066 ぶきと予告
本日18話目なのかなぁ。
独特なあの蝋燭の匂いに、千賀は一層警戒心を強めたようだ。
「そう警戒しなくても良い」
神保が千賀にそう声をかけた。
千賀は唸っている。
「人に唸るな」と俺は千賀の頭を引っ叩いた。
神保は俺の態度に驚いていた。
通されたのは、広々とした個室だった。
神保は改めて俺たちに挨拶した。
「久しいな。神保だ」
「お久しぶりです、神保さん。俺は元気です」
「それにしては、少し顔色が良くないと見える。無理せず、俺達に頼ってくれても良いからな」
神保は本当に気遣わしげに俺にそう言ってくれた。
「もしかして、直接会おうというのも、俺たちの様子を見たかったからですか?」
「……ああ、そうだ。正直、俺は山村君が心配だったが」
そこで神保は千賀を見た。
「千賀さん。なかなか伝える機会が無かったが。あの時は申し訳なかった」
神保は千賀に頭を下げた。
千賀は驚いて目を白黒させ、「山村」と俺にどうしたらいいかと頼ってきた。
「お前な、俺に聞いても仕方ないだろ。俺は人間側なんだから。そうじゃなくて、お前があの時バンバン撃たれたこととかを許せるかどうかって話だから、自分で考えなさい」
俺は千賀をそう諭した。
千賀は以前撃たれた場所を触り、片目を瞑って考えている。
「神の下の行い、私は許します。だが、俺は、分からない」
なんかこいつネットミームみたいなことを言い出したぞ。
俺は考え込む千賀をよそに、訳が分からないだろう二人に説明した。
「あのー、千賀はですね。簡単に言うと遊◯王の主人公のように、『俺』と『私』が混ざってはいるんですが別人格として存在してるんですね」
「はぁ」
氏家は興味がなさそうだ。
逆に、神保は興味をそそられたのか、千賀をじっと見つめている。
千賀は少しずつ、言葉を選びながら話し始めた。
「あなた達が俺たちの平穏を壊したことが、一つの契機になった。それで俺は山村と離れ、しかし今は一緒に暮らしている。過去は変えられない。だから、俺は許す、許さないではなく」
千賀はそこで言葉を切って、マスクとサングラスを机に置いた。
「次、俺の敵になったら殺す」
部屋の温度がぐっと下がったような気がした。
俺は唐突に客人に失礼をかました千賀の口に指を突っ込んで、「お前これで噛んだら絶交な」と伝え、どんどん口の中に手の指を突っ込んでいった。
千賀は「あがが」と言っているが、俺はやめる気はない。
俺は暫く千賀を苦しめてから、「千賀、頭貸せ」と頭を掴み、
「うちの奴が失礼しました」
という言葉と共に千賀の頭を無理やり下げさせた。
俺は立ち尽くしている三人に先んじて席に座り、用意されていたタオルで千賀の唾液を拭き始めた。
そこでやっと気がついたように神保が腰掛け、氏家も神保に促されて椅子に座った。
しかし、千賀は座らない。
「千賀」
俺が促しても動かない。
「どうしたんだ」
「氏家が武器を持っている。俺はそんな奴の前で安心して寛げない」
神保がバッと氏家を見た。
「当たり前やろ。だって化け物に会いに行くのに、丸腰で行くやらありえへんて」
氏家はあくまで武器を抜くつもりはないからか両手を挙げている。
「氏家。上官命令だ。武器を机の上に置け」
俺はあれ、と思った。
以前は対等な立場っぽかったと思ったのだが。
「はいはい、わかりましたわぁ。武器を出したらええんやん?」
ガタンと置いたのは獣も捌けそうなナイフ。
「まだある。腰」
千賀の指摘に、「かなわんわぁ」と氏家は小さなナイフを机の上に置いた。
神保は「立て」と即座に氏家を立たせた。
そして、氏家の頭を鷲掴みにして、
「本当に申し訳ありません」
と頭を下げさせた。
千賀はその謝罪に、鼻をフンと鳴らすとどかりと椅子に座った。
俺はこんな千賀を見たことがなかったので、新鮮な気持ちになった。
「千賀は氏家が武器を持っていたから警戒していたのか?」
俺は千賀にそう聞くと、「そうだ」と言ってずいと近寄ってきた。
「俺は今日ほどお前を連れて来て後悔した日はない」
神保は氏家にそう言った。
氏家は「へいへい」とあまり気にしていないようだ。
「気を悪くしたようなら申し訳ないが、この店を選んだのは、俺達が何かあった時にではなく、千賀さんの方が何かあった時に揉み消せるようにという配慮からだった」
神保が本当は言うつもりがなかっただろうことを説明してくれた。
「つまり、こいつが我慢できずに俺を襲っても、この店なら口止めできるからってことですか?」
「そうだ。ただ見ている限り、俺の杞憂ではあったが」
そう言って神保は氏家を見た。
「俺が今日は丸腰であるように、氏家にも武器の携帯は許可しなかった。俺達は戦いに来た訳ではないからな。千賀さんを見て分かった。この人は、俺達が追いかけていた時とは別物だ。結果的に、俺の判断は正しいと証明された訳だ」
千賀は俺のいないところで相当レベルアップしていたらしい。俺はそれが頼もしくもあり、それだけ辛い思いをしたということであるから、千賀が労しくなった。
後で甘やかしてやろう。
「千賀さん。改めてではありますが、氏家の同席を許してもらえますか?」
神保は千賀に問いかけた。
千賀はまた俺の方を見るが、俺は首を振って何も言わない。
「許す」
千賀の一言は重かった。
隣にいる俺さえも背筋に冷たいものを感じる程であった。
「だが、お前には、目の前にご馳走があっても食べられないという罰を与えたい」
神保は千賀に頷いた。
「氏家、今日は飯抜きだ」
「えげつなぁ……」
氏家はがっかりしているが、千賀は何だか誇らしそうだ。
俺は少し考えると、理由が分かった。
千賀は氏家に、自分と同じ状態にするという罰を与えたかったのだろう。
千賀はやはり千賀なのだなと俺は微笑ましくなった。
「好きなものを頼んでくれ」
神保は俺にメニューを渡した。
千賀は俺にひっついてメニューを覗いている。
きっと、自分で作る時の参考にするのだろう。
実は俺は牛よりも豚、豚よりも鶏が好きなので、あまり高くない大葉おろしポン酢チキンステーキを選んだ。
「遠慮しなくていいんだぞ」
そう言われたが、遠慮するものは遠慮する。
それは隣に強い千賀がいてもである。
神保は店員さんを呼び、俺の注文と共にタワーハンバーグ定食を三段で頼んでいた。狩人は胃も強くないとやってられないのか。
ちなみに店員さんは机の上のけったいなナイフに対して何も言わなかった。
教育が行き届いている。
神保は氏家にメニューを見せることすらしなかった。
ちゃんと約束は守ってくれるようだ。
氏家はとても面白くなさそうな顔をしていたが、俺はボウガンで麻痺させられたことを根に持っているので、いい気味だと思っていた。
珍しい千賀の横柄な態度、これはいいですねぇ。
山村は鶏肉派。
チキンは美味しいですね。
ねー。




