第26話 「純白の鎧と心意気」
ルミナさんと一緒に帰ったあと、両親に合格を伝えたところとても喜んでもらうことができた。
アレス父さんは珍しくお酒を飲んでベロベロになっていたり、ミレア母さんはずっとルミナさんに俺が小さいときにあったエピソードを語っていたり。
子供としては少し恥ずかしい気持ちにもなりながらも嬉しそうに心から祝福してくれる両親であることを再認識できた嬉しい夜だった。
次の日の朝には氷龍の煌めきの皆にも報告することができた。「良かったな」と言って貰えて、いつか一緒に依頼を受けようといった約束をすることもできた。
討伐者になれたことももちろん嬉しかったが、なによりこれまでお世話になった皆に良い報告ができたことが嬉しい。
討伐者になったことですぐに依頼を受けたい気持ちはあるが、まずは約束を果たしに行こう。
◇◆◇◆
そして、今俺はルミナさんと一緒に約束であるモーチラスさんの外装販売店『ヌル=コード』を訪ねていた。
店の扉を開けて、いつものように奥から硬質な金属を叩く音が響いてきた。その音に負けないように俺は腹の底から叫んだ。
「モーチラスさん!マヌスです、無事討伐者試験に合格出来ました!」
金槌の音に負けないように少し大きめの声でモーチラスさんに届くように合格を伝える。
俺の声が耳に届いたのか、ずっと鳴っていた金槌の音が止まり重い足音を鳴らしながらモーチラスさんが奥から出てくる。
「おう、マヌス合格おめでとう!ルミナもいたのか」
「ついでみたいに言わないでもらえるかな~......マヌス君がいるところに私あり、だよ~......」
ルミナさんが真顔でボケなのか本気なのかわからないことを言っている。
まぁ、ずっと一緒に居るのは本当だし俺も一緒にいることが心地いいんだよね。
顔を合わせて笑い合う俺らの姿を見て、モーチラスさんはため息をついていた。
「ルミナのことはどうでもいい「なんだと~」......がマヌスが合格できたってことは遂に外装を渡せるってことだな!」
「そうです......って渡す?これから作るんじゃないんですか?」
俺は合格してからモーチラスさんが作り始めてくれると思ってたんだけど......
「マヌスと知り合ってからの間で俺が何もしてないと思ったのか?後はサイズを合わせて仕上げるとこまで出来てるぜ!」
「それは、すっごくありがたいです!でも、俺がもし合格出来なかったら無駄になっていたかも......」
「たく、俺の目を侮るなよ?マヌスなら不測の事態が無ければ必ず合格するってわかってたからな。すぐに依頼に行けるためにも準備しておいたんだよ!」
あの時はまだ悩みも多くて新しい力に振り回されるだけのやつだったのに、モーチラスさんは約束をした日からずっと俺のことを信じてくれていたのか。
胸を張って笑顔を見せるモーチラスさんを後悔をさせる結果にならなくて本当に良かった。
「モーチラスさん......俺、モーチラスさんに後悔させないくらい立派な討伐者になります!改めて、俺の外装をよろしくお願いします!」
これは願いじゃなくて決意であり宣言。やっと討伐者になれて恩を返せるようになったんだ。どんなことがあっても仇で返すわけにはいかない。
俺の目をしっかりと見つめたモーチラスさんは「その言葉受け取った!」といって奥へと戻っていく。
少しして、奥から戻って来たモーチラスさんの手には一点の曇りもない純白の鎧が抱えられていた。
表面には磨き上げられた真鍮の歯車と銀の鎖が緻密な魔導回路のように規則的に配置された外装があった。
「これがマヌスのために俺が作った外装『鎖の騎士鎧』だ。絆を尊ぶ騎士って意味の外装になる」
その外装は穢れを許さない潔白さと鋼の信念を体現しているかのようだ。
「鎖の騎士鎧......凄い綺麗な外装ですね!」
「分類は多機能蒸気装甲だな。特化した力は無いが外装に込めた魔力の種類によって力を変化させるように設計した。どんな効果になるかは依頼に行く前に試しておくといいぞ!」
多機能蒸気装甲にすることはモーチラスさんと話し合いをしたときに決まった案だったな。絆が結ぶ世界が多くの力をくれるからこそ選べた選択肢だと思う。
「後は......そうだな。ルミナ、鎖の騎士鎧から精霊は感じるか?」
ルミナさんは不思議そうな顔をしながら、モーチラスさんに言われた通りに外装へと近づいて目に魔力を込めた。
「精霊~......?――いるね、なんで?......普通、外装に精霊が宿ることなんてないと思うんだけど......」
「良かった、成功してたんだな。流石の俺にも精霊が宿ったかは確認できないからな!」
大きな口で笑うモーチラスさんの肩を掴んだルミナさんは「なんで~?」と言いながら凄い勢いで揺らしている。
「待て待て待て!説明するからその手を離せ!――たく、そんな細腕からなんでそんな力が出るんだよ!いいか、鎖の騎士鎧に精霊が宿っているのは素材に精霊鉱のインゴットを使ったからだ」
揺らされたことで凄いことになっていたモーチラスさんは一度息を整えて説明を続ける。
「精霊鉱っていうのはだな、精霊が宿ることによって純度と硬度を上げた鉱石のことだ。
精霊鉱を使用した外装は魔力を貯蔵し、力に変える効果があるんだが一定量まで到達することで神導武器と同じく進化することがある。
そして、今回使用した無色の精霊鉱は自由度の高い頭文字を持つ神導武器使いとの相性が特に良いのさ!」
誇らしそうに語るモーチラスさんを見て、疑問が湧いた俺は手を挙げて質問する。
「モーチラスさん、そんな凄い効果を持つ鉱石って高いんじゃないんですか?俺もある程度は貯蓄金はあるんですけどたかが知れてるし......」
もちろん、モーチラスさんがせっかく作ってくれた外装だし借金をしてでも手に入れるつもりだけどせめて心の準備をしておきたい。
不安そうに聞いた俺のことをきょとんとした顔で見ているモーチラスさんの姿を見て、何かおかしなこと聞いたかな?と不安になってくる。
「何言ってんだ!この外装は俺がお前にやる合格祝いだぜ?ただに決まってるだろ?」
「え......いやいや!ちゃんと払いますよ!?モーチラスさんの気持ちはありがたいんですけど良い物には相応の返しをしろって家訓があってですね......」
モーチラスさんはこっちへと近づいて来て、困惑している俺の頭をぐりぐりと乱雑に撫でてきた。
「ガキがいっちょ前のこと言ってんじゃねー!俺が決めたことだ、この外装はマヌスにやる!そのことで申し訳なく思うんだったら討伐者になって大成してからお前と同じように迷った新人へこの店を教えてやるんだな!」
男気溢れるセリフを口にしたモーチラスさんは「ほら、さっさと調整するぞ!」と言って奥の作業部屋へと行ってしまった。
まだ呆然とする俺の手を掴んで、いじわるな笑みを浮かべたルミナさんが口を開く。
「ああなったモーチラスは曲がらないからね~......諦めるんだね。言ったでしょ?あいつは頑固者だってさ~......」
やっと思考が追いついた俺はモーチラスへ感謝を伝えるためにルミナさんと手を繋ぎながら作業部屋へと向かう。
「モーチラスさん!ありがとうございます!お、俺!絶対に皆に誇れる討伐者になりますから!」
「当ったり前だ!後悔の無いように全力で頑張ってくれなきゃ鎖の騎士鎧が泣いちまうぜ!」
人の優しさと心意気に溢れる、暖かい空気のなかで最後の調整作業が始まったのであった。
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