第10章 夢の符合
「少し、座りましょうか」
ベルナールさんがベンチに座るよう促す。あれから私の頭の中は大混乱だった。彼の手に触れると、なぜか見たことのない情景が目の前に浮かび上がってきたのだから。
いや、見たことのない情景ではない。
おそらくあれは夢の――
感情が入り乱れて収拾がつかず額に手を当て宙を睨む私に、彼が問いかける。
「あなたは今日、ダイヤモンドリリーの花の絵を見ていましたね。なぜあんなにも真剣に見ていたのですか」
「あれは――夢に出てきた花なのです」
「それは、もともと知っていた花?」
その問いに首を振って否定する。
「いいえ。光を浴びてキラキラと輝く花なんて、さすが夢だなあ、綺麗だなあって……本当にあるなんて知らなかった」
「僕も、最初は知りませんでした。夢で見た美しい花が現実に存在することを」
ぞわりと鳥肌が立つ。
この人も私と同じことを経験していた……?
そのまま彼は話を続ける。
「あなたは他にどんな夢を見たのですか? 先程は横に男性が居たと言いましたね。例えばその人のことなどは――」
夢に出てくる人。
それは心から愛しく感じていた男性の姿。
「夢では何度も出てきてたんです。たぶん同じ人だと思うけれど、私の夢では朧げで、はっきりとは分かりません」
そう、と彼は落胆し唇を結ぶ。
「人物の名前なんかも出てはこないのかな」
「はい、夢の中での言葉も不明瞭で……あ、でも、琥珀色の瞳の男性だっていうことだけは覚えています」
「琥珀色の……?」
そう繰り返した彼は眉を上げた。
はいと頷いて、今まで誰にも……トビアスにも言えなかった夢の話を打ち明ける。
「私、ほとんど同じ場面ばかり夢に見るんです。琥珀色の瞳の男性が私に跪いて、ダイヤモンドリリーの花束を渡してくれるんです」
私の言葉に彼は息を呑み、テーブル越しに身を乗り出してきた。
「花束を? その時、彼はなんと言ったのです?! その後は覚えていませんか?!」
先程までの落ち着いた話し方とはガラリと変わった剣幕に驚いて硬直し、ぷるぷると首を振る。
「ご、ごめんなさい。それ以上は分からなくて」
彼ははっとなり、失礼しましたと謝って居住まいを正したが、明らかに視線が落ち着きなく揺れている。
お互い、冷静ではいられないのだと思った。こんな奇妙な現象を目の当たりにすれば、それは仕方がないように思える。そして私は、先ほどから気になっていたことを口にする。
「あの、ベルナールさんが繰り返し見ていた夢って……さっき見えた情景はずっと見ていた夢だったって、それ、本当ですか」
ふたりの間に静かな時が流れる。
彼はおもむろに眼鏡の両端を片手で押し上げ、真剣な声色で話し出す。
「先程あなたが見たという景色は、僕が今まで見てきた夢と一致します」
ごくりと喉が鳴る。
「ダイヤモンドリリーのことも、今あなたが説明してくれた景色も。常識的には考えにくく、証明しろと言われても困るのですが、偶然というにはあまりにも一致しすぎている」
『検証』で何かが分かるかと期待した。
分かったのはひとつだけ。
私たちは同じ『何か』を見ているということ。
そしてその信じ難い事実を前に、私は地面が大きくゆれるような感覚を覚えた。




