第37話 「旅は導き、世は助け 自由を求めて青空掴む」
心地いい暖かさに身体が包まれているのを感じながら深い眠りから目覚める。
目を開けると木製の天井とそこに吊るされたシャンデリアのような照明が見えた。
外はすっかり暗くなっていて俺が意識を失ってから時間が経っていることを理解する。
寝起きで頭が働かないことを自覚しながら現状の把握に努めていると、横から優しい声が聞こえてくる。
「おはよう、マヌス君......疲れは癒えたかい......?」
「ルミナさん、ここは?」
「000の休憩室だよ~......ちょっとお話しようか~......」
それから俺はルミナさんが来てくれた理由やこの休憩室に来るまでを話してもらった。
サイモンさんとガモンさんは俺のお願いをしっかりと果たしてくれたようですぐに村へ向かって異常事態が起こっていると村長へ伝えてくれたそうだ。
そして、村長は迷わずに通信機を使って000へ事態の説明と討伐者の派遣をお願いしたが、その連絡を取ったのがアルジェントさんで近くにいたルミナさんが急いで俺の場所へ来てくれたらしい。
「でも、飛び出ていこうと思ったら少し手続きが必要らしくてね~......そっちへ向かうのに少し手間取っちゃったよ~......マヌス君がヒートスケイルリザードを相手してくれていなかったら被害が出ていたかもだから大手柄だね~......」
「そうですか......足止めに徹した頑張りが無駄じゃなかったんだってわかって良かったです」
ルミナさんが俺のところへ来てヒートスケイルリザードを倒した後は、寝てしまって、意識の無い俺の代わりにルミナさんがマーチス村長に異常の原因がヒートスケイルリザードだったこと、討伐したのでもう安心していいことを伝えてくれたらしい。
そのまま俺のことを魔法で運びながら000の休憩室に連れて来てくれて俺が起きるまで横で見守ってくれたというのが今の状態のようだ。
「俺が寝ている間に色々やってもらっていたんですね......ありがとうございます」
ベッドから上半身を起こした俺はルミナさんへ感謝を伝える。
「気にしないでよ~......本来Fランク討伐者がDランク鉱魔獣に遭遇したら逃げるか殺されるしかないんだよ......?でも、マヌス君は被害を抑えるために全力で立ち向かって生き残った、その頑張りを汚したくなかっただけ」
俺がこれ以上気に病まないように気遣ってくれるルミナさんの優しさが心に残る。
「そうですね......うん、ヒートスケイルリザードとの闘いは今までの訓練や戦闘とは違う命の取り合いでした。相手の油断や痛めつける意図があったとしても隙をついて自慢の尻尾を壊して抗いました」
ルミナさんはどこか心配そうな表情のまま、ポケットから深紅の魔鉱石を取り出して俺の手に置いた。
「これは、ヒートスケイルリザードの魔鉱石......」
「そう、討伐者は倒した鉱魔獣の素材の所有権を得る......だから、私からマヌス君にあげるよ......また同じような窮地に立たされたときのお守りに使ってね~......」
「ありがとうございます、大切に使わせてもらいます」
正直、とどめを刺せなかった俺が貰っていいのかという思いはあるがルミナさんがくれたんだ。原初のガントレットに使える切り札として持っておこう。
「最後に頑張ったマヌス君へ私からのプレゼント......」
ルミナさんはそう言うと空中で円を描くようにくるくると指を回す。すると、指の先から光が溢れて何かを形作っていく。
「これはね、マヌス君が自由になるためのプレゼント......今回みたいなときに最後に私を呼び出せる。これがあれば自分が望む限界まで戦える......そんな選択の自由が手に入るものだよ......」
そこで言葉を区切ったルミナさんは空中に浮いている長方形の薄い光を手に取った。
「これの名前は『自由の栞』っていうんだ~......私の固有スキルで生み出したものでね、握りこんで栞に宿る精霊にお願いすれば私を呼び出せるものだよ~......募集依頼を一緒に行くにはまだ時間が掛かるだろうからね......」
自由の栞か......ひとりではヒートスケイルリザードに殺されていた俺に自由を目指す資格なんてあるのかな。
「ありがとうございます......」
俺はお礼を言った後に、受け取った自由の栞をぼーっと眺めることしか出来なかった。
「――まだ、ヒートスケイルリザードを倒せなかったことを後悔しているのかい......?」
そんな俺の姿を見てルミナさんが問いかける。
「後悔......そう、ですね。後悔はありますがそれよりもルミナさんが来てくれなかった時のことを考えてました。もし、俺が負けてヒートスケイルリザードが村へと向かったらどうなったんだろうって」
