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アンナと牛乳

アンナさんナイスバディ。

「俺は……嫌です」


 俺が返事をする前に、千賀がそう答えた。


「どうして? そしたらセンガくんは思う存分ヤマムラくんを襲っても死ななくなるし、一緒にいられる時間も長くなると思うわ。血の味は変わるけど」


 アンナは意外と本気で誘っている。

 俺はアンナの言い分も一理あると思った。

 だが俺は、このまま人間のまま、千賀の隣にいたい。

 しかし、千賀の言い分も気になるので、俺は千賀の答えを急かした。


「山村は、俺の大事な人です。山村に嫌な事をするのは俺も嫌だし、俺は山村にこのままでいて欲しい」


「俺も人間のままでいたいですね。お誘いはとてもありがたいんですが」


 千賀の告白の後に、俺からもアンナに断りを入れた。

 アンナは「それなら仕方ないわね」とあっさり引き下がった。


「私のお乳には人を同族に変える力があるから、もし必要な時は私を呼んでね」


「はい、ありがとうございます」


 アンナは豊かな胸を摩りながらそう言った。

 俺はアンナの態度に素直に感謝した。


「だから、ヤマムラくん。早くその牛乳を飲んでくれないかしら。私にも誘惑なのよ、それ」


「あ、そうなんですか、失礼しました」


 俺は急いで牛乳を飲み干した。

 恐らく、千賀などの後天的に人間を同族に転化させる種族は、人間の繁殖欲と同じような、そんな欲求があるのかもしれない。


「俺は今まで人間以外の存在を知らなかったんで、千賀で勉強していますが、何か失礼があったらすいません」


「良いのよ、私だって人間の事を全部知ってるわけじゃないし、何かあったらこうして言葉で伝えれば良いんだから」


 アンナはまたフフフと微笑んだ。


「本当は、君のヤマムラくんを少しだけ味見してみたいなって気も……嘘嘘、やらないわ。大丈夫だからね」


 アンナの言葉に千賀は殺気を放ったのか、アンナが少し怯えている。


「多分この調子だと、君のセンガくんの味見もダメ? 分かったわ、分かったから何もしないわ」


 今度は俺の千賀を食われる発言をされたから、俺が立ち上がって千賀の側に寄った。


「冗談、冗談よ。それに、私たちとかってそうやって獲物を分け合ったりもするから……これからもよく聞かれる事になると思うから、免疫をつけてあげようかと思ってね」


 そう言うアンナがどれだけ本気かは分からないが、とりあえず俺と千賀は矛を収めることとした。

 ふと、ネットのチスイコウモリの項目に、飢えた仲間に血を分けるという記載があったなと思い出した。


「お詫びじゃないけど、今度私の同族に会った時は『あなたに平穏がありますように』と先に言うと良いわ。そうすれば、相手は貴方を襲えなくなるから」


「それ教えてもらって大丈夫なんですか?」


「別に有名な話だから、気にしないで良いわよ」


 アンナは俺たちを見て微笑んでいる。


「本当に貴方達は仲良しね。妬いちゃうわ」


「これは、俺たちが一つ一つ積み重ねた結果ですから」


 俺の言葉に千賀も頷いた。

 千賀は何を思ったのか、俺を持ち上げて自分の上に乗せた。


「山村は俺のもの」


 アンナの話を聞いて、俺が失われることを想像したのだろうか。

 俺は「別にいいけど、ちゃんと先に言えよな」と言いながら、千賀の腕を俺の前に回した。


 その後暫く談笑してから、その日は解散となった。


「今日は楽しかったわ。また会いましょうね」


「山村は俺のもの」


 千賀がそんなことを言うので、俺は腕を引っ叩いて「ちゃんと挨拶しなさい」と言うと、また千賀は俺に覆い被さった。


「すいませんね、まだこいつこうなってから二ヶ月も経ってないんですよ」


「あらそうだったの?! それにしては落ち着いているから……そうね、まだ色々と不安定な時期よね。よく親が貴方を放置しているわね、ヤマムラくんがいるからかしら?」


 アンナは大変驚いている。

 きっと、普通はこの時期は親と一緒に暮らすのが普通なのだろう。

 そうなると、俺が千賀を教授から引き離している悪い奴になるのか。


「教授はいつも千賀を見守っている感じもしますから、どうなんですかね。今度会いに行く時に聞いてみます」


「それが良いわね」


 そう言ってアンナは財布を取り出して札を千賀に渡した。


「これ、今日の私の分ね」


「受け取れない」


 千賀は断った。


「この前のは私の奢り。それに、今日は対等にお話したかったから」


 千賀はそう言われて渋々とお金を受け取った。


「じゃ、末長く貴方達が幸せな事を祈ってるわ」


 店の外に出てから、アンナはそう言って去っていった。


「いい人だったな」


「そんな事ない。山村は俺のもの」


「分かったから。帰ったらお前に付き合ってやるから、今は普通に歩け。邪魔だから」


 俺はしっしっと千賀を遠ざけると、千賀はショックを受けている。


「山村は、俺が邪魔……?」


「今はな。ほらさっさと帰るぞ」


 俺が進もうとすると、千賀は俺に手を差し出した。

 手を繋げと言いたいのか。


「ほら、何かをしたい時は言葉じゃないと伝わらないぞ?」


「山村と、手を繋ぎたい」


「仕方ないな」


 俺は千賀に手を貸してやって、駐車場まで歩いていった。

トゥルエンまっしぐら。

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