第23章 王国の残響
ここ数日のミレイユは、お昼を手早く済ませて図書館の資料を探ることを繰り返していた。金曜日にはベルナールさんと夢の調査をする約束をしている。それまでに実在したとされるルーヴェル王国の情報を少しでも集めたかった。
歴史書に残らない国なら、残る場所は別にある。
滅ぼされた国は、民話になり、歌になり、宗教の伝承として生き続けることもある。
考えうる可能性をひとつひとつ追っていき、今は亡き王国のかけらを丁寧に拾い集めていった。
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前回と同様に、閉館後の静かな図書館で資料を広げる。私が調べた結果を披露するとベルナールさんは感心したように唸り、私は得意満面だった。
「視点を変えるというのは、行き詰まった研究でもよく使われる手法ですが……なるほど、騎士道物語とは思い付かなかったです」
「滅ぼされたのか、吸収されたのか。どちらにしても周辺の強国が関係したはずです。それらの国では戦勝を引き立てるために、敵国として英雄譚や吟遊詩人の歌に名前が出てくることはよくあるんです」
そうして調べることができたのは、周囲に複数の隣国を持つ中規模の国で、周辺国と頻繁に衝突があったこと。栄えていた国であったこと。しかし産業革命時代の荒波に耐えきれず、強国に統合されてその名は歴史上から姿を消したということだった。
彼は眼鏡の端を持ち上げて自身のノートを手に取り、その一部を指差した。
「頻繁に国境付近で衝突があったというのは、僕の夢と一致します。これは夢の中でローデリクが戦場に向かった記憶の一覧です」
私はそれを覗き込み、驚くほど多い出征回数に息を呑んだ。
「小さな小競り合いが頻発し、長期に渡る睨み合いで国は疲弊していたんです」
私の夢にはそんな部分は出てきていなかった。王宮の奥で安全に護られている裏で、そんな争いがあったとは。
夢の中では、いつも彼は当たり前のように隣にいた。その当たり前が、死と隣り合わせの戦場の上に成り立っていたのだと知る。
「……ローデリクは少なくとも戦死はしていないはずです。有利な条件で講和に持ち込んだ功績が認められて、総騎士団長の地位を賜ったのだから」
ずんと落ち込んでいた私は、それを聞いてほっと胸を撫で下ろす。
「ローデリクは、とても強い騎士だったんですね」
ベルナールは何も言わずに頷き、そしてため息をついた。
「我々の夢が実在の世界だったことは、ほぼ間違いないとみていいと思います。しかし資料を探っても、なぜこの夢を見るのか、という部分は全く解決しないことがわかりました」
確かにそうだ。
私はトビアスの言葉を思い出す。
『その国で生きていたってことだろう?』
資料を探したところで、余程の偉人でもなければ一個人の記録などそうそう出てくるものではないし、事実、夢の登場人物の名前はどこにも見当たらなかった。私たちの夢の調査は、暗礁に乗り上げたように思えた。
「……その、全く方法が無いわけではないのですが」
おずおずと申し出る彼の一言に、ぴんと背筋を伸ばして聞き返す。
「えっ? それは何ですか?」
「……精神的負担を考えると、あまり取りたくない方法ではありますが」
その言葉に首を傾げると、彼は言った。
「あなたは忘れてしまったのですか。手が触れた時に見た光景を」