起こっていない仮定の話なんてしても意味が無いとは思うが、それでも自分の力不足が最悪の未来を引き寄せることを知ってしまった。
「このままだとヒートスケイルリザードやそれより強い鉱魔獣からは大切な人を守れないです。それがどうしても......怖い」
そうか、俺は怖いんだ。ヒートスケイルリザードとの戦闘は俺の全てを出し切って新しい力を手に入れたのに討伐までは届かなかった。
そんな俺に未来はあるのか、討伐者でいる資格はあるのか。そんな悪い考えが頭の中でぐるぐるしている。
弱い俺には鉱魔獣を狩るという責務も鉱魔獣から人々を守るという責任も果たせない。
そんなことを考えて栞を眺めているとルミナさんが俺の手を栞ごと包み込む。
「そうか、怖いか~......なら、私に心を預けてみないかい......?」
「心を、預ける?」
「そうだな......迷ったときは私がマヌス君を導こう。恐れがあるときは先の道へ私が手を引こう。一緒に居れないときは私のあげた自由の栞が心の支えになろう」
いつもの間延びした口調では無く、真剣に言葉を紡ぎながら「だからね......」とルミナさんは続ける。
「私と一緒に青空を掴もう。ひとりで怖いのなら一緒に自由の青空を目指そうよ。私も足りないものばかりだ......だから、お互いが足りないものを補って助け合う存在になれば怖くなくなるんじゃないかな」
ルミナさんの手から伝わる暖かさが感じていた恐怖という冷たい感情を溶かしていく。
「マヌス君は独りじゃないんだ。力への不安は私が補うよ、だから、マヌス君の優しさを私にちょうだい」
そうだ、俺には一緒に高め合っていける仲間がいる。まだ俺が弱くても導いてくれる人たちがいる。そして、ルミナさんは一緒に自由を目指してくれる。
「ルミナさん......俺、一緒にいたいです。心からルミナさんと一緒に力を付けて旅をして自由になりたい。そのためにルミナさんのことを支えます。出来ないことは全て俺に任せてください。だから、俺を助けてください」
俺が決意と弱音を混ぜた本音を吐露すると、ルミナさんが俺の身体を引き寄せて抱きしめる。
「人は不完全な生き物なんだ。なんでもできる人なんていないんだから支え合っていけばいいんだよ」
俺の耳元で慰めるようなことを言いながらルミナさんは抱きしめ続けていた。
俺が落ち着くのを待ってからルミナさんは少し身体を離して「そうだ」と言い、俺と目を合わせる。
「マヌス君に私が好きな本の言葉を教えてあげよう。『旅は導き、世は助け』ってね。意味は旅は共に歩む同行者と助け合いながら、神様からの導きに沿って生きるのが良いって意味なんだ」
「いい言葉ですね、『旅は導き、世は助け』か。うん、これからの俺たちにピッタリな言葉です」
俺はやっと自由に向けたスタートラインに立ったところで旅に向けた一歩目を踏み出したんだ。その先でルミナさんと助け合いながら導き合う旅をしようじゃないか。
俺のなかでこれからの方向性が定まったことに安心したのかルミナさんはベッドの上に身体を投げ出した。
「そんな感じで明日からまた頑張っていこ~......目標はDランク討伐者になって他国へ向けての旅かな~......」
ルミナさんは「真面目に話過ぎた~」と言って強張った身体を解すように伸び伸びと広げている。
「ですね、ルミナさんのおかげで感じていた恐怖感は無くなりました。これから先は旅に行くための準備期間です!俺もルミナさんのお願いは何でも聞くので言ってください!」
「何でも......?」
俺の言葉を聞いたルミナさんは身体を起こし、悪い顔をして目を光らせた。な、なんか嫌な予感が......
「あ、じゃあ早速お願いを聞いて貰おうかな~......マヌス君はこれから私に敬語禁止ね~......あと、マイナスなことを考えないこと~......それに~」
「ちょっ!多いですよ!あと、敬語禁止!?凄い歳が離れてるのに......」
「レディに年齢の話をする悪い子なのかな?マヌス君は」
「す、すみません......」
「じゃあ、敬語禁止ね~......」
「はい......」
恐怖も寂しさも捨てて前を向き始めた夜は笑顔で溢れていた。
最初はよくわからない神導武器を授かり、ルミナさんに出会って、修行して。そこから討伐者になって死にかけた。
でも、その時間は素晴らしいものだったし俺が自由になるためには必要な出来事で溢れていた。
まだまだ道半ばの人生だが、これから自由を目指す旅が始まるんだと思う。
いつか青空を掴む旅が。
1章終了です!
ここまで読んでいただきありがとうございました!
2章は一週間のお休みをいただいたのち再開します。
今後とも「ガントレットは青空を掴む ー旅は導き、世は助けー」をよろしくお願いいたします!
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