第33話 「草原に響く足音の主」
宿屋での休息を終え、朝を迎えた俺は朝食を摂ったのち村長の家の近くで待機していた。
少し早く着いたので依頼に必要な道具や外装のチェックをしていると家の扉が開いて村長と若い男性二人が出てくる。
「マヌス殿、もう来てくれていたのか。こやつらが今回の調査に同行する二名じゃ。挨拶をしなさい」
「サイモンです。力はありますが戦闘経験はありません」「ガモンだ。同じく力仕事は得意だが鉱魔獣を倒したことは無い」
「マヌスです。今回の調査は俺が先行して進むので緊急性のある状態や俺が危険になったときにいち早く現場を離れて村へ伝える役割をしてもらえると助かります。二人が逃げる時間は俺が稼ぎますので」
戦う経験の無い一般人に鉱魔獣を任せるわけにはいかない。二人には問題があったときの連絡役になって貰おう。
「マーチス村長、この村に通信機はありますか?」
「000に直接連絡できるものならありますぞ」
「でしたら、もしサイモンさんとガモンさんだけが村に帰ってきたときには通信機を使って連絡をお願いします。そんなことは無いといいんですけど何事も警戒しておいて損は無いですから」
「わかったのじゃ、サイモンたちもよろしく頼むぞ」
村長の言葉に頷いた二人を見届けて俺は目的地の草原へと向かうのであった。
◇◆◇◆
「ここがアイアンゴブリンを見た場所ですか。特に変なところはありませんね」
「ガモンが仕事をさぼっているときに見つけたらしいですよ」
「そのさぼりが発見に繋がったんだよ。ちょっと多めに見てくれや」
二人の会話から察するに本当にこの草原は平和な場所だったんだな。さぼるのはどうかとは思うが日常的に訪れることが出来るからこそ、そういう用途に使われているはずだ。
そんな場所を守るためにもしっかりと調査をして村に住む人たちを安心させないとな。
「じゃあ、まずは俺が魔力探知をして周囲を探ってみます。何か異変があったら伝えますので二人は警戒しながら待っていてください」
俺は二人にお願いをしてから身体の魔力を薄く、広く放出していくことで探知範囲を広げていく。
少しずつ、少しずつ伸ばした魔力の波は静かな草原をすり抜けていき、小さな情報まで収集していった。
「くっ!このままだときついかな。もっと集中しないと......」
目を瞑り、体内にある魔力貯蔵器官に手を置いて更に範囲を広げるために魔力を放出する。
俺の探索範囲は草原を超えて奥にある森や山の手前まで届いた。そこまで広げた俺の探索範囲に不思議な反応が引っ掛かった。
多く広げていた魔力を反応のある方向へと集めることで少し奥まで伸ばすことができた。
そのおかげで不思議な違和感の正体を把握することが出来たが......
「これは......大量のアイアンゴブリンが固まっている?1匹じゃ無いな、5匹、10匹......いや20匹はいる」
「20匹ですか!?そんな、この草原でこれまで一匹も鉱魔獣を見たこと無いんですよ?」
「そんな量のアイアンゴブリンが村に来たら被害は尋常じゃないものになるぞ......」
そうだよな......俺の探知範囲が届くまでの距離に普段からこんなに鉱魔獣が居るんだとしたら今まで目撃情報が無いのはおかしい。
考えられる理由としてはアイアンゴブリンの繁殖が増加することで森の中では食料を採れなくなったことで外に求めて出てきたか、新たな生息地を求めて団体で移動するためか。
他にも考えられることはあるが可能性が高いのはこの二つだろう。
でも、森は広大で弱肉強食の世界だ。いくら数が増えたとはいっても食料が無くなるなんてことは考えにくい。となると、アイアンゴブリンよりも強い何かに住処を追われたか......
