第8話
ハルキが目覚めた時には家にはもう誰もおらず、テーブルの上にミーユからの手紙と簡単な食事が置いてあった。
『エミリー様達の家に行って参ります。スライムは護衛も兼ねて半数連れて行きます。日が落ちる前には戻ります』
ハルキは準備されていた食事を取り、着替えて家を出た。
北の東門近くの服屋へ向かう。前にレイナ姫に呼ばれた時にハルキが服を買った店だ。値段はそれなりに高いが、ちゃんとした会でも恥をかく事のない服が揃えられている。
「いらっしゃいませ」
若い女の店員がハルキに声を掛ける。
「すみません、前にも一度買ったんですが、正装に近い物が欲しいんですが」
「はい、覚えてます。確か時間が無いと仰られて試着もそこそこで出られたかと。
問題はございませんでしたか?」
「大丈夫でした。でも良く覚えてますね」
「当店ではお客様のお名前は基本的にお伺いいたします。
ですがお客様はお急ぎでしたのでお名前も伺わないまま帰られたでしょう?却って印象が強く残ってました。
今日はお名前も伺わせていただきます」
「ハルキと言います。改めてよろしく。
それで、服なんですが」
「そうですね。前も言ったかとは思いますが、仕立てると一月程かかります。ピッタリの既製品が有ればすぐにお渡し出来ます。
既製品を多少手直ししてお渡しする場合ですと数日から一週間程度です。
今回はお時間はございますか?」
「うーん、一週間位なら大丈夫かと」
「ハルキ様はスタイルもよろしいので、手直しも少しで大丈夫かと思います。
ちなみにどういった会に着られる予定ですか?」
「多分、ですけど領主様に会う事になるかと」
「領主様、ですか」
店員は服をざっと見て数着を選び出した。
「領主様とお会いされる様な方でしたらこの辺りがお勧めです。ハルキ様の様なお若い方なら少し地味なものにされた方が逆に若さが映えます。
落ち着いた色ですが生地はかなり良い物です。ハルキ様はスタイルもよろしいですし、お顔も整ってらっしゃるので良くお似合いになると思います」
勧められた服を順番に試着していく。
「どうですか? お姉さんの好みはどれですかね?」
「私の好みだとこれが一番お似合いになっていたかと思います」
ハルキは自分と店員の好みが一致したその服を買う事にした。支払いを済ませ店員がハルキに言う。
「殆ど治す必要はありませんので、三日後の夕方には出来ております」
「わかりました、よろしくお願いします」
こうして新しい服を注文したハルキが店を出て歩き出すと横に一台の馬車が止まった。
「ハルキ様」
馬車から姿を現して声を掛けて来たのは奴隷商のアンディだった。
「アンディさん、こんにちは」
「お久しぶりです、ハルキ様。どうですか? ミーユはしっかりお役に立てておりますか?」
「はい。しっかりやってくれてます。従魔も、と言ってもスライムですが良く使えていますし」
「そうですか。それは良かった。
ハルキ様ならすぐにミーユ一人では足りなくなるかと思いましたが、大丈夫でしょうか?」
ハルキは思い出した。もうすぐエミリー達と一緒に暮らす事になったのだ。家も一年で出なくてはならない。
「同居人が二人増える事になりました。それと今の家、越したばかりですが一年以内に出なくてはいけなくて。
新しい家に引っ越す時には必要になるかもしれません」
「そうですか。奴隷は仕入れが大変です。良い奴隷はすぐに買い手が付きますし。
またお時間のある時にいつでもお寄りください。ミーユの時の様にハルキ様に合う奴隷が常に手元にあるとは限りませんので」
「わかりました。また寄せてもらいます」
「是非お越しください。お待ちしております」
それだけ言うとアンディは去り、ハルキは街を南に向かい歩いた。ちょっとした工具や板などを買い、家に帰る。
『ギーコ、ギーコ』
『トントンッ』
ハルキは家の内装に手を入れていた。二人が越してくるのに少しでも使い勝手が良い様に。
日が暮れる頃ミーユが戻り、ハルキも作業を終えた。
「ただいま戻りました、ご主人様」
「ああ、おかえり。アイツらの家はどうだった?」
「思っていた以上に荒れておりました。ですがお二人も一緒に片付けてくださったので後一日有ればなんとかなりそうです。
こちらに越して来られるので処分される物も多かったですので」
「そうか。お疲れ様。
それなら明日も行って一通り終わらせて来た方が良いか。ああいうタイプは間が空くとどうやったのかわからない程散らかすかもだし」
「わかりました、ご主人様。それにしてもこの棚などはご主人様がお作りに?」
「そうだよ」
「大工や家具職人でも半日でこの様な物は中々作れません。
ご主人様はなんでもお出来になりますね」
「どうだろう、前に少しやってたからね。そういえば今日アンディさんに会ったよ。ミーユはどうかって聞かれたから、良くやってると伝えたよ。
住人が増えるからそのうちまたお願いするかもって言っといた」
「私はまだまだ働けます。無理に新しい奴隷を買わずとも大丈夫かと」
「まぁ、エミリー達が住み出したらどうなるかわからないからね。アンディさんも、良い奴隷は見に来てないとすぐに売れるって言うからさ」
「そうですか。とにかく私はご主人様と従魔のおかげでまだ余裕があります。お気遣いなら無用ですので」
「わかったよ。エミリー達に手紙で明日も行くって伝えて。それで悪いけどお風呂と食事の準備、お願い出来るかな」
「ご主人様、お願いなど必要ありません、すぐに準備致します」
そうは言いながらも先にハルキにお茶を入れるミーユ。ハルキの希望が言わずとも伝わっている様だ。
そしてハルキが久しぶりに依頼を受ける日、いつもの様にミーユが背中から抱きつき無事を祈る。
朝の混み合うギルドに着いたハルキ。
「ドーラさん、おはようございます」
「おはよう、ハルキ。今日からだったな」
「はい。エミリー達ももう来ると思います」
「そうか。先にハルキに言っておく。ハルキにやって欲しい依頼は多分ハルキにとってはそう難しいものではない。
だが、領主からの依頼でな。エミリー達に手伝ってもらうのは良いが、最後はハルキがやる様にしてくれ」
意外な事を言われたハルキはキョトンとした顔でドーラを見つめていた。
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