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【更新停止中】ガントレットは青空を掴む ー旅は導き、世は助けー  作者: いさな
第一章 導きのエルフと自由の栞

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第36話 「救いの精霊術」

「マヌス君も大変だったね~......Fランク依頼を受けたと思ったらDランク鉱魔獣と戦うことになるなんてさ~......でも、こんな理不尽に最後まで抗ったことは表彰物だよ」


 ルミナさんはそう言って俺を労ってくれた後に、緑の宝石が中心に付いた杖をヒートスケイルリザードへと向けた。


 ルミナさんはただ杖を向けただけ。それだけなはずなのにさっきまで俺のことを獲物だと判断して襲ってきていたやつと同じ個体とは思えないほどびくびくと震えていた。


 明らかに自身よりも上の強者に出会い、殺気をぶつけられたことで怯え切っているヒートスケイルリザードを見ると、俺とルミナさんにはまだまだ力の差があることを感じさせる。


「これがルミナさんの力か......俺もいつか追いつかなきゃな」


「マヌス君ならすぐに追いつけるさ......今回は私に譲って貰うけどね~......」


 俺が小さく呟いた言葉を拾って、ルミナさんは言葉を返すと杖を高く上げて詠唱を始めた。


『万物に宿る精霊よ、我の願いを聞き届け給え。敵は大切なものを傷つけた。なら、代わりに処罰するのは悪か......否!我は想いを紡ぎ未来を形作る者。その道を邪魔する者が悪である。精霊よ、許されざる悪に裁きの物語を与えてください』


 ルミナさんが詠唱の言葉を紡ぐたびに膨大な魔力が杖に流れていく。


 周囲の空間が軋み、風も熱も音や光も全てがルミナさんの言葉に答えるように魔力という力を杖へと分け与える。


 本能で死が近いことを感じたのだろう。ヒートスケイルリザードは抵抗するのでは無く、この場から逃げるという選択肢を取った。


 だが、それは滑稽で無様な敗者の行動。背中を見せた時点でこいつが生き残れる未来は訪れないだろう。


 ただ空に浮いて眺めているだけの俺でもわかるのだ。この想像は現実となる。


『極大精霊術 スピリトゥス=ロス=ペンナ』


 詠唱が終わりを迎えた後に残ったのは杖の頂点に浮かぶ小さな雫だった。


 それは雫に薄羽が生えたような見た目をしており、一見すれば弱い魔法に思えるほど小さい。


 ただ、その小さき物体に込められている魔力は果てしない量であり、魔法と精霊術を勉強したばかりの俺では真の姿を理解することは出来なかった。


 ルミナさんが杖を脇目も振らず、全力で逃げるヒートスケイルリザードの背中に向けて軽く振ることで精霊術が放たれる。


 その動作からは想像できないスピードで飛んでいく雫は瞬きをする間にやつの背中へと着弾する。


 着弾点を中心として雫が触れたところから崩壊が始まり、ヒートスケイルリザードという個体を分解するように徐々に塵にしていく。ただ倒されるのでは無く、存在自体を否定するようなその光景は自分勝手に生きて害を生み出すあいつには相応しい最期だった。


 風が吹き、最後に残った深紅の魔鉱石が地面に落ちたことで戦いの終わりを告げる。


 何とも呆気ない終幕だったが、力量差を考えれば戦いになるはずも無い。


「マヌス君が傷つけられたから少し本気を出しちゃった~......ちゃんと魔鉱石は残したから安心してね~......」


「は、はは、そんな余裕もあったんですね。助かりますルミナさん」


 ルミナさんは魔法で遠くに落ちている深紅の魔鉱石を拾って俺の方へと近づいてくる。


 そして、空中に浮いている俺の魔法を解除して下にいたルミナさんが抱きしめるように受け止めてくれた。


「危険な目に会わせちゃったね......私が一緒に着いて行ければこんな傷を負わなくても良かったのに......」


 ルミナさんは瞳に涙を浮かべて壊れ物を扱うかのように優しく俺の身体を地面に横にして膝枕をしてくれる。


 ルミナさんを泣かせてしまったのは俺の力不足が原因だ。ちゃんと訂正しないと......


「ルミナさんが悪いことなんてひとつもありませんよ。今回の募集依頼を一人で受けたのも、異常事態が起こったときに逃げなかったのも全て俺が選んだ道です。本当ならあのまま死んでいたのにルミナさんが来てくれたことで助かったんです。ルミナさんは俺の命の恩人です!」


 少しだけ回復した力を使って右手をルミナさんに近づけて、こぼれそうになっている涙を拭う。


「どうやって来たとか、何でルミナさんが来てくれたとかは後で聞かせてください。今はルミナさんと生きてまた会えたことを喜びたいです」


「マヌス君......うん、わかった。もう泣かないよ......だから、後は私に任せてゆっくり休んでね。起きたら沢山話をしよう」


 ルミナさんは優しく俺の手を元の位置に戻して頭を撫でる。


 暖かい手の温度と一定のリズムで撫でられることで一気に眠気が襲ってきた。


 ここがまだ危険地帯だということも忘れて心地よさに身を任せて目を閉じる。


「じゃあ、あとでいっぱい話しましょう......俺、今日凄い、頑張ったんです、よ......」


「お休み、マヌス君......」


 風が草木を揺らす心地いい音と太陽の光に包まれながらルミナさんの膝の上で意識を手放した。


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