第14章 重なる情景
司書として働く、どこにでも居そうな若い女性。落ち着いた身なりだが、言葉を交わすと好奇心の旺盛さが垣間見える。
髪も、瞳も、声も、笑い方も違う。それでも、視線を向けるたび『彼女』の面影が脳裏を掠める理由は何か。
いくつかの仮説を立てる。
しかしそれは都合のいい、安易な答えを貼り付けたいだけなのではないか。そもそも、そんな非科学的なことなど確かめようがない。
そう、確かめようもないのだが……
それでも更なる情報を求め、自らの足を動かす。向かった先に居る彼女に、時間を空けて欲しいと声をかけた。
*****
夕方の公園のベンチで司書のミレイユさんと待ち合わせた。お互い神妙な顔つきで向かい合って座る。やや静かな時間を経て、あれから夢の進展はありましたか、と問いかけた。
「いいえ。でも私、ベルナールさんに聞きたいことがあって」
「聞きたいこととは、なんでしょう」
彼女は覚悟を決めたような力強い目で口を開く。
「ベルナールさん、あなたは本当に、私が言ったような夢を見るのですか?」
自分にとってはあまりにも基本的な部分に疑問を投げかけられ、理解できずに彼女を見やる。
「それは先日説明したかと思いますが」
「でも、それって、私が話した内容に合わせているだけじゃありませんか?」
不信感を隠さずに睨め付ける彼女の視線を受け、反論しようとしたが――先日の一部始終を振り返って、そうかと腑に落ちた。
「なるほど。今まで僕はあなたに聞いてばかりでこちらから詳細な情報開示をしませんでしたね。これでは確かにあなたを騙そうとしてるようにも見える。そこは申し訳ありませんでした」
黙り込む彼女に言葉を続ける。
「では、手が触れた時、僕に見えた景色を説明しましょう。あなたはドレスを着ていて隣には男性が居た。そう教えてくれましたね」
彼女は神妙に頷く。
「女性のドレスは淡い空色で、男性は黒い軍服ではありませんでしたか」
「……そう、です……」
「男性は左腕を貸してエスコートし、女性はレースの日傘を差していた。……どうでしょう? あなたの見た景色と一致しますか」
彼女の目は、大きく見開いている。
「ダイヤモンドリリーの話もしましょう。あなたは男性が跪いてダイヤモンドリリーの花束を渡してくれたと言いました」
目を閉じ、自分の脳内に蓄積された記憶の引き出しを開ける。
「そこは、温室のような場所ではありませんか。建物はガラス張り」
「…………」
「男性はやはり黒の軍服で、その肩には真紅のマントがあったはずです。そして――」
「もうやめて!」
口を閉じ、勢いよく立ち上がった彼女を観察する。彼女の表情は青ざめ、ふるふると細かく震えた両腕は自身を強く抱き締めていた。
「わかりました……もういいです……」
絞り出したような声でそう呟き、彼女は逃げるように走り去った。
振り返りもせず駆けていく、その後ろ姿。
常識では考えにくい事態に立て続けに直面すれば、恐怖や拒否感を抱くのは当然の反応だ。
彼女はまた会ってくれるだろうか。
もしかすると、全力で拒まれるかもしれない。
……喋りすぎたか。
失敗したなと唇を噛み締め、眼鏡を外して眉間を押さえた。




