第22話 「シアネスと自由の本」
「人族と水妖精族の混種、シアネスです。神導武器は本。どうぞよろしく、自由の絵本『機動』」
キーワードを合図に青い光球がシアネスの周りに漂い、浮かんでいる。
シアネスが右手のひらを上へ向けると、目的を思い出したかのように光球たちが手に向かって集まっていく。沢山の光球はやがて形を作り、光が収まったときには表紙が青い一冊の本がシアネスの手に握られていた。
「これが僕の神導武器、自由の絵本だよ。その力、今からレクスさんにお披露目させていただきます」
「今回は珍しい神導武器を持っているやつらが多いな!刀の次は本とは。さぁ、俺を動かしてみろ!」
シアネスはショーを見せるかのように一度深くお辞儀をした。対照的に猛々しいオーラを放つレクスさんは今までと同じく、大きく足を開き腕を組んで相手が仕掛けてくるのを待つ体勢になった。
シアネスは手に持つ本を構え、魔力を高める。すると、本が勝手に開き、パラパラとページがめくられていく。
「じゃあ遠慮なく!『出会いの章:願いの泉』」
シアネスが本のタイトルのようなものを読み上げると、めくられていたページがピタッと止まり輝き始めた。
その瞬間、シアネスとレクスさんの周りを囲うように大きな泉が出現した。だが、水の上に立っている二人は沈む様子は無く、お互いを見ている状況になっている。
「これは......幻影か?水に触れる感覚も無い。シアネス君、これから何かあるのかね?」
「そうですね、この泉はこれからお見せするお話のきっかけになる鍵です。ここからが本番ですよ」
そう言うとシアネスは胸にあるネックレスを握りこみ、目を閉じた。
「泉の女神よ、僕があなたに望む願いは『想いを力に変える剣』依り代はこの十字架のネックレス!」
シアネスの言葉を合図に泉が光を放ち、魔力が増幅していく。泉の光と魔力が周囲を満たしたと感じたとき、その力全てがシアネスの胸に向かって注がれた。
辺り一面を光が覆った後、俺はあまりの眩しさに目をつぶるしかなかった。
閉じた目の裏から感じた光が収まったのを理解した俺はゆっくりと目を開けてシアネスの姿を捉える。
シアネスの右手にあった本は無くなり、その代わりとして持ち手が十字架で出来た光の刃を持つ直剣が握られていた。
「これが僕の神導武器である自由の本の力です。魔力を媒介にして依り代へ願いの力を流し、形にする。泉のなかにいる間この効果は続き、レクスさんが泉から外へ出るためには僕の魔力が尽きるのを待つしかありません。」
レクスさんは確かめるように手を伸ばし、泉の外へ出そうとしたが見えない壁に阻まれたように先には届いていなかった。
「ここから出るにはシアネス君を倒して魔力の供給を断つか持久戦に勝つしかない、ということかな?」
「そうですね。なのでまずは、僕の攻撃を受けてくださいな!」
シアネスは光剣を構えたままレクスさんに突撃していく。
レクスさんは先ほどまでと同様に魔力を纏った腕で剣を弾こうとしたが、シアネスの光剣は力が拮抗したように腕と競り合っていた。
「ほお......俺と競り合うとは。それがその剣の力か?」
「そうです!この光剣は今、僕の勝ちたいという想いを乗せている。ゆえに僕の心が折れない限りレクスさんにも届く力を持つ剣になる!」
「素晴らしい武器だな、その力が持つ攻撃力は把握できた。では、防御はどうかな!」
そう言うとレクスさんは光剣を受け止めている方とは逆の腕でシアネスを殴ろうとする。
シアネスは攻撃が来ることを察知したのか、後ろへ大きく跳躍してレクスさんとの距離を空けた。
「レクスさんの拳をこのままの状態で受ければ僕は地面へ倒れることになるでしょう。なので、少し小細工させて貰います」
シアネスはその場で剣の刃を泉に刺し、また目を閉じた。
「今度は俺から攻めさせて貰うぞ!今の無防備な状態だとまずいんじゃないのか?」
その場から動かないシアネスの姿を見て今まで動かなかったレクスさんが腕を大きく振り上げてシアネスの元まで跳躍していく。
