第34話 「ヒートスケイルリザード」
ヒートスケイルリザードと対峙しているだけで周囲の温度が上昇していくのを感じる。
確かこいつは体内に発熱器官を持っていて、抑えられない熱が鱗の間から蒸気となって漏れている鉱魔獣だったはず。
常に消費されるエネルギーを補うために住処を決めず、色々な場所を徘徊するっていう特徴を持っていると図鑑に書いてあった。
あのアイアンゴブリンたちもこいつに襲われて捕食されそうなところを逃げて来たのを俺たちが見つけたんだろうな。
ただ、俺はまだ戦うことの無い相手だと思っていたので弱点や攻略法などを全く知らない。ここからは持てる力全部を使って無理筋でも通すしかないか。
「まずは少し抗ってみるか。【過集中】【柔軟性】【肉体強化】【写し身:ストック収集】発動!」
俺はできる限りのバフを自身にかけながら少しでも相手の動きに対応できるように写し身スキルを発動する。
過集中によってヒートスケイルリザードの筋肉の動きや魔力の起こり、全てを把握することが出来るようになる。今回、写し身スキルはストックを取るためではなく動きを把握するために使用した。
ヒートスケイルリザードがどんどんと体内の熱量を上げていき、外に漏れだす蒸気が増えてきたところで俺に向けて凄まじい速度で突っ込んできた。
一瞬で目の前に現れたヒートスケイルリザードの爪が、が容赦無く頭上目掛けて振り下ろされる。
観察していた俺はバックステップをして避ける。地面に突き刺さった爪にめがけて魔力を纏ったガントレットをぶち当てる。
当たった拳のインパクトに合わせて波の魔力を流し込んで内側からの崩壊を試してみたが、魔力純度が負けているのか上手く伝わらずに爪を折ることは叶わなかった。
ヒートスケイルリザードが爪を抜きながら横なぎに振るう。
「あっっぶな!?」
更に後ろに下がって爪を避けたのに、鱗から漏れる蒸気の熱風が顔に吹き付ける。
火傷するほどではないがただ腕を振るっただけでこの熱さってことは直接身体に触れたら肉が焼けそうだ。
一撃で俺のような小さい存在を仕留められなかったことにイラついているのだろうか。
地団駄を踏んで土埃をあげながら次こそは狩ると言わんばかりにまた魔力を高め始めた。
少し遠くにいるはずの俺が感じるほどの熱気を出すヒートスケイルリザードを視界に収めながら、次の行動の準備を始める。
「こいつに一発貰うだけで今の俺だと戦闘不能になるな。なら防御力を上げる!――氷鏡鱗のガントレット『機動』」
盾を持つ氷鏡鱗のガントレットに武器を変更した後に、鎖の騎士鎧へ氷属性の魔力を流して鎧の上から更に氷を纏わせる。
全身から出る冷気とヒートスケイルリザードの熱気が触れ合い周囲に水蒸気を発生させていた。
「――こい!」 『がぎゃぁあああああ!!』
鏡鱗の盾を構えた俺に強烈な熱気を放つ腕が振り下ろされる。凄まじい力が盾を伝って俺の身体に伝わるが氷を靴の裏にスパイクを発生させることで何とか吹っ飛ばされることを防ぐ。
熱が俺に伝わる前に更に冷気の出力を増やしていくことで完全に無効化した。ここからはただの力比べ。盾の下から氷柱を何本か地面に向けて発生させることで盾にかかる力を分散させながら、反撃の機会を伺う。
ヒートスケイルリザードは何度、腕を打ち付けても崩れることの無い俺に更なる追撃を加えようと力を蓄え始めた。
「観察してたからわかる......その行動は隙だらけだ!」
氷属性の魔力を鎧へ通し、魔力操作を用いて螺旋魔力を右手の爪へと纏わせる。
回転を加えた魔力を纏った氷竜の爪はその大きさを増大させた。
「氷龍螺旋爪!!!」
爪から発生した氷の爪がヒートスケイルリザードの身体を引き裂くために飛んでいく。
『ぎゃあ!?』
氷爪が高熱の鱗で覆われたヒートスケイルリザードの皮膚へ五本の大きな爪痕を刻み込んだ。
身体から溢れる血が地面へと流れ、雑草を高熱で燃やしていく。
「はあはあ......こいつ、血まで熱いのか......でも、初めて攻撃が通ったな」
痛みに悶えるように地面をバタバタと転がる姿を見ながら失った体力を回復させるように息を整える。
(結構な魔力を込めて打ったのに、あれでやり切れないのか。あの一撃をもう一回打つのは無理だぞ......)
残る俺の手札は土魔法と螺旋一貫、そして原初のガントレットへ魔鉱石を嵌めることで力を発揮すること。
だけど、前者では氷龍螺旋爪を超える威力は出せないし、後者はまだ試したことが無いため不安が残る。
どっちに賭けるべきなのか。ヒートスケイルリザードが体勢を立て直す前に決断しないと。
「――いや、こんな状態で頼るなら相棒だよな、原初のガントレット『機動』」
キーワードを合図に氷鏡鱗のガントレットが光になり、代わりに黒い光が線となって俺の腕でガントレットを形作る。
そして、腰にぶら下げていた小袋からひとつの魔鉱石を取り出した。
俺の手にすっぽりと収まるくらいのサイズ感で色は透明無色。込められている魔力は無属性魔鉱石だが、今の状況だとこれが最適だろう。
「頼むぞ、原初のガントレット!」
状況を打開したいという想いを込めて原初のガントレットの窪みへ無属性魔鉱石を近づける。
すると、窪みから光で出来た触手のようなものが伸びて魔鉱石を包み込んで吸収していった。
【ドクンッ!】
原初のガントレットが生命活動を開始するように鼓動を鳴らす。何度もなる鼓動を起点としてガントレットに覆われた両腕が今までに感じたことが無いほどの熱を持っていく。
「くっ!」
あまりの熱さに耐えられ無かった俺は地面に両腕を付けて膝を折ってしまう。
隙だらけな俺を捉えたヒートスケイルリザードが転がるのを止めて、近づいてくる。
さっきまで抵抗していた獲物が理由はわからないが無抵抗なら狩りに来るのは必然。顔を下げている俺にはわからないがニヤニヤとした表情をして口角を上げているのだろう。
気配がもうすぐそこまで迫っているのを感じながらも、未だ原初のガントレット内部の蒸気の流れは収まらない。
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