サービスエリアと予約
サービスエリアは適当に寄ったところだったので、とても小さなコンビニとトイレがあるだけだった。
俺は千賀を置いてトイレに向かい、千賀は外で俺を待っていた。
こうして見ると本当に美人だな。
いつも血色が悪いのと、俺に向ける表情が残念なだけで。
道行くトラックの運転手の方でもチラチラと千賀を見ている人がいる。
今の千賀は物憂げな表情で口から細くため息を吐いているようで、ある意味非常に目のやり場に困る。
俺はそんな千賀が俺の大事な人であることを見ていたくて、少しの間トイレの壁から様子を伺っていた。
しかし、それがバレないはずがなかった。
千賀は俺のことをいち早く見つけると、ずんずんと歩いてきて、しかし、トイレの前で止まった。
男性用トイレだから別に千賀が入ってもいいのにな。
「山村、俺を焦らさないでくれ」
千賀は誰が聞いても勘違いをする言葉を俺の方に投げかけた。
俺は更に行き辛くなった。
だが、これ以上この色男が何を言い出す前に回収した方が身のためであると直感し、何気なくトイレを出て「待った?」と軽く声をかけた。
「待っていたよ」
千賀は俺に似て、最近正直にものを言う。
俺は「それでいい」と返し、二人で何気なくショップに入って行った。
「そういえば、お土産買うの忘れてたな」
「そうだな」
千賀はまだ気が進まないようだ。
「俺の金で、俺が挨拶するという体で俺がお土産を持って行く。これならいいだろ」
俺は素早く千賀を言い包めて、適当なお土産を買って袋に詰めてもらった。
「千賀、発進するのは少し待ってくれ」
俺は千賀を止めた。
そして、千賀のシフトレバーに乗った手の上に俺の手を重ねた。
「お前は俺に依存してきているから、俺がいなくなることに耐えられないんだろ」
「……そうだ」
千賀は自分を認めた。
これなら、次の段階に入れるかもしれない。
「俺はお前でないと同時に、お前は俺じゃない。だから、お前は別に俺にいちいちお伺いを立ててから何かしなくてもいいんだからな」
「それは俺がしたくてやっているから良いんだ」
「うーん……」
そう言ってしまえばそうなのだが、意味が通じているようで通じていない。
「俺はな、千賀。お前自身が好きなんだ」
「えっ」
千賀は言葉を失って、俺の顔を穴が開くほどガン見した。
「お前の愛情、お前の気遣い、お前の欲求、お前の嫉妬。そんなのを全部ひっくるめたお前が大事で仕方ないんだ。だから、お前は俺にならなくていい。だがそれは、お互いの理解のために言葉を尽くさないことではないからな」
「うー、ん??」
千賀はいまいち理解できていない様子だ。
「まぁ、今は、お前が俺のために自分を曲げる必要はないってことを伝えたかったのと」
そう言って俺は千賀の手首を掴んで、俺の胸に当てる。
「辛い話ばかりしてしまったから、お前を甘やかしてもいいかなって思った。それだけだ」
「へ?」
千賀はまだ自分の置かれた状況を理解できていない。
そういえば、今までずっと俺は千賀が甘えるのを受け入れてきたばかりで、俺から甘えさせたことは膝枕を含めて数回しかない。
千賀は今までの自分の欲求が俺の権利に抵触して蹴られていることを、自分が悪いことをしたと思っていただろうと思う。
それが突然、俺に受け入れられたのだから、驚くのも当然だと思う。
俺も俺で、千賀に甘えるのは苦手だな。
千賀は俺の胸に手を当てていることが未だに信じられないようで、エンジンキーにかけた手ごとフリーズしてしまった。
そして俺の胸が刻む正確なリズムに、本能が顔を出し始めた。
だが前日までに大分欲求を消化していたからか、あくまで控えめに瞳孔が広がり、しかし太陽光が眩しくて右手でサンバイザーを下ろした。
だがサンバイザーではどうにもできず、恐らく興奮を抑えるためか、俺が胸に当てた手はそのまままたシフトレバーに戻り、千賀は何事もなかったかのように運転を始めた。
それから、千賀は何も言わなくなった。
いや、違う。
俺が何か言おうとする度に運転が乱れるから、俺が次第に何も言わなくなったのだ。
そして黙っていると昨日の疲れも出たのか、うとうとしている内に目的の飲食店へと辿り着いたようだった。
「どうしてここなんだ?」
某有名チェーン焼肉店で停まった車に対して、千賀に質問した。
「ここで待ち合わせになる」
時間はまだ12時を回っていなかったので、少し車の中で待機となった。
「お前、何か食えるのか?」
「無理して食べて、後で吐くか謎物質を排泄するかになる予定だ」
それは、非常に嫌なのではと思い千賀の顔色を覗くと、何だが本当に嫌そうである。
俺だって健康診断もないのに下剤なんて飲みたくない。
それもこれも、千賀は断れなかったんだな。
「お土産は後で家に行ってから渡すでいいよな」
「多分な」
千賀は自信なさそうに頷いた。
俺は千賀の食べ物問題について考えまくって、思いついた案を話してみた。
「以前やったように、予め食べていたと言ったら?」
「それはしたくない。母は、そんな子を許さない」
「は? お前今41だろ?」
「あぁ、親にとってはいつまでも子は子だと言っていた」
それは自称することではないだろう。
なるほど、早速暗雲が立ち込めてきている。
俺は重くなる気を奮い立たせて、千賀のために、そして俺のために、千賀の家族に挨拶に行った。
「5名でご予約の千賀様ですね。ご案内します。お連れの方は後からいらっしゃいますか?」
「そうですね、先に席で待っていても良いでしょうか」
「はい、お先にご案内いたします」
店員さんの案内で、俺たちはテーブル席に通された。
千賀が何だがそわそわしている。
「母は席順に拘るから、山村の隣だと何か言われるかもしれない」
「別に何言われようがお前は俺の大事な人なんだから気にすんなよ」
そう言って、俺は二人分の皿のある列に千賀を押し込んで外側に俺が座った。
千賀が一点を見つめていると思えば、向かい側の席のおじさんが千賀と俺をチラチラと見ていた。
視線が合うと、フッと視線を逸らされた。
何が原因なのか考えるのも面倒だったのでやめた。
マジで千賀の家族、不穏。




