第12章 月下の花束
夢の章
その日、謁見の間に差し込む陽の光は、厳かで静謐なものであった。
「――これより、我が国すべての盾を統べる王国総騎士団長の任命式を執り行う」
高らかに響く国王の宣告。
大勢の視線が集まる中央で、国王の前に跪き頭を垂れる彼の姿。
大柄で強靭な体躯を包むのは黒い騎士団の制服であり、襟元や袖口には繊細にきらめく銀糸の刺繍が施されている。
彼の腰に帯びられた長剣は、冷徹な鉄の鈍い輝きを放っており、肩にかかる総騎士団長の証である真紅のマントは、ずしりと重い国の命運を全てその背で受け止めているように思えた。
ゆっくりと顔を上げた彼の、短く切り揃えられた黒髪の隙間から鋭い瞳が覗く。
毅然とした琥珀の瞳が、一瞬だけわたくしを捉えて微かに揺れた気がした。
誰もが、国を救った『最高の盾』の誕生を称えている。
弱音も吐かず、実直に戦功を重ね、ついには騎士団長にまで上り詰めたその勇姿。
覚悟に満ちたその生き様が眩しく、誇らしく、そして胸が締め付けられるほどに美しかった。
*****
夜の帳が下りる王宮の庭園。
そこの一角に設えられ、青い月明かりに照らされたコンサバトリー。
昼間の式典とは打って変わり、穏やかな表情の彼が優しくエスコートする。
ゆったりとソファに腰掛けたわたくしの、その足元に跪く。
大きく無骨な手には、白く輝くダイヤモンドリリーの花束。
「殿下。私は、幼き頃から貴女だけをお慕いしておりました」
抑えられた低い声が、わたくしの耳を優しくくすぐる。
「貴女の隣に立つに相応しい男になることを目標としてきました。そして今日、ようやくその資格を得たのです。――殿下、私の生涯をお受けいただけますか」
幾度となく夢見た、儚き願望。
ほのかな希望に縋っては、その度に愚かな心を戒めてきた。
わかっていたのだ。
それを告げれば、彼は生涯をわたくしに捧げてしまうのではと。
――そう、まさに今の彼のように。
けれどわたくしは淡い光を放つダイヤモンドリリーの花束を抱きしめた。
もう、手放すことなどできない。
頬を伝う雫は嬉しさからくるものでもあり――
――罪悪感の涙でもあった。