レクスさんがシアネスに拳を届かせようと拳を振り下ろしたその瞬間、シアネスの魔力が高まり、泉から光が溢れた。
「泉の女神よ、僕が新たに望む願いは『不壊の盾』依り代は僕の折れない心!」
シアネスの願いを聞き届けたのだろう。光る泉の中から青い盾が出現し、シアネスの左腕へと装着された。
シアネスは拳が届くまであと一歩のところで身体と拳の間に盾を割り込ませる。
青き盾に阻まれたレクスさんの拳は動きを停止させた。
攻撃が防がれたレクスさんは拳を下げてシアネスに問いかける。
「手数が多いな。それも神導武器の力か?」
「そうです。この盾は僕の心が折れない限り壊れず、あらゆる攻撃を防ぎます。レクスさんがどれだけ魔力を纏わせた拳で殴ったとしても防ぎきってみせましょう!」
シアネスは自分を鼓舞するように光剣と盾を構えなおしてレクスさんへと宣言する。
その姿を見て思うところがあったのかレクスさんは少し考えた様子を見せたあと、シアネスに向けて再度問いかけた。
「魔法はどの程度使える?」
「相手の動きを止めたり、少しダメージを与えるくらいなら。それだけで倒せる魔法はありません」
「――そうか。シアネス君、君の優秀さはわかった。今の状態の俺が攻撃をし続けたところで長期戦になるのは明白だな。であればここでプロの討伐者としての力を見せておくのも一興か」
武器を構えていたシアネスはレクスさんから攻撃の意思が感じられないことを不思議そうにしながら、今がチャンスだと言わんばかりに前へ進んで剣を振り下ろした。
「無防備な相手に攻撃を仕掛けるのは正解だ。だが、それは相手の力が把握できている場合に限るがな。地獄の扉を築く大槌『機動』」
もう少しで光剣がレクスさんに届く!と俺が思ったその瞬間、俺の視界からシアネスが消えた。
「え......シアネス!」
思わず声を上げた俺は焦って周りを見渡すと、少し離れた位置で倒れているシアネスを見つけた。
そんな俺の様子を見て、レクスさんが今の現象の答えを告げる。
「そんな慌てなくても大丈夫だ。シアネス君は俺が呼び出した神導武器の余波に吹き飛ばされただけだな」
俺がレクスさんの方を向くと、レクスさんの手には赤黒い金属で出来た大槌が握られていた。大槌のヘッドの周りには棘が付いた円が回っていて全体が時々燃える火のように内側から光っている。
俺が大槌から放たれる威圧感に驚愕していると遠くからシアネスの声が聞こえてくる。
「うっ......ただ神導武器を出しただけでそれって......自信無くしちゃうな~」
まだ地面に倒れているがなんとか顔を上げて声を出すシアネスは放出していた魔力を閉じた。
供給が断たれた泉と武器が徐々に光に戻って消えていく。
「これが俺と今の君たちとの差だな。神から授かる神導武器はその者の経験を糧として成長していく。即ち、俺に追いつくために必要なことは討伐者になってから手に入ると思ってくれ」
レクスさんはシアネスの戦闘意志が消えたことを確認したのか、神導武器を消してシアネスの方へ歩いていく。
「シアネス君が俺に勝ちたいのであれば討伐者になって様々な経験をすれば届くだろう。君にはそう断言できる実力がある」
そう言うとレクスさんはシアネスの手を取り、握手をした。
「レクスさんにそう言って貰えると自信になりますね~。いつか絶対に勝ってみせます」
フッと軽く笑ったレクスさんは一言「期待している」と口にし、シアネスを立たせた。
シアネスが奥に戻ったことを確認したレクスさんは受験者の最後の一人である俺の方を見て口を開く。
「さぁ、最後の戦闘試験を始めよう。君の名前は?」
「人族のマヌスです!神導武器はガントレット、全力で戦い絶対に合格します。原初のガントレット『機動』!!!」
俺は両手に装着されたガントレットの拳を打ち付け、会場に金属音を響かせた。
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