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千賀の家族 ⑴

普通に結構きつい機能不全家族の描写があるので、トラウマなどある方はこの話は飛ばしていただいた方が無難かもしれませんね。

 俺はこちらに歩いてくる三人が千賀の家族であると直感的に理解した。

 二人は高齢の男女で、一人は千賀と同じくらいの男性だから、千賀の父母と弟で間違いないだろう。

 俺は立ち上がって彼らを迎えようとすると、それよりも早く千賀が立ち上がっていたことに気づいた。


「こんにちは、初めまして。千賀先生の部下の山村と申します」


「あぁはい」


 まず、千賀の父が返事をした。

 いや挨拶返せよ。


「山村さんですか。なぜここへ?」


 次に、千賀の母が反応した。

 まず挨拶を返すところから始めてくれ。


「睦月。この人誰?」


 最後に千賀に向かって弟は話しかけた。

 俺にすら返答しないのか。


 千賀一家のファーストコンタクトは、早くも座礁しかけていた。

 俺はまず、千賀母の疑問に答えることとした。


「千賀先生は眼の病気を抱えており、俺はそのサポートをさせてもらってる手前、今回も不安があるとのことでついて来ました」


「ならば何故、睦月に運転させたのですか。駐車場に車がありましたよ」


 この母親、意外と正論で来るな。

 どこまで嘘を吐き通せるか不安になってきた。

 千賀は千賀で、弟に対して「私の職場の後輩の山村です」と感情を乗せずに返答していた。

 千賀父は無言だ。


「運転も、いつでも交代できるようにです」


 俺はボロが出ないようにそこで切り上げた。

 千賀は弟に「どうして連れてきた?」と聞かれている。

 おいお前目の前の話聞けよ、今俺が言っただろ。

 千賀は弟に向かって、


「山村は俺の大事な人です」


 と紹介した。

 俺は机の下で思い切り千賀の脛を踵で蹴った。

 お前、なんでここで爆弾発言した?!


 しかし、当の千賀は何故俺に蹴られたのか分かっていない。

 確かに最近他の人にずっとそう説明していたからな……ってなるか!


「大事な人って何だよ」


 千賀弟が今度は俺に対して噛みついてきた。

 俺は柔和な笑みを浮かべて、千賀の弟に対して、


「生活の上で俺が千賀先生のサポートをさせてもらっています」


 とそつなく答えた。


「山村さんと睦月の関係は? もしかして、爛れた関係と言うならば……」


 千賀母は追求の手を緩めない。だが、その先の言葉は、千賀父の「腹減った」の一言で最後まで聞けなかった。


「父さんは何が食べたいですか?」


 千賀が口を開いたと思えば、千賀父にそんなことを聞いた。

 千賀父は「肉が食べたい」と言い、千賀母に備え付けのタッチパネルを渡すと、いくつか注文をした。

 パネルは千賀母から千賀弟へ、そして俺の手の届かない充電場所に戻っていった。

 おい!

 俺たち注文してないぞ!


「千賀」


 俺が小声で囁くと、千賀はタッチパネルを取ってくれた。

 俺は注文する前に一応注文確認をしてみたら、ずらりと並ぶメニューの数々が目に飛び込んできた。

 俺は一度に注文し過ぎるのは良くないと思い、自分の注文は諦めてタッチパネルを戻してもらった。


「お前やっぱ男が好きだったの? ウケるんだけど」


 千賀弟がそんなことを言い出したので、俺は笑顔で無視を決め込んだのだが、千賀は沽券に関わると弟に反論した。


「違う。山村だから大事なんだ」


 千賀は弟と話すのも嫌そうだが、そこだけはどうしても譲れないのか、一歩も引かない。

 弟の方も何だがおかしいと思ったのか、何が楽しいのかニヤニヤしながら、千賀を突き始めた。


「山? 何だっけ。お前キモいな」


「そうすか」


 俺はどこ吹く風と受け流した。

 左手で千賀の腿を押さえつけながら。


「だから私は早く結婚しろとお見合いまでさせたのに、どうして睦月はそこだけは頑固だったのよ」


 千賀母の説教が始まった。


「普通ね、30を超えたら結婚してないとおかしいの。あんたは本当にいつまでも普通じゃないわよね。で? 私にいつ孫の顔を見せてくれるの?」


 千賀母、普通にきついタイプの母親だった。

 この会話の中で、普通という自分の概念の押し付け、相手を自分の概念に押し込む、そして親子関係を使った脅しまでかけてきている。

 しかも現状、千賀はもう子を望むことはできないのに。

 俺は、口を出すべきではないと重々承知しながらも、千賀のために言ってやるしかなかった。


「千賀さん、千賀先生はいつも真面目に仕事をされていますよ」


「お前には聞いてない」


 俺はピシャリとそう言われて固まってしまった。

 よく、初対面でここまでのことを他人に言えるもんだ。

 千賀は俯いて黙って嵐が過ぎるのを待っている。


 そこで、注文の肉が運ばれてきた。

 そして何故かその皿の全てが千賀の方に置かれていく。

 そして千賀も何も言わずにテキパキと肉を焼き始めた。

 お前は食べないだろうが!


「貸せ」


 俺は千賀に肉を触らせてなるものかという勢いでトングを捌き始めた。

 俺だって、俺だってなぁ、ある程度は肉を焼けるんだよ。

 こんなの見ていられない。


「おーおー彼チャン優しいねぇ、こんな奴放っておけばいいのにさ。そんなにコイツの具合がいいのか?」


 俺は千賀弟を殴りたくなったが、何とか堪えて、


「すみません、初対面の方からの侮辱は慣れていないので、やめてください」


 とお願いした。


「おっ? 俺は母さんを悲しませるヒデェ奴に敢えて言ってやってんのに、お前は侮辱とか言ってくんだな、嫌な奴」


 ダメだ、千賀弟は相手にするだけこちらが消耗するタイプだ。

 千賀は目を見開いたまま、ひたすら肉を焼くマシーンとなっている。

 俺は余った肉に手をつけようとしたら「それ」と千賀父に横から掻っ攫われた。

 危ない、箸渡しになるところだった。

 そして、千賀マシーンが千賀父、千賀母、千賀弟、空き皿のローテーションを回し切って肉の注文が一旦終わった時、俺は無理やり千賀を連れてトイレに駆け込んだ。

この次の話から山村がやり返します。

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