第28章 明かされる秘密
感情が溢れて泣いてしまった私を見て、彼は酷く慌てていた。
「すみません! また僕は喋りすぎましたでしょうか。何度も怖がらせてしまって大変申し訳ない……」
「ち、違います、ベルナールさんは悪くなくて、私が勝手に色々考えてしまって」
大きく深呼吸を繰り返し、あなたが何度も戦地の夢を見ることに思い当たってつらくなったのだと告げると、彼は気にしないでくださいと私を慰めた。
「ローデリクは信念を持ってそこに向かったのです。大切なものを守るために戦うという男の矜持は理解できます。あの夢は、そういう時代だったのです」
しかし、物語や映画を観るのと体感するのでは訳が違う。武器を持つという選択肢が薄まったこの時代に、なぜ夢で見なければいけないのか。そう落ち込む私とは違い、ベルナールさんの目は意欲に満ちていた。
「今日の検証でひとつの仮説が浮かび上がりました。触れた時に浮かび上がる白昼夢は同じ光景を別人の視点で見たものである可能性です。つまり、我々の見たものを組み合わせれば、あの国での出来事を再構築できるかもしれません」
「私たちが見たものを組み合わせる……」
「はい。物事を複数の視点で確認できれば、得られる情報量も増えます。そうすれば調査もさらに進むでしょう」
彼は目を輝かせて得られた結果に興奮している。何を差し置いても解明に突き進むことを優先するその様は、さすが研究者だと私は苦笑した。
「分かりました。一緒に年表を作るようなものでしょうか」
「ああ、そうですね。夢の中の時間はルーヴェル王国の歴史の中でどの位置にあったものなのか、いずれ分かるかもしれません」
彼は持ち込んでいたノートをめくり、箇条書きの夢の出来事を目で追っていく。
「夢は時系列ごとに見るわけではないので、順番の判断に迷いがありました。特に僕の夢は頻繁に国内を移動していましたから、似たような光景も多いのです。あなたの見る夢が、それを補完する手助けになるかもしれない」
それを聞いて、私は先週の白昼夢の内容を思い返していた。王女様とローデリクはお互いを思い合っていたことは確実だ。けれど病状を伝えないでとあれだけ訴えていたのだから、彼は何も知らなかったのだと思う。
王女様が必死に訴えたその願い。
ただ夢を見ただけの自分が、話して良い秘密だろうか。
黙りこくってしまった自分を、彼は何も言わず見つめていた。ローデリクの感情を夢に見る彼に衝撃を与えそうなこの秘密。夢は私たちに何を伝えたいのか。
――私は心の中で王女様に謝って、口を開いた。
「ベルナールさん、私が見た先週の白昼夢について話したいと思います。けれど、これを聞いたあなたはひどくつらいことかもしれません。……どうしますか」
彼は軽く目を見開き、しばらく逡巡していたが、覚悟を決めたように黙って頷いた。私は胸に手を当てて深く息を吸い、そして大きく吐き出した。
「先週の白昼夢は、息ができない胸の痛みで始まりました。胸が酷く痛んで耐えきれず、王女様は倒れました。気がつくとベッドで、横にはお兄様が居て、手を握られていました――」
「倒れた……? オレリアが……?」
彼の顔は、予想通り血の気が引いている。
「はい。お兄様はローデリクを呼び戻すと言いました。けれど王女様はそれを必死で止めたのです」
「…………な、なぜ?」
「たぶん、その時ローデリクは戦場にいたのでしょう。倒れたという報告で彼が動揺するのではと、それが原因で彼に何かあったら耐えられないと、そう言って伝えないでほしいと懇願していました……」
「そんな……確かにオレリアは病弱だったが、倒れるほどだったとは……」
私は、慎重に言葉を続ける。
「王女様はこうも言っていました。いつものように、休めば良くなる。そして笑顔であの人を出迎えるのだと」
彼はその言葉に眉間をきつく寄せる。
「つまり、倒れたのはその時だけではない。そしてそれを隠していた……」
彼の言葉はそこで途切れた。
目を固く瞑り、頭を鷲掴み、絞り出すように叫ぶ。
「なぜ! どうして言ってくれなかったんだ! オレリア!」
私は瞬時に理解した。
眼前で悲痛の叫びを上げるその人は、その時、ベルナールさんではなかった。
そこにいたのは、ローデリクだった。




