第26話
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ハルキは考える。
自分は何故この世界に来たのか。
そしてそもそも自分は元の世界に帰りたいのか。
過去の星の民はこの世界に来て最初から、あるいは途中からでも目標みたいなものがあったらしい。
自分に目指す所はあるのか。
元の世界に帰って何をするのか。
親兄弟、友人達には会いたい。だが元から年に一度か二度、友人達は長いと十年位は会わない奴も大勢いる。それでも会えば変わらず友人だ。
こちらに来る前、久しぶりに住む所を変える時だった。
また、逃げ出したのだ。
大した理由はない。なんとなく、もっと楽に楽しく生きれる様な気になっただけだ。
自分は苦労を知らない。
自分は努力を知らない。
殆どの事を器用に始める。たまに最初からできない事はすぐに諦める。
出来なかった事は出来ないままアラフィフと呼ばれる年齢までかわしながら生きてきた。
周りにはバレていないかも知れない。
だけど自分では良くわかっている。
自分は立ち向かった事がない。
やって駄目ならとか、駄目で元々とか、そんな事を目の前にした時、全て気のない振りをして生きてきた。
自分はキョロ充だ。
誰にもそんな事を言われた事はない。
そんな事言われるはずもない。
その言葉が出回り出した頃、自分はもうアラフォーと呼ばれる世代だった。
自分の友人は世代も幅広く、ヤンチャな奴からオタクまで何でもいた。同じ世代の奴から上の友人はそもそもそんな言葉を知らなかったし、年下の友人達からは優しい先輩にしか見えなかったはずだ。
だが自分がキョロ充という言葉を知った時、自分の事を指す為の言葉なんじゃないかと思った。
自分で自分の駄目さはわかっている。
耐える事は出来る。
頭だって悪くはない、
身体が大きくなってケンカしても多分弱くはない。
だが立ち向かえない。
結婚した事がない。
結婚出来なかった訳じゃない、そう思っていた。だけど四十才になった頃、先輩と三度目のバツがついたばかりの友人と三人で飲んだ時にそうじゃないと気付かされた。
自分はコイツと違ってまだバツもついてない綺麗なもんだと言った。バツ三の友人も失敗ばかりだと笑った。でも先輩は違う事を言った。
「ハルキ、お前よりコイツのがいい男だからだ」
自分はわからなかった。俺も結構モテてますよと言った。
「お前もモテてるだろうな。
だけどコイツに自分の人生をかけた女が三人もいる。お前にはいない。
お前に人生をかけようとした女はいたかも知れないが、結局お前は一度も結婚してない。
相手にそこまで思われなかったのかどうかは知らん。でもハルキ、お前も、お前の相手だった女達にも結局はコイツや、コイツの元嫁達みたいな覚悟がなかったんだよ」
覚悟がない。覚悟した事がない。
中学の時の部活はなんとか耐えた。だが耐えただけで努力はしていない。
だからレギュラーになれなくてもそんなに悔しくはなかった。
だから最後の試合でチームが負けて、回りが号泣している時も自分は涙は出なかった。
悔しくて涙が出る程の努力をした事がないのだ。
隣町で年上に絡まれた時も友人の様に立ち向かえなかった。
同じ様にやられてもなんとか耐えてその場にいたが。
たまたま仲の良かった友人がヤンチャだったから自分もその中にいるだけで、覚悟などなかったのだ。
誰にも気づかれる事はないかも知れない。だが自分にはわかっている。
この世界に来てからもそうだ。
なんとなく先人の星の民の言う通りにしているだけだ。
冒険者になってからも言われた様にするだけだ。だが肝心な時にいつも覚悟が足りない。
ソータさんやドーラさんが言っていた。冒険者稼業は何があるかわからないと。そう言われてわかった様な返事をしただけだ。
エミリーとグウェンと一緒の時に王都から来た冒険者に絡まれた時もそうだ。彼女達は覚悟していた。
そして今日、ミーユも。
涙が止まらなかった。
情けなくて、情けなくて涙が止まらなかった。
自分はずっと、覚悟から逃げてきた。
自分はずっと、覚悟して立ち向かう人に憧れていた。
次の街では、次の彼女では、といつも思っていた。
だが違うのだ。
本当は気づいていた。
違うのだ。
次じゃないんだ。
今だ。
今、覚悟すべきなんだ。
ずっと気づかない振りをして逃げていたのだ。
ミーユに見せつけられ、グチャグチャになった心を奮い立たせるのは今、そしてこの世界なのだ。
両親や周りの人達、この世界に来てからドーラ、自分にみんな言っていた。
「あなたのやりたい様にやりなさい」
どこまでも自分に優しい人達の言葉を胸に、歯を食いしばる。
「俺は覚悟を決めて、この世界でやりたい様に生きる。今からだ」
ハルキはこの夜、生まれて初めて駄目な自分と真正面から対峙して、生まれて初めて覚悟を決めた。