「サイモンさん、ガモンさん一度村へ戻ってこの異常を伝えてきてください。俺はここに残り動きが無いか警戒しておきます。村長には000へDランク以上の討伐者の派遣を伝えるようお願いしてください。20匹のアイアンゴブリンであれば俺だけでも問題無いですが安全を考えると追加の人員が欲しいのです」
「わかりました、マヌスさんも気を付けてください」
「ちゃんと伝えてくるからな!」
探知を切らさないように注意していると、二人が離れていくように足音が遠ざかっていく。
(ただここに立っていても事態は好転しない。なら、俺が何匹かアイアンゴブリンを討伐してやる)
「原初のガントレット『機動』―鎖の騎士鎧『蒸装』」
敵に近づく前に神導武器と外装を装備していつでも戦闘に移れるように準備を整えてから森の方へ足を進めていく。
決して気づかれることが無いように気配を消して歩いていくが森に近づくにつれて謎の不安が募っていくのを感じる。
俺はアイアンゴブリンの集団が目視できるほどに距離を詰めていつでも攻撃を仕掛けられるようにしていたその時。
『ぐぁああああああああああ!!!!』
森の奥から空気を震わせるほどの獣の叫び声が聞こえてきた。
アイアンゴブリンが近くにいるのを忘れて思わず耳を塞いでしまうほどの咆哮に身を縮こまらせていると、声に反応したアイアンゴブリンたちが「ぎゃあ!」「ぎゃああ!」と鳴き声を上げながら逃げるように森の外へと出てくる。
「――チャンスだ!『鉄の地獄穴』!」
こちらに気づいていないアイアンゴブリンたちの進行方向に土魔法で落とし穴を生成する。
逃げるのに必死になっていて罠にも気づけなかったアイアンゴブリンたちが落ちているこの穴のなかは剣山のようになっており、落下速度のまま鉄の棘に突き刺さった標的には逃げる術が無い。
最初は穴の底で痛みに悶える声が聞こえてきていたが次第に静寂へと変わっていった。
「ふぅ......運よくアイアンゴブリンたちは仕留められたけどさっきの声は何だったんだ。結構遠くから聞こえてきたはずなのに一瞬身体が固まったぞ......」
もしかしたら、あの声の主が草原にアイアンゴブリンが現れた原因の鉱魔獣なのか。
Fランク鉱魔獣があれだけ必死に逃げていたことを考えると確実に俺の手に余る存在だろう。急いでここを離れて村長が呼んでくれるはずの増員を待つしかないか。
そこまで考えて村へ戻ろうと後ろを振り返った俺の耳に重厚な足音が聞こえてくる。
ゆっくりだが、確実に俺がいる場所へと近づく存在を知らせるかのように大きくなる足音は恐怖を抱かせるのに十分だった。
俺はすぐそこまで近づいているであろう存在から逃げるのを諦めてガントレットを構えて立ち向かう姿勢をとる。
木を倒しながら姿を現したのは赤色の金属鱗を全身に纏った二足歩行のトカゲ。
図書館で予習したから知っている。筋肉を隆起させて大きな尻尾の先は尖り高熱を帯びている、鱗の隙間から蒸気が漏れているあいつは『Dランク鉱魔獣ヒートスケイルリザード』だ。
ヒートスケイルリザードは身体からシュウシュウと絶え間なく排気音を鳴らしながらきょろきょろと獲物を探すように周囲を見渡していたが、ある一点で視線を止める。
そこにはガントレットを構えている俺が映っていた。
ヒートスケイルリザードと俺は目が合い、奴は得物を見つけたかのように口角を上げる。
『ぎゃああああああ!!!!』
「おいおい......アイアンゴブリンの声に引き寄せられたのか?こんな大物まだ俺には早いんだけどなぁ!」
これは逃げられないと察した俺は覚悟を決める。
標的と認識された俺に残された選択肢はこいつを倒すか、増援が来るまで耐えて村まで行かせないことしかない。
これから始まるは心身を燃やす討伐戦だ。
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