は、新たな『器』を探すと言われています。人間より身近で、かつ生と死の境界を行き来しやすい動物……たとえば、猫などにね。あの暗い海の底でずっと何かがずっと仲間を探しているのかもしれませんね。そうすると、明美ちゃんはもう……。


……おっと、いけない。明美ちゃんの失踪について考察するはずが、すっかり無駄話をしてしまいましたね。


……ところでKさん。私の退屈な話に腹を立てるお気持ちは分かりますが、さっきから私の足を蹴るのはやめていただけませんか?

そう何度も、ズボンの裾を、引っ張られているような……


(マイクが擦れる音)


……Kさん?


ごぼ、ごぼごぼ。


[録音終了]


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