第9話
「ワンッ」
いい加減に起きるよ、とバニラが吠える。ライムが体の上で跳ね出す。ハルキが目覚めたのは昼を少し回った頃だった。
疲れてるのかなんなのか良くわからない身体を起こし、バニラ達に話しかける。
「今日は採集は休む予定だったし、街の散策をしよう。すぐに着替えるから少し待ってて」
顔を洗い着替えて宿を出る。歩きながらまた昨日の夜を思い出すハルキ。
(あそこまで行って手を出さずに帰るなんて、うーん、あれ?)
「そういえば、俺、元の世界でもそんな事多かった気がするわ、バニラ」
「ワン」
心底どうでもよいという顔で吠えるバニラ。道端の草を食べるライム。まぁ、そんな時もあるかとその事は気にするのはやめたハルキだった。
「確かこの辺にあるって聞いたんだけどな〜、あっ、あれかな」
ハルキが探していたのは公衆浴場である。今朝帰ってきてそのまま寝たので風呂に入っていない。宿の風呂は夕方からなので今後の事も考えて一度行っておきたかったのだ。
中に入ると一人四百ジェニー。従魔は入れないので預ける事になる。
ハルキは元の世界でも知らない街を歩いて目に入った銭湯にいきなり入るのが好きだった。
早速裸になり中に入ると時間帯がまだ早いのかガランとした風呂は老人が何人かいる程度で伸び伸びと入る事ができた。
スッキリしたハルキは表に出て、街を散策する。レストランやパン屋、カフェなど結構前の世界でもありそうな店がある。だが店の表には従魔を預かるスペースがあったり、前の道は馬車やリアカーの様なものが行き来して、やはり元の世界とは違う空気感が流れている。
武器や防具、ポーション。その他にも食材や生活用品など色々な店を見て相場を覚える。
基本的にはどれもピンキリだが、街自体の北側に高級な物を扱う店が多い。
この街の最北には領主の居城がある。そこから南門に向かって一番大きな通りがあり、東門と西門を結ぶ大通りと街の中心で交差している。
ギルドは東南のエリアにあり、水月荘や武器屋など冒険者関係はそちらにある程度固まっている。
東北のエリアで、本屋を見つける。値段はかなり高く、安いもので一万ジェニー位からだった。そこでハルキは一冊の本を買う。
色々街を見て回り、日暮れに宿に戻る。
特に大した買物はしなかったが、有意義な一日だった。
夕食を取った後、買ってきた本を手に取るハルキ。
過去の冒険者が書いた、星の民について調べた本である。
この本が書かれてから既に数十年経っているようだ。大正時代に来たと思われる大野半兵衛が姿を消してから五十年と書かれている。アニャはどうやらこの世界で最後までその人生を全うしたらしい。その他の星の民の記録は伝承で数人、姿を消した者と残って人生を過ごした者、半々位とされている。
そしてハルキが最も気になった部分がある。
それは、星の民の全員がそれぞれ目的を持っていたとされる事。ある者は力を欲し、ある者は国を興そうとし、ある者は子を欲した。
最初から目的があった者、途中で気がついた者、それぞれバラバラだが、皆がそれぞれ目指している事があった、と。
ハルキは考える。
自分は何かを目指しているのか。
何故この世界にやってきたのか。
元の世界ではそれなりに楽しくやってきた。大した苦労もせず、人にも職にも恵まれていた。
何故そんな自分がこの世界に来る事になったのか。この世界ですべき事があるのか。そしていつの日かそれに気付き、元の世界に帰るのか。
答えの見つからないまま、夜は更けていった。




