第20話
いつもの方も初めましての方もありがとうございます。
ピーターが去ってしばらくして食事会は終わり、そのまま全員で中庭に移動した。
皆の前でドーラとハルキが雲切隼を呼び寄せる。
「これが雲切隼ですか、近くに来るまで全く見えなかったです」
「確かに普通は罠に掛かって死んでいるのしか見る事はないですからね。ドーラ、ハルキ殿、良い従魔を手に入れたな」
「ありがとうございます、ソータさん」
褒められて喜ぶハルキ。バニラは別に、という顔をして、ライムは少し嬉しそうに伸びた。
「私もいつかその様な従魔を持ってみたいものですわ、ハルキ様」
「えっと、」
ハルキがバニラを見ると、
「ワン」
好きにしろと吠えた。
「レイナ姫、宜しければ一羽テイムしてみますか?」
「よろしいのですか?私はスライムしかテイムした事ありませんけれども出来るのでしょうか?」
「ドーラさん以外に二人テイムしましたが、一人はスライムだけ、もう一人は初めてのテイムだと言っていました。多分いけるんじゃないですかね」
「わかりました、やってみます」
レイナに選んだ一羽を抱かせ、ハルキが解約する。そのままレイナが唱える。
「テイム」
皆の見守る中庭でレイナもテイムに成功した。
「姫、おめでとうございます」
「姫、お見事です」
素早く褒めるリーナとソータ。
「ありがとう、上手くいきましたわ。ハルキ様、譲って頂いてありがとうございます。大切に育てますわ。
この子なら王都まで一日で手紙を運んでくれるかしら」
「あっ、どうなんでしょうね、ドーラさん?」
ハルキはそもそも王都がどこにあるかも知らないのだ。
「雲切隼は夜も飛びます。育てばきっと王都まででも朝出せば日の落ちる前に、日が落ちてからなら日が登る前には届けてくれるでしょう」
「まぁ、そうなればお父様やお兄様が王都に行かれててもすぐ連絡できますわね。本当に素敵な従魔を得る事ができました、大切に、大切に育てますわ。今日はお越しくださり本当にありがとうございました、お二人とも」
こうして食事会は終わり、ドーラとハルキは帰路についた。
街を南に走る馬車の中でハルキはドーラに尋ねる。
「今日はこんな感じで大丈夫でしたか?余計な事言ったりしちゃいましたけど」
「まぁ、あの位なら大丈夫だ」
「でも、領主様まで現れるとは思いませんでした」
「ああ、ギルマスを通じて連絡は入れてあったんだ。レイナ姫を助けたルーキーと食事に招かれてるって手紙を書いてな」
実際の手紙には星の民と書いてあった。
「だから領主様が来たんですね。結構よく知ってるみたいでしたけど」
「冒険者の頃、領主の依頼も何度も受けていたからな」
「領主の依頼なんてのもあるんですね」
「もちろんそれなりのランクになってから別名で何度か指名されて、信用されてから呼ばれるんだよ。
当然ギルドの壁に張り出される様な依頼とは違い、内容は話せる様な事ではないが」
なるほどと頷くハルキ。
この世界の常識に疎いハルキでも、公的な機関にやらせるのではなく民間の者に頼む事のメリットデメリットは想像出来た様だ。
「後、ワイバーンの事なんですけど、見た事ないんですが普通にテイム出来るもんなんですか?」
「普通、では難しいな」
この国では貴族の配下にワイバーンを従魔にしている軍団がある。だがそれらは数十人の軍団を持ってなんとかワイバーンを削り、弱りきった所を代表の者がテイムするという方法を取っている。
無論、冒険者ではないのでランクはないが、その強さの冒険者をその数集めるのはかなり困難である。
だが、そのワイバーン達を繁殖させその子達をテイムする事で徐々にではあるが数を増やしていた。
「だが、私の場合は全く違う。私がアオをテイムしたのは冒険者になるよりも前の事だ」
冒険者になる前、ドーラがウエノ村にまだ住んでいた少女の頃。その頃から既に彼女は剣も魔法も抜きん出た強さを持っていた。
ある日ドーラはいつもより森の奥深くに入って行った。その日は獲物が少なく、中々帰る訳にはなかったのだ。そんな中少し先の高い枝がガサガサと鳴り何かが落ちてきた様な音がした。
ドーラが近づくとそこには傷だらけの蒼いワイバーンがいた。小さな個体でまだ子供の様だったが、それでも猪位なら平気で咥えて飛ぶサイズだ。
チャンスだ、と思ったドーラはすぐにワイバーンに襲いかかった。ワイバーンはその全てが大金になる。冒険者になるつもりのドーラが欲しいだけの装備を揃える事も可能だ。
そしていつか夢を叶える為に。
だが傷だらけとはいえ相手はワイバーン、一噛みされたら命はない。
自分一人で倒し切れるのかはわからない。それでもドーラは強く剣を握り向かっていく。
咆哮を上げ、尻尾を振り回して反撃するワイバーン。
拮抗する戦いが始まって丸一日ほど時間が経ち、両者が気力体力共に限界になった頃ドーラはふと考えた。
(私は何故コイツと戦っているんだろうか)
だが気を抜けば一瞬で死ぬ。そんな時ワイバーンと目が合った。殺される訳にはいかない、そんな必死な目がドーラを見ていた。
(私も、死ぬためにいる訳ではない)
先に動かなくなったのはドーラだった。ワイバーンを睨むドーラ。ドーラを睨むワイバーン。
「私の負けだ、最早立ち上がることも出来ない」
ドーラが剣を置き、肩の力を抜いた。満身創痍、その時ワイバーンも同じく、力尽きたのか首を下ろした。
ドーラはワイバーンを眺めた。自分が付けた刀傷、魔法で焼いた鱗、元からあった傷。
次に自分の身体を見る。鱗にズタズタにされた腕、尻尾に折られた足。
「フッ」
ドーラが笑う。最早なる様にしかならない。大怪我をした子供のワイバーンすら倒せなかった。
いつか本で読み父に聞かされた賢者の様に、ドラゴンを倒してみたいと思った自分の夢は今散った。
そう思った時、
「グェーーーー」
ワイバーンが笑うように吠えた。彼もまた、死を覚悟していた。
上空高くを親と一緒に群れで移動している時、ドラゴンに襲われた。群れ全体に守られた自分がなんとか逃げ延びた先がここだった。
だがそこには少女とは思えない強さの人間がいた。生かしてくれた親や仲間の為にも簡単に死ぬ訳にはいかない。だが無理だと悟った。
二つの命の間に奇妙な友情が芽生えた瞬間だった。
自分でも何故だかわからないままドーラは声を発していた。
「テイム」
ドーラの身体をボワッとした熱が通り抜ける。
こうして少女はワイバーンをテイムしたのだった。




