かぞくと役割
家族編のまとめも入っています。
別に、縁を切るとか家を出るだけが正解じゃないと思うんです。
「俺が焚き付けた感じもあるんだが、お前はあれでよかったのか? 後悔とかはないのか?」
「まだ分からない」
「まだ分からないのか」
千賀は俺の言葉に運転しながら頷いた。
「俺は山村を選んで、正解だったと思っている。しかし同時に家族を捨てたというのが正解なのかが分からないんだ」
「お前、別に家族捨ててないよ」
「へぇっ?!」
千賀が変な声を出した。
「なんだお前、金輪際家族に会えないと思っていたのか。なんか縁を切るとか云々言ってきたのはあっちであって、千賀はそれに頷いていないだろ? だから別にあんたの父親が体調崩したとか、正月とか、そんな時に帰って顔を出せばいいんだよ」
「何故?」
「なんでも何も……顔を見たかっただけとかでも別にいいだろ。家族なんだからさ」
「家族……」
千賀は考え込んでいる。
本当に千賀にとっては、家族というのは自分を押し込んで役割に徹するためだけの仕組みだったのだろうか。
「ならば俺が教授に会いたいというのも、単にそんな気持ちであるからというだけなのだろうか」
「ここで教授同列で語るのか、お前は」
「何か変な事を言ったか?」
実の家族は会いたいと思っていなさそうなのに、教授には会いたいとかどういうことだよ。
「とりあえず話を戻すと、お前さ、まだ分からないって言ってただろ。もし、お前が気持ちを整理したくなったら、俺に話してくれれば手伝ってやるからさ。別に焦んなくてもいいよ」
俺は千賀を大事にしたくなったので、「トイレ行きたい」とまたパーキングに寄ることを頼んだ。
「千賀、少し充電するか?」
トイレから帰って発進しようとした千賀に、俺は声をかけた。
千賀も少し期待していたのか、嬉しそうに頷いた。
「俺はどうしたらいい?」
「山村の手の脈を測りたい」
「分かった」
俺は迷わず右手を差し出したので、千賀は驚いた。
「どうして」
「お前がしたいと俺に頼んで、俺が了承しただけだ。ほら、帰る時間遅くなるぞ」
千賀はいいのかなと不安がりながら俺の手首を少し強めに握った。
俺自身も脈を感じる。
「山村はあったかいね……」
「お前が冷たいんだよ」
俺は空いている左手を伸ばして、千賀の頬に触れた。
「今日は嫌なことたくさん言われて辛かっただろ。よく頑張ったな。帰ったらご褒美やるよ」
「いいのか?」
千賀は疑り深く俺に聞いた。
「いいよ。これで一つ片付いたしな」
俺は、後でこの発言を少し後悔することとなる。
家に帰って、千賀は荷物を俺の家に運び込んだ。
さすがに少し手狭になったが、まだ千賀と遊べるだけのスペースは確保されている。
千賀は実家モードが抜け切らないのか、俺に料理を手伝わせようとしない。
「千賀、俺にも料理を手伝わせてくれよ」
「俺がやるよ。俺の仕事だ」
「違う。俺は千賀に料理をやらせてやってる亭主にはなりたくない。お前が好きで料理しているならいいんだが、そうじゃないなら俺の分は俺が作る」
「何故?」
「別にここでは働かなくてもいいんだよ、休んでな」
俺は強引に千賀を台所から引っ剥がしてソファに座らせた。
今日はサケのムニエルを作っているらしい。
とりあえず焼けばいいだろ。
「うーん、微妙」
俺が作った料理は、千賀のものより何段も味が落ちた。
千賀はほら見たことかという顔で俺を見てくる。
「やっぱり俺が作る。山村には美味しいものを食べて欲しい」
「地味に失礼だけど、そういうことなら分かった。頼むよ、千賀」
千賀は俺に頼まれて何だか嬉しそうだ。
「気になっていたんだが、何故山村は俺の兄弟喧嘩で驚いていたんだ?」
千賀は俺の食事中にそんなことを聞いてきた。
「あれは兄弟喧嘩じゃなくてDVだ。警察沙汰だよ。それを兄弟喧嘩とかいうラベルを貼るからおかしくなるんだよ」
「DV」
「そうだ。普通家族でも、そうやって相手には触れない。殴るなんて言語道断だよ」
「そうなのか」
千賀は感心している。
「おい、こんなんで感心してたら先が長いぞ。どんだけ世間離れしてんだよ」
「だけど、母さんはいつもそれが普通と言っていたから……」
「そういうマインドコントロールなんだよ」
「マインドコントロール」
千賀は俺の言葉を復唱した。
やはりピンと来ていないようだ。
「俺の知ってる普通はな、こうして双方が言葉でコミュニケーションを取るものだ。相手にやりたくないことを強要したり、相手を決めつけたり、枠に押し込んだり、コントロールしようとしたりするのは、暴力と同じなんだよ」
「成程な」
「分かってないだろ」
「はい」
千賀はなるほどとか言いながら分かっていないらしい。
「何だ、適当に相槌を打つのはこの口か」
俺は箸を置いて千賀の頬を引っ張った。
「ほうひょふ?」
俺は即座にやめた。
「そうだ、これは暴力だ……」
俺は教育を失敗したと少し落ち込んだ。
千賀は俺の肩をぽんぽんと叩いて、
「俺は山村に構ってもらって嬉しかったよ」
そんな風に俺を慰めた。
「知ってるからやってるんだが、これが相手によっては暴力となることを覚えておいてくれ」
「分かった」
千賀は素直に頷いて「風呂洗ってくる」と離席した。
俺はその間に洗い物をしていたが、やはり千賀が料理をする方がこういうところまで効率的になる。
俺は何か悔しくなりながらも、いつか千賀の隣に立って料理をしてやるぞと意気込んだ。
語るに落ちたな、山村!




