めいしと連絡
俺は食器を片付けていると、すぐさま千賀が飛んできて、「山村は休んでいて」と俺と交代した。
俺は布巾を持って机を拭き、会田に「少し待っていてくれ」と告げて筆記用具を取り出した。
「待たせたな」
「ううん、全然」
会田は早速、鞄から名刺を二枚取り出した。
「こっちが槍先生、こっちが政府ね」
俺は会田から差し出された名刺の内容を紙に写した。
「千賀。どちらから連絡する?」
「父さんから」
「分かった。お前から連絡してくれ」
千賀は自分のスマホで教授の番号を打って、スピーカーホンにして電話をかけた。
電話はすぐ繋がった。
「もしもし、父さん。千賀です」
「睦月か。会田至門から聞いたのか」
「はい」
千賀はその会田が目の前にいることを言わずに話を進めた。
「私に会う気になったのか」
「はい。どこへ行けば会えますか」
「そうだな……私の家がある。そこが良いだろう。◯◯公園から追跡してくれ。お前なら分かるだろう」
「分かりました」
「日時は、今週末の日曜日が良いだろう。丁度新月に近い。その日は空けておく」
「ありがとうございます」
「お前に会える日を楽しみにしている。お前の餌者にもな」
電話はそこで切れた。
「千賀」
「本当は俺は山村を連れて行きたくなかった。だが、父さんは山村の存在に気づいていたみたいだ。山村は一緒に来てくれるのか?」
「寧ろ俺からついて行くと言いたいくらいだ。お前の実家にも行ったしな」
「山村くん、既に実家に挨拶済み……?!」
会田が何か驚いていたが、「全然違う感じだったぞ」と言っておく。
「あ、俺も行ってみたいから行くね」
さすがにこの名刺を持ってきてくれた上で、この話を聞かせておいて置いてけぼりにはできない。
会田の同行が決定した。
「政府の方に、連絡しとく?」
「そうしたい」
俺にはずっと考えていることがあった。
千賀を取り戻したいがために、教授が実力行使に出たり、俺たちに嘘をついたり煙に撒いたりする可能性だ。
政府の人間を連れていけば、その可能性がぐっと低くなる。
教授は政府の人間を非常に嫌っている様子だったが、千賀がいる以上、逃げることはないだろう。
俺がその考えを話すと、千賀も頷いた。
「そうだな。それが良い。俺一人で二人を守れる自信はない。教授には戦場を生き延びられるだけの強さがある」
「そうと決まれば、ここに電話してみるか」
千賀は頷いて、スマホからまた同じように電話をかけた。
「あーん? 至門くん……じゃない? 何かご用?」
女性の声だ。
「早川さん」
会田が反応した。
「至門くん? この番号の人は?」
「私です。千賀と申します」
「千賀さん? 誰?」
「むーちゃんです。僕の大事な友達」
「あ、あぁ! 至門くんが言ってた子ね。それで何か私に用事あるの?」
「今週末、むーちゃんのお父さんに会いに行くんだけど、誰か一緒に着いてきてくんないかなって」
「えー? 何? 個人的な話なら後にしてよ」
「早川さん。前話したけど、むーちゃんは僕の研究対象だよ」
「……マジか」
気のせいかもしれないが、ジュルリという音がしたような気がした。
「いつ会える?」
「違う違うそうじゃない」
会田がツッコミに回っているのが新鮮だ。
それだけ早川という人物がなかなかな人物なのだろう。
「むーちゃんの親、『教授』に会いに行くのに、誰か着いてきてくれる人いないかなって」
「分かった、今探してみるよ」
電話は保留になった。
俺が口を開く前に保留が切れた。
「とりあえずウチ……国家公安委員会警察庁警備局特殊事件部の中には、総務課、研究課、生活課、対策課があるんだけど、職務として怪異と会うとなるとね……今回の場合だと総務課の連中じゃないと理由づけが難しいのよね」
「はぁ」
「だから、教授とも面識のある一宮さんが適任かと思うんだけど、如何せん『行きたくないー!』って言っているのよね」
「一宮……? 神保さん?」
俺は教授と会った時、神保が『俺はまだ政府に顔が効く』と言っていたことを思い出した。
「うん? そうね、神保さんね……あんたら、神保さんと知り合いなの?」
「あ、はい」
「それじゃあ一宮は引っ張れるわ」
「おぉ」
「別に戦闘しに行く訳じゃないんでしょ?」
「はい」
これには千賀が答えた。
「じゃあ私も着いていくからよろしく」
「よろしくお願いします」
会田が電話に頭を下げた。
「で? どこに行けばいい?」
「◯◯公園と言うので、日曜日、◯◯駅に夜八時ごろでも大丈夫ですか」
俺が勝手に時間を決めてしまったが、それでいいよなと千賀に視線を向けると頷かれた。
これでいいらしい。
「大丈夫。よろしくね。じゃ」
ツーツーと電話が切れた。
「では、会田。日曜日はよろしく頼む」
「分かってるよ、ちゃんと準備していくからね」
会田は家の玄関で靴を履いている。
「会田のお陰で助かった」
「いいのいいの、今日はおいしいものと、後はいいもの、見せてもらったからねぇ」
会田は千賀のことを思い出したのか「フフフ」と笑っていた。
「忘れてくれ……」
「日記に書いてずっと忘れないようにするから安心してね」
「うう……」
千賀は会田には敵わなさそうだ。
俺もきっと、会田にはなかなか勝つのが難しそうだ。
「じゃ、またな」
「またねぇ」
そうして会田は去っていった。
「千賀さ、俺はお前が会田の血が好きじゃないって言った時、会田ではお前を支えられないって思ってしまったんだ」
俺は千賀に語りかけた。
千賀も真剣に聞いてくれている。
「だがそうじゃなかった。会田はお前の昔からの友達で、今も一番の友達なんだな。それだけで十分だったんだ」
「そうだな」
千賀は頷いた。
きっと、今の千賀には俺が言っていることが全て伝わっている訳ではないだろう。
だがきっと、いつかは分かってくれることを俺は祈っている。
「それじゃ、寝ようか」
「そうだな」
俺は身支度をして、布団に入った。
続けて千賀も布団に入ってきた。
「会田と飯食えて楽しかったな」
「あぁ。楽しかった」
「これからも、こういう日があっていいかもな」
「そうだな」
千賀はどことなくこそばゆそうだ。
こういう付き合いが、これからのこいつには必要だ。
俺が死んでも死ねなくなっても、どちらにしろ周りの人間は死んでいくんだからな。
「そのためには、Mk.2とお前のことを教授に聞きに行きたい。そして、あの部屋で何があったのか。お前はどうして吸血鬼にされたのか。それと……これはいいか」
「何? 山村、気になる」
「お前の父さんと、これからどんな付き合いをしてくかってことだよ」
「父さんと?」
千賀は不思議そうな声を出した。
「俺たちは戦いに行く訳じゃないんだ。元凶倒してはい終わり、平和になりましたとさって訳にはいかない。俺たちには日常があって、これからのことを考えるために、話を聞きに行くんだからな」
「それは……そうだな」
千賀も布団の中から同意した。
「そのためには寝て、また明日に備えなくちゃならないな。明日、誰かに会いに店に行くんだろ?」
「あぁ」
「じゃ、おやすみ」
「おやすみ、山村」
山村が会田をこうして受け入れていくのもいいですね。




