すしとアスパラガス
お昼ご飯は回らない寿司屋に行こうとしたのだが、混み合っており、この炎天下で待つのは難しいということで、近所まで帰ってきてちょっといいチェーンの寿司店に入ることとした。
少し遅めの時間ではあったが、店内にはそこそこ人がいた。
今日が日曜日だからだろう。
俺はまずコハダと赤貝を頼み、千賀は産地直送のネタのシャリ抜きを注文した。
よくよく考えるといい寿司屋でシャリ抜きなんて頼んだら顰蹙を買いそうなので、こういうところで良かったのかもしれない。
「山村はまずコハダを頼むんだな」
「そうだぞ、コハダで口をさっぱりさせてから、次に貝類を頼む。後は適当にエビや青魚、ブリなんかを頼んで、最後にマグロで締めるんだ」
「そんな拘りがあるんだな」
「おうよ」
千賀はとにかく産地直送をリピートしていた。
それしか食べられないからな。
「千賀は何のネタが好きなんだ?」
「やはりなるべく新鮮なネタが美味しいと感じる。魚の種類はあまり関係ないが、歯応えがある方が好きだな」
「俺さ、前沖縄行った時に夜光貝の盛り合わせとかセミエビの刺身とか食ったんだが、お前はそういうのも好きそうだな」
「そうだな、山村と一緒に食べてみたいな」
「俺も、お前という財布がいて心強いよ」
「山村、俺はただのお前の財布だったのか……?」
千賀が俺の冗談を間に受けて揺れているから、俺は慌てて「違う違う」と頭を撫でてやった。
「俺の大事な人を単なる財布呼ばわりする訳ないじゃないか」
「だがさっきしてた……」
すっかり千賀はいじけてしまったから、俺は、まるでダメな彼氏のように、
「帰ったらお前の食事に付き合ってやるからさ」
と囁いてやると、千賀はすぐに元気になった。
全く、現金なものである。
「お会計、5132円となります」
千賀は何も言わずにお金を支払った。
俺よりも給料が高いからと言って俺は千賀に甘え過ぎているかもしれないので、今度は俺が物理的に千賀を甘やかしてやろう。
俺たちは夕飯の買い物をしてから、そのまま家に帰った。
「千賀さ、今日は少し早めに飯食って夜の散歩にでも行かないか? ゆっくりと、俺と一緒に近くの公園まで」
「行こう」
千賀は食い気味に返事をし、早速夕飯作りに取り掛かろうとした。
「早い早い。まだ午後二時だぞ」
「そ、そうか」
千賀は気が早いが、太陽はまだ南中している頃だろう。
「俺さ、この前のゲームでさ、お前みたいなキャラで、吸血鬼ロールプレイの世界で遊んでるんだけど、見ていかないか」
「見る」
千賀は早速自分の布団の上で椅子になったが、俺は座り難いと思ったので「こっちだ」とソファの上まで誘導してから座った。
「ほら、千賀そっくりだろ?」
「うーん?」
「ドット絵だからな。でも肌と目と髪の色は似せたんだぞ」
「ほぅ」
そのまま俺はゲームを進めていく。
「この千賀はな、太陽にクソ弱いんだ。見てろ、すぐにここに墓を立ててやる」
地上に出たキャラは、ものの数秒で死亡して墓が立った。
「俺はもう少し太陽に強くて命拾いした」
「そうだな」
俺は素直に肯定した。
「ほら、これどうだ。コウモリになって飛べるんだ。お前はこういうことできるのか?」
「いやできない。ただ、相手の認識をずらして霧のように見せることはできるらしい。俺にはまだ無理だ」
「そうなんだな。意外と物理法則に則っているというかなんというか」
「あくまでこの物質世界に生きている以上、あまりそこから外れたことは難しいが、我々は認識で決定付けられるところもあるから、その部分も含めて怪異なのだろうな」
「ほぇー」
千賀はなんとなく難しいことを言っているが、もしかしたら招かれないところに行くのを嫌がっていたのもそういうものなのかもしれないな。
「そろそろ夕飯を作る時間か?」
16:30くらいになったので、ゲームは中断して夕飯の制作をすることとした。
本日の夕飯は、マグロの山かけとアスパラの豚肉巻きである。
まず千賀は、お湯を沸かしてブロッコリーを茹で始めた。
俺は山芋を擦るのは千賀に任せて、茹でたアスパラガスの繊維を取って肉を巻く作業を手伝っていた。
「いいか、山村。タンパク質変性が急激に起こると、細胞外にうまみ成分ごと肉汁が出てしまうんだ。それを避けるためには中華料理のように一瞬で強い火力で炒めるか、弱火でじっくり火を通すかの二択となる。自宅の火力は低いから、必然的に後者になるな」
「なるほどな」
俺は最低火力に設定した。
しかし千賀は「もう少し火力が強くないと焼けない」と段階を一つ上げた。
「フライパンにスペースがある。ついでに横でキノコでも炒めるか」
千賀は俺に舞茸を差し出した。
俺は手でバラバラにして、フライパンに入れた。
暫くすると焼き上がった。
「ソースは何が良い? 山村ならタレ系がいいか?」
「そうだな、それがいい」
「分かった」
千賀は手早く調味料をフライパンに入れ、加熱して焼けたアスパラ巻きの上にかけた。
「完成だ。召し上がれ」
「いただきます」
俺が飯を食べている間に、千賀は俺の弁当を詰めてくれた。
明日からまた仕事だからな。




